【研究発表】世界最高レベルの「白」を印刷する新技術を確立

報道発表
  • 世界最高レベルの白色を高分子に生成する現象を発見
  • 超高精細な印刷へ展開であると同時に超撥水も実現
  • 有害な金属顔料やPFAS撥水素材を、環境にやさしい本技術で置き換えることが期待される 

 

 京都大学アイセムス(高等研究院 物質―細胞統合システム拠点:WPI-iCeMS)のEasan Sivaniah教授、Qin Detao特定助教、東京都立大学の柳島大輝准教授らの研究グループは、革新的な高分子加工技術ディープフォーム フォトリソグラフィ*1 (DeepFoam Photolithography, DFP)を確立して、顔料や塗料を使うことなく世界最高レベルの白色を生成することに成功しました。本研究成果は、2026年9月10日(日本時間)に、 英国科学誌Natureに発表されます。 

 

<概要> 
 現在、実用的な白色顔料に求められる水準の「白」を発色する材料は非常に限られています。薄く伸ばして塗布しても十分な白色を維持するには、高効率な光の散乱を実現する必要があるからです。例えばチョーク(炭酸カルシウム)は白い粉を固めたものですが、塗料としては半透明な白色にしかなりません。現状では、鉛白や酸化チタンなど、有毒性が懸念されている材料しか十分な白色を生成することができません。 
 本研究チームは、有害な金属の代わりに一般的なポリマー素材を用いて、酸化チタンと遜色のないレベルの白色を生成することに成功しました。このポリマー素材は顔料として利用することはもちろん、解像度20,000dpiの超高精細で白色を印刷することも可能です。また、副産物として超撥水構造の生成にも成功しました。この撥水素材は、自然環境で分解されにくいことから近年急速に規制が進むPFASの代替材料として期待されます。 

1.背景

 鉛白(えんぱく、lead white、塩基性炭酸鉛 2PbCO3•Pb(OH)2)は、古代エジプトから20世紀初めまで、最も長く広範囲に用いられた白色顔料です。鉛白は、塗料、絵画から「おしろい」まで、かつては人類文明に不可欠な材料でしたが、蓄積性の神経毒である鉛が引き起こす鉛中毒の問題から、次第に使用が禁止されるようになりました。かわって現在白色顔料として市場のシェアの大半を占めるのは酸化チタン(二酸化チタン、TiO2)です。20世紀なかばに、工業的に安価に製造できるようになった酸化チタンは、鉛白より安全で、塗料、インク、繊維、ゴムなどの工業製品だけでなく、化粧品、医薬品、食品などにも白色顔料として使用されています。 
自然光は様々な波長成分をもつ電磁波の集合です。材料は、ある色の波長の光を反射し、それ以外を吸収することで、その色が発色します。例えば赤い光を強く反射する材料は、赤色顔料として使用できます。白色を作るためには、通常の色とは異なり、すべての波長の光を均等に反射・散乱する必要があります。 
数ある材料の中から酸化チタンが白色顔料として選ばれている理由は、その透明性と高屈折率性です。まず、透明であることは特定の波長の光を吸収せずに、全ての光を均等に散乱できることを意味します。さらに酸化チタンは屈折率2.4と透明材料の中でも最高の屈折率をもちます。まわりの環境に対する屈折率差が大きければ大きいほど、顔料の表面での光の反射が大きくなります。すなわち、酸化チタンは全ての光を均等に強く反射・散乱する性質を持ちます。これが、その製造コストの経済性と化学的安定性も合わさって、現在白色顔料として広く普及している理由です。 
ところが、近年酸化チタンの遺伝毒性への懸念が指摘されるようになりました。「遺伝毒性の懸念を排除できない」と評価した欧州食品安全機関(EFSA)の勧告により、世界に先駆けてEUでは2022年に食品添加物としての使用が禁止されました。同様の規制が、各国に波及するか、医薬品や工業製品まで拡張されるかは、現時点では不確定ですが、代替となる顔料の探索が各国で進められています。 
白色を生成するには、すべての波長の光が複数回ランダムに散乱され、方向情報を失い、角度に依存しない反射を実現する必要があります。このような光学現象は厚いマテリアルでは簡単に達成されます。例えば一般的なコピー紙は、厚さ約90マイクロメートルのランダムなセルロースのネットワークから構成されています。90マイクロメートルのコピー紙は白く見えますが、同じ紙でも厚さが30マイクロメートルしかないグラシン紙やティッシュペーパーは半透明です。すなわち紙は砕いても白色顔料として利用できません。薄い形状や細かいパウダー状で効率よく白色を生成するには、効率よく広帯域の光を散乱する設計が不可欠です。 
ところで、自然界には鉛もチタンも使わずに白色を生み出している生物が存在します。中には、モンシロチョウ(Pieris rapae)やアカシマシラヒゲエビ(赤縞白髭蝦、学名: Lysmata amboinensis)など高い発色効率をもつものが存在します。特に、東南アジアに生息するコガネムシ科の甲虫の一種であるキホキルス属(Cyphochilus)は、キチン繊維の作る3次元ネットワークによって、わずか厚さ5-10マイクロメートルで良質な白色を実現しています。 
これまでキホキルス属のキチン繊維構造をPMMA(アクリル樹脂)で再現した例など、いくつか生物模倣の構造白色の研究例が報告されていますが、いずれも安定した顔料の生成までは至っていません。従って、印刷までを視野にいれた構造白色の材料研究は未踏の領域でした。 
本研究グループは、今回、汎用的なポリマーに微細なフォーム(発泡)構造が発生する現象を発見しました。そのフォーム構造は高効率な光散乱能力をもち、高精細な白色印刷に展開できます。研究グループはその手法にディープフォーム フォトリソグラフィ(DeepFoam Photolithography, DFP)と名付け、その発生機序と応用について報告しました。 

