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専門分野が異なるロボット系研究室のコラボレーションが生み出す相乗効果。機械システム工学科の教授陣が語る

東京都立大学システムデザイン学部は、「機能」だけでなく「感性」を取り入れた総合的な観点からシステム化技術を教育研究する日本でも珍しい学部です。

「情報科学科」「電子情報システム工学科」「機械システム工学科」「航空宇宙システム工学科」「インダストリアルアート学科」の5学科からなり、それぞれの専門分野で日々研究を重ねています。
その中の「機械システム工学科」の3名の教員が、それぞれの研究分野や各専門分野を横断したコラボレーションの実例、研究室の今後について語り合いました。

ロボットの知能研究から、ハードウェアの開発まで。多岐にわたる研究

久保田研究室では、構成論的・システム論的・計算論的な観点から、ロボットの知能化に関する研究を手掛けています。具体的には、人に優しいロボットパートナーや移動支援ロボットなどの研究開発です。

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久保田直行 教授
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空間全体で人を測り、「できる」を育むトレーラ型リビングラボ

和田研究室では、福祉施設、小売店舗や住空間で活躍するロボットの研究開発を行っています。また、心理・生理・社会学的側面から開発したロボットを分析し、その有用性の評価も行います。

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和田一義 准教授

わかりやすくいえば、和田研究室では、「世の中でどのようなロボットが必要とされているか」という要求分析に始まり、「それをどのように社会実装するか」という、入口から出口までの研究開発をしているといえますよね。

そうですね。動物型ロボットによる心のケア(ロボット・セラピー)の効果測定や、運用の方法などを研究しているのも特徴の一つです。現在は医療・福祉に関するロボットのほか、コンビニエンスストアの業務自動化のシステム開発の研究にも力を入れています。

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キューっとかわいい声で鳴いて動いて、瞬きまでするロボットセラピー用のゴマフアザラシ(動物型ロボット)
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研究室で実装のテストを行うコンビニエンスストア向け商品自動陳列ロボット

武居研究室では、工場などで重量物の搬送や組立を手助けするアシストロボットシステムや、熟練技能者による触作業の計測・解析・自動化、また、水上・水中で駆動するロボットなどの研究開発を行っています。

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武居直行 准教授

武居研究室はハードウェアの設計開発が強いですよね。3Dプリンターや加工機械などの設備も充実していてうらやましいです。

武居研究室のモノづくりは本当にすごいですよ。学生たちがみんな、それぞれ思い描いていた理想の設計を、きっちりと仕上げていて、いつも驚かされます。また、革新的研究開発推進プログラムImPACT*1の「タフ・ロボティクス・チャレンジ」に我々3研究室で参加していましたが、武居研究室のモノづくりがあってこそのシステムインテグレーションですね。

*1 内閣府の科学技術・イノベーション政策の司令塔である総合科学技術・イノベーション会議が、ハイリスク・ハイインパクトな研究開発を促進し、持続的な発展性のあるイノベーションシステムの実現を目指したプログラム

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研究室で撮影した、工場などでドアの開閉などを行う研究開発中のロボット

ありがとうございます。我々はモノづくりに力を入れていますが、久保田研究室は、ソフトウェアの設計開発というイメージでしょうか。

久保田研究室は、知能化技術や最適化技術に優れていますよね。

どの研究室も幅広い研究を行っていますが、強いて分けるとすれば、久保田研究室では進化計算や最適化に長けた学生が、そして和田研究室ではソフトとハードを組み合わせることに長けた学生が育っている印象です。それぞれにカラーがありますね。

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キャンパス内に日本最大級のローカル5G環境を実現。「横の繋がり」が生むシナジーとは?

