【発表のポイント】
- 原子精度で構造を制御した金–白金ナノクラスター(Au24Pt)に対し、ジチオレート架橋配位子(注1)を導入する新しい配位子設計手法を開発しました。
- 従来は「高い安定性」と「高い触媒活性」の両立が困難でしたが、本研究では両者を同時に実現することに成功しました。
- 開発したAu24Ptナノクラスターは、比較的低温で配位子が脱離するため、活性金属表面を効率よく露出でき、一酸化炭素(CO)酸化反応において従来材料より優れた触媒性能を示しました。
- 本成果は、金属ナノクラスター(注2)触媒の高活性化に向けた新しい材料設計指針を提供するものであり、環境浄化触媒やエネルギー変換触媒への応用が期待されます。
【概要】
金ナノクラスターは、原子レベルで構造を精密制御できる次世代触媒材料として注目されています。しかし、多くの金ナノクラスターでは保護配位子(注3)が表面を完全に覆っているため、触媒反応に必要な活性金属サイトが露出せず、十分な触媒性能を発揮できないという課題がありました。
東北大学多元物質科学研究所の根岸雄一教授、川脇徳久准教授、同大学院理学研究科の中谷利毅大学院生、東京都立大学理学研究科化学専攻の山添誠司教授らによる研究グループは、東京理科大学、一般財団法人ファインセラミックスセンターと共同で、弱く結合した配位子とジチオレート架橋配位子を組み合わせた新しいAu24Ptナノクラスターを開発しました。
このナノクラスターでは、クラスター全体の安定性を維持しながら、従来よりも低温で配位子を除去することが可能となり、高活性な触媒表面を効率的に形成できます。その結果、一酸化炭素酸化反応において従来型Au24Ptナノクラスターを大きく上回る触媒性能を達成しました。
本研究成果は、金属ナノクラスター触媒の活性を「金属核構造」だけでなく「配位子構造」の設計によって制御できることを示した重要な成果です。
本成果は、2026年6月29日付で、米国化学会誌 Nano Letters に掲載されました。
【詳細な説明】
研究の背景
原子精度金属ナノクラスターは、サイズや組成を原子レベルで制御できることから、高性能触媒として期待されています。しかし、一般的なチオレート保護金ナノクラスターでは、表面が配位子によって覆われており、活性サイトが遮蔽されています。活性サイトを露出させるために加熱処理による配位子除去が行われますが、高温処理はナノクラスターの凝集や構造崩壊を引き起こすため、触媒性能の低下につながるという問題がありました。
今回の取り組み
研究グループは、Au24Ptナノクラスター表面に存在する保護構造(ステープル構造(注4))をジチオレート配位子で架橋することにより、弱いAu–S結合(注5)を維持しながら構造全体を補強する設計を考案しました(図1)。
質量分析(注6)や単結晶X線構造解析(注7)により、この新規ナノクラスターでは配位子が160~195°C程度で効率よく脱離することを明らかにしました。一方、従来型クラスターでは配位子除去に270°C程度が必要でした。
さらに、酸化セリウム(CeO2)(注8)担持触媒として評価したところ、新規ナノクラスターは約110°Cで一酸化炭素(CO)酸化反応(注9)を開始し、従来材料より大幅に低温で高い活性を示しました(図2)。
意義と今後の展開
本研究は、金属ナノクラスター触媒において「配位子設計」が触媒活性を大きく左右することを明らかにしました(図3)。今後は、本設計概念を他の金属クラスターや酸化反応、水素化反応、燃料電池触媒などへ展開することで、高活性・高耐久な触媒材料の開発につながることが期待されます。また、低温で活性化できるナノクラスター触媒は、自動車排ガス浄化やカーボンニュートラル社会に向けたエネルギー変換技術への応用も期待されます。
【謝辞】
本研究は、JST創発的研究支援事業(JPMJFR245R)、環境省・(独)環境再生保全機構の環境研究総合推進費(JPMEERF20255RA2)、JSPS科研費(JP23H00289、JP22K19012、JP24K01459)、市村清新技術財団、岩谷直治記念財団、ENEOS東燃ゼネラル研究奨励、豊田理研スカラー、戸部眞紀財団研究助成からの助成を受けて実施しました。
【用語説明】
注1. ジチオレート架橋配位子:二つの硫黄原子を有する配位子。複数の金属原子や保護構造を橋渡しすることができ、金属ナノクラスターの構造安定化に利用される。
注2. 金属ナノクラスター:数個から100個程度の金属原子が集まって形成されるナノメートルサイズの粒子。原子数や構造を精密に制御できるため、触媒や電子材料として注目されている。
注3. 保護配位子:金属ナノクラスター表面に結合し、凝集や分解を防ぐ有機分子。クラスターの安定化に重要な役割を果たす一方で、触媒反応に必要な金属表面を覆うため、活性を低下させる場合がある。
注4. ステープル構造:チオレート保護金属ナノクラスターの表面に形成される金属–硫黄結合ユニット。クラスターの安定性を担う重要な構造であり、その構造や結合状態は触媒特性に大きく影響する。
注5. Au–S結合:金(Au)と硫黄(S)の間に形成される化学結合。金ナノクラスターの安定性を決定する重要な要素であり、結合が弱いほど配位子が脱離しやすくなる。
注6. 質量分析:試料をイオン化し、その質量を測定する分析法。本研究では加熱時に脱離する配位子を検出し、配位子脱離機構の解明に利用した。
注7. 単結晶X線構造解析:単結晶にX線を照射して得られる回折パターンから、原子の配置や結合状態を決定する分析手法。物質の立体構造を原子レベルで明らかにできる。
注8. 酸化セリウム(CeO2):高い酸素貯蔵能と酸化還元特性を有する金属酸化物。排ガス浄化触媒や燃料電池触媒の担体として広く利用されている。
注9. 一酸化炭素(CO)酸化反応:有毒な一酸化炭素(CO)を二酸化炭素(CO2)へ変換する反応。自動車排ガス浄化や燃料電池システムにおける重要な触媒反応として広く利用されている。
【論文情報】
タイトル:Ligand Engineering of Dithiolate-Protected Au24Pt Nanoclusters for Improved Thermocatalytic Activity
著者:中谷利毅,1,† 川脇徳久,1,2,†,* 吉川咲良,1,2,† Chaoqi Chen,1 鈴木太士,3 吉川聡一,3 穴田智史,4 山添誠司,3,* 根岸雄一1,2,*(1. 東北大学多元物質科学研究所、2. 東京理科大学カーボンバリュー研究拠点、3. 東京都立大学、4. 一般財団法人ファインセラミックスセンター)
*責任著者:東北大学 多元物質科学研究所 教授 根岸雄一
東北大学 多元物質科学研究所 准教授 川脇徳久
東京都立大学 理学部化学科 教授 山添誠司
掲載誌: Nano Letters
DOI:10.1021/acs.nanolett.6c01977
URL:https://doi.org/10.1021/acs.nanolett.6c01977
【問い合わせ先】
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東北大学多元物質科学研究所
准教授 川脇徳久
TEL: 022-217-5606
Email: tokuhisa.kawawaki.d8@tohoku.ac.jp
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