2.研究内容と成果

 ディープフォーム フォトリソグラフィ(DFP)は、ポリマーのフィルムもしくは、ファイバーにフォーム(泡状)構造を発生・印刷する手法です。DFPはUV露光と、現像という2つのステップから構成されます(図1)。光架橋剤が添加されたポリマー材料に、UVが照射されると、ラジカルが発生して、ポリマーの切断と架橋が同時に進行します。切断によって低分子の切断片と、架橋によって高分子ネットワークが生成します。 
ラジカルが発生して、ポリマーの切断と架橋が同時に進行します。切断によって低分子の切断片と、架橋によって高分子ネットワークが生成します。

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次に露光したポリマーを、ポリマーに対して弱い相互作用をもつ溶媒に浸すと、ポリマーの表面から溶媒が浸透圧によって浸透していきます。そのとき、切断によって生じた低分子生成物は、もとのポリマーより溶媒に溶けやすいため、溶質として働き、周りの溶媒を選択的に引きつけます。溶媒の浸透フロントでは切断生成物のまわりに溶媒が選択的に集まることで、ポリマーが局所的に相分離*2を起こすと考えられます。この核生成・核成長型の相分離の発生で泡状の構造が形成されます。
 やがて、浸透圧がバランスして膨脹がとまると、フォーム構造の合体・オストワルド*3熟成が支配的になると推定され、フォームの数は減少していきますが、個々の泡状構造の大きさは増加していきます。適切なUV露光の条件を選ぶことで、ポリマーの最適な切断と架橋のバランスが達成され、フォーム構造の形成が実現します。

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 以上のフォーム構造生成は、溶媒中で形成されますが、構造を壊さずに空気中に取り出し乾燥させることができます。図2の電子顕微鏡によるフィルムの断面写真が示すとおり、表面から内部に向かってフォームが小さくなる構造が形成されます。表面のほうが泡状構造の合体が早く進むためにこのような大きさの分布が発生しています。
この泡状構造は、すべての波長の光を効率的に複数回散乱する構造であることが明らかになりました。もとのポリマーが透明であるために余分な光吸収もなく、完璧な白色を生成します。また、架橋剤で架橋可能なポリマーならば本DFPプロセスが適用可能であることが確かめられています。これまでに、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリスルホン、セルロースアセテート、PMMA(アクリル樹脂)、PETなど、あらゆるタイプのポリマーにフォーム構造とそれにともなう白色を生成することに成功しています。

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印刷への適用可能性も本研究の大きな特徴です。UVが当たった場所のみにフォーム構造が生成します。すなわち、ステンシル(型紙)や、UVプロジェクターなどの簡易なUV露光手法で、エリア選択的に白色を生成することが可能です。もちろん半導体産業などで用いられるフォトリソグラフィ向けの高度なUV露光装置も使用可能で、それによって20,000dpiの白色印刷を実現しました(図3)。
 副次的な現象として、本DFPプロセスで超撥水性をもつ表面が生成することを発見しました。有機溶媒中で合体を繰り返し成長するフォーム構造は、極端に大きく膨張するような条件を選択すると、やがてフォームの壁面が限界を越えて薄くなって破裂します。そのときに、フォーム構造の細胞内から溶媒が絞り出されて、ポリマーの濃縮が起こります。フォームの壁面が半透膜として働き、大きな分子であるポリマーを通さずに、小さな溶媒分子たけ通過されるからです。非結晶性のポリマー*4の場合、ポリマーの濃縮によって溶けきれなくなったポリマーは析出して球状のコロイドを形成します。一方、結晶性*4や半結晶性のポリマーの場合、結晶を生成しながら球状構造が生成されるために、まるで花が咲いたような構造が形成されることを発見しました。このフラワー状構造が蓮の葉のような超撥水性を実現します。
このフラワー状構造は白色を呈するフォーム構造と同様に、UV露光した領域のみに発生します。すなわち、超撥水性を示す領域を完全にコントロールすることができるということです。また、ポリマーフィルムだけでなく、高分子ファイバーにフラワー状構造を作製すれば、図4にしめすような、表面に微細な棘状の凹凸を形成する、超撥水性のファイバーができあがります。