我々は研究室間で連携して一つのプロジェクトに取り組むことがよくあります。最も多いのは、和田研究室の要求分析の結果を受けて、私の研究室がソフトウェアを開発し、武居研究室でハードウェアの設計開発をするという流れですね。

他の大学から見ると、このように大学内でそれぞれの分野でコラボレーションができるのは珍しいといわれます。

ロボット系の研究室が集まっている大学はほかにもありますが、異なる分野の専門が集積しているのは珍しいのかもしれません。

他の大学に比べて、我々は縦割り型ではなく横にゆるく繋がっていて、いつでもコラボレーションできる環境があるのが特徴ですね。

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実際に、企業の依頼など様々なプロジェクトが研究室間のコラボレーションを経て形になっています。最近の大きな事例でいえば、東京都による「『未来の東京』戦略ビジョン」の一環として、都立大のキャンパス内に日本最大級のローカル5G環境を整備しましたね。

私の研究室ではそのローカル5G環境に新しい物流システムを構築する研究を進めました。配送ロボットや自動陳列棚を用いて売り場管理を自動化し、「全ての人の手元まで」欲しい商品を届ける仕組みを作ることが目標です。

これまでのロボット技術と知能化技術を高度に組み合わせることで、5Gをどのように活用し社会実装するかという課題に挑んでいます。特に、複数のカメラを用いて多視点から同時にトラッキングして、知能化技術による超実時間解析ができれば、新しい科学的発見に繋がるかもしれませんし、今後、ますます必要となるパーソナルモビリティの安全性を高めることもできます。

最近では、このような応用に寄った研究やプロジェクトが増えています。基礎研究だけ、応用研究だけというのではなく、基礎から社会実装まで、どの研究室でも関わることができるのは、機械システム工学科にとどまらず、システムデザイン学部全体の魅力といえると思います。

研究室の壁を越えて協働したほかの例でいえば、経済産業省と新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が主催するロボットコンテスト『ワールドロボットサミット』もあります。「人とロボットが共生し、協働する社会の実現に向けて」をテーマに、競技会と展示会で構成され、私たちも研究室の枠を越えたコラボレーションで参加しています。

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2021年に参加した『ワールドロボットサミット』の様子

日常的な交流に加え、共同研究や実際のプロジェクトのコラボレーションも多く、相乗効果は非常に大きなものだと感じます。最近では、内閣府のムーンショット型研究開発制度*2の目標3「2050年までに、AIとロボットの共進化により、自ら学習・行動し人と共生するロボットを実現」に関するプロジェクトに参画し、さらなる未来を見据えた研究開発も展開しています。

*2ムーンショット型研究開発制度は、我が国発の破壊的イノベーションの創出を目指し、従来技術の延長にない、より大胆な発想に基づく挑戦的な研究開発(ムーンショット)を推進する国の大型研究プログラム

社会との接点が多い分野だからこそ、卒業後の進路も多種多様

私の研究室は15年ほどの歩みになりますが、機械、電気、インフラ、鉄道など様々な分野に卒業生が羽ばたいていきました。最近では、「自動車レースの開発チームのエンジニア」というユニークな進路に進んだ学生もいました。

私の研究室の卒業生は、大手メーカー、電気系、設計やシステム開発、それから産業ロボットメーカーなどへの就職が多いです。

本当に多岐にわたりますよね。私の研究室からもそれらの他に、シンクタンクや家電、通信や自動車業界など様々です。やはりそれだけ我々の研究と社会との接点が多いということなのでしょう。

システムデザインや機械システム工学は、今後さらに需要が高まっていく分野ですからね。

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共につくり共に夢中になれる日々を

人工知能に関する研究とロボット開発は両輪で、幅広く学び体験できる場が、ここにあります。無我夢中でモノづくりや研究に没頭したい人たちと、これからいろいろな夢を叶えていきたいですね。

たまに「研究室のコアタイムは?」との質問を受けることがありますが、研究や開発をしたくて集まっている学生ばかりなので、いつでも研究室は開いていて活気あふれる状態です。熱意のある方と一緒に日々を過ごしていきたいですね。

そうですね。まだ具体的にイメージできていなくても、漠然と「何かをつくりだしたい」と思っている方々を私たちは待っています。

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