3.今後の展開

 本研究で開発された、ディープフォーム フォトリソグラフィ(DFP)は、典型的なフォトリソグラフィのプロセスを応用したものですが、フォトリソグラフィの古典的な2分類である、ポジティブ型フォトリソグラフィにも、ネガティブ型フォトリソグラフィにも当てはまらない、ネガティブポジティブ-ハイブリッド型であると解釈できるユニークなものです。フォトリソグラフィはナノマテリアル作製手法としてある種完成されたものですが、少しずらした条件で今回のようなユニークな現象が見出されたことは、ナノサイエンスに新たな視点を与えるものです。
本研究成果は実社会にも大きな影響を与えます。大きく分けて3つの軸での展開が期待されます。

 

1. エコフレンドリーな先進材料として

 フォーム状の構造をポリマーフィルムやポリマーシートに直接印刷することで、白色印刷が可能な本技術ですが、シートをパウダー状に細かく砕いてやることで新規の白色顔料として、より広い範囲への応用が可能です。同様に、フラワー状構造もパウダー化することで、大きな展開が期待されます。DFPで作製された超撥水繊維は繊維産業に特に大きなインパクトをもたらすでしょう。
有機フッ素化合物(PFAS)は、その撥水性と撥油性から、繊維、医療コーティング、パッケージ、半導体産業、自動車産業、コスメティクスまで非常に広範囲に利用されてきましたが、自然界でほぼ分解されず、水・土壌・人体に蓄積する「永遠の化学物質(Forever Chemicals)」であることから、 2026年現在、日本・EU・米国を中心に規制が急速に強化されています。今回実現した超撥水繊維は、アウトドア向け防水ギアから、作業着やカーペットなどの防汚加工まで、PFASの代替として大きな期待ができます。
 原理的に本手法は、生分解性プラスチック*5にも適用可能なものです。近い将来、白色顔料としての酸化チタンから、超撥水性素材としてのPFASから、環境にやさしい本素材に置き換えること目指して、現在も研究プロジェクトが進行中です。
 シバニア研究グループには、研究成果を社会へ移転し、実際の事業につなげてきた実績があります。例えば、CO₂削減技術の事業化を目的として設立されたスタートアップ企業OOYOOがあります。長期的には、この技術を核としたインクテクノロジーのスタートアップを設立し、大手インクメーカーや印刷関連企業と連携することで、より幅広い、世界規模の市場へと技術を展開していくことを目指します。

 

2. 京都の伝統産業とのコラボレーション

 近い将来、研究グループでは、京都の伝統工芸職人と協力し、この技術を用いて製品を生み出すことを計画しています。応用先としては、伝統的な日本の屏風やランプ、さらには古くから受け継がれてきた和紙づくりなどが考えられます。また、鮮やかな白さと撥水性を兼ね備えた日傘の制作にも取り組む予定です。
 もう一つの身近な応用として、芸妓や日本の俳優などが使用してきた伝統的な白粉(おしろい)を、この技術によって置き換えることも考えています。前述のとおり、歴史的には白粉には鉛が含まれていましたが、皮膚への毒性が問題となり、1934年にその使用が禁止されました。その後は、他の金属を用いた化粧品が使われるようになりました。そこで、この技術を用いて、金属を一切使用しない新しい白粉を開発することができれば、大変意義深いと考えています。
 京都の地元企業や伝統工芸との連携を通じて、比較的小規模でニッチな市場から展開していくことには大きな意義があります。こうした取り組みは、技術そのものの価値を社会に目に見える形で示し、その美しさや文化的価値、そして実用性を広く発信する機会となると考えています。

 

3. アーティストへの新素材の提供

 芸術の歴史を紐解けば、新たな芸術運動は常に新素材の導入とともにありました。たとえば、磁器のヨーロッパへの移入がロココを、鉄やガラスの工業化がアールヌーヴォーを、そしてベークライトなどプラスチックの発明がアールデコの表現と世界観を決定づけたといえます。我々は、クラウドファウンディングなどを活用しながら、京都の若いアーティストへ新素材を提供することを計画しています。

4.用語解説

*1  フォトリソグラフィ(Photolithography)
光を使って微細なパターンを基板上に形成する半導体製造の基盤技術。感光性材料(フォトレジスト)に光を照射し、露光・現像・エッチングなどの工程を経て、ナノメートルスケールの構造を作り出す。スマートフォンやコンピュータのCPUやGPUを製造する中核技術であり、材料科学・光学・プロセス工学が融合した高度な製造プロセスとして位置づけられる。

 

*2  相分離(Phase Separation)
混合物が、性質の異なる複数の相(領域)に自発的に分かれる現象。温度、濃度、分子間相互作用などの条件によって均一な状態が不安定になり、微細なドメイン構造が形成される。高分子ブレンド、コロイド、タンパク質溶液など幅広い系で観察される。

 

*3  オストワルド熟成(Ostwald Ripening)
粒子やドメインが時間とともに成長し、大きいものが小さいものを取り込むようにサイズ分布が変化する現象。表面エネルギーの差によって小粒子が溶解し、大粒子へと物質が移動することで進行する。ナノ粒子分散液、エマルション、薄膜、触媒材料など多くの系で起こり、安定性や機能性に大きく影響する。例えば、触媒粒子が成長すると活性が低下するなど、材料性能の劣化要因にもなる。逆に、この熟成過程を制御することで、粒径を均一化したり、特定の構造を形成したりする技術開発にも応用されている。

 

*4  結晶性/非結晶性ポリマー(Crystalline / Amorphous Polymers)
ポリマーの分子鎖が規則的に並んで結晶領域を形成するものを結晶性ポリマー、ランダムに配置された構造を持つものを非結晶(アモルファス)ポリマーと呼ぶ。結晶性ポリマーは高い強度、耐熱性、耐薬品性を示し、フィルムや機械部品などに利用される。代表例としてポリエチレン、ポリプロピレン、PETなど。一方、非結晶性ポリマーは透明性、柔軟性、加工性に優れ、光学材料や成形品に適している。代表例としては、ポリスチレン、ポリカーボネート、アクリル樹脂など。

 

*5  生分解性プラスチック(Biodegradable Plastics)
微生物や酵素の働きによって自然環境中で水と二酸化炭素まで分解されるプラスチック。ポリ乳酸(PLA)やポリブチレンサクシネート(PBS)などが代表例で、分解速度は環境条件(温度、湿度、微生物の種類)によって大きく変化する。環境負荷低減の観点から注目されており、包装材、農業用フィルム、使い捨て製品などへの応用が進む。従来のポリマーと同等の強度や加工性、耐久性を持たせるための材料設計の研究が活発に行われている。

 

5. 研究プロジェクトについて

本研究は、日本学術振興会(JSPS) 科学研究費補助金 (課題番号23H05468) 及び京都大学・三菱商事Startup Catapultの支援を受けて行われました。

 

 

6. 論文タイトル・著者

“Foaming Photopolymers as a High-Resolution Biomimetic Printing Platform”
(参考訳:生物構造を模倣した高解像度印刷基盤としての発泡性フォトポリマー)
著者:Detao Qin, Xianghui Liu, Baian Kuang, Yuzhe Zhang, Masateru Ito, Tatsuya Katsuno, Yuan Liu, Jianduo Zhang, Claudia Rosa, Meifang Zhu, Mikihito Takenaka, Hiroshi Imahori, Ganesh N. Pandian, Taiki Yanagishima, Easan Sivaniah
Nature|DOI: 10.1038/s41586-026-10968-9

 

 

問い合わせ先

<研究内容について>
シバニア・イーサン教授
 京都大学アイセムス
 電話:075-753-9865|Eメール:sivaniah-g@icems.kyoto-u.ac.jp

 

<京都大学アイセムスについて>
遠山 真理(トオヤマ・マリ)
京都大学アイセムス コミュニケーションデザインユニット
電話:075-753-9749|Eメール:cd@mail2.adm.kyoto-u.ac.jp

 

<東京都立大学について>
東京都公立大学法人
東京都立大学管理部企画広報課広報係
電話:042-677-1806|E-mail:info@jmj.tmu.ac.jp

 

理学研究科 物理学専攻 柳島 大輝 准教授

報道発表資料(1.9MB)