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グローバル視点で放射線治療の可能性を広げていく。充実した設備が後押しする新たな挑戦

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現代医療において重要な役割を担う放射線治療。その精度を高め、新たな先端医療技術を開発していくためには、高度な知識と技術を持った専門家が不可欠です。都立大の健康福祉学部放射線学科では、医療現場でも使用される設備が充実し、放射線科学の基礎研究や実践的な研究に活用されています。

今回はそんな放射線学科の中で放射線治療物理学分野を専門とする、張維珊(Chang・Weishan)准教授と研究室メンバーにお話を伺います。この分野の魅力や研究内容、そして国際的な研究活動の重要性など、多岐にわたる話題を通じて、放射線科学の奥深さと社会貢献の可能性を探ります。

放射線関連の知識を幅広く学ぶ「放射線学科」とは

——健康福祉学部放射線学科ではどのようなことが学べるのでしょうか?

放射線学科では、放射線診断、核医学、放射線治療など、放射線に関わる全ての知識を学ぶことができます。本学は様々な装置を所有しており、放射線治療分野で使用するリニアック(直線加速器)と治療計画装置、核医学分野で使用するPET / CT装置や診断分野で使用するレントゲン、CT、MRIなど、診療放射線技師が病院で扱う主要な装置全てがキャンパス内にあります。実際の装置を使いながら学ぶことで、非常に幅広い知識も身に付きます。

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そのため、卒業後の進路も幅広いです。病院だけでなく、医療機器メーカーや原子力規制庁などの行政機関、原子力関連企業へと就職する学生もおり、研究に興味があれば大学院に進学し、研究者の道に進むこともできます。また、都立大では留学生との交流や国際的な学術会議で発表をする機会も多くあり、この経験は将来のキャリアにも役立つと思います。

——放射線学を学ぶ面白さや深みはどういったところにありますか?

現在の学校教育では、放射線について詳しく学ぶ機会はあまり多くないので、「怖い」「危ない」というイメージだけが世間に浸透しているかもしれません。しかし実際には、放射線は医療だけでなく、農業や工業、原子力発電など様々な分野で活用されています。私たちの生活に密接に関わっているため、その理解を深めることは非常に大切なことだと思います。

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——授業や実習で大切にされていることは何ですか?

通常の授業では学生数が多く、一人ひとりに対応するのは難しいため、90分という長い授業の中で集中力を維持してもらえるように途中で質問を投げかけたり、小テストを行ったりしています。実習は少人数のグループで行うため、一人ひとりがきちんと理解できているかを確認してから次に進むようにし、こちらから積極的に働きかけることを意識しています。

放射線治療の質を向上させ、安全性を高める「放射線治療物理学」の世界

——張先生のご専門である放射線治療物理学とは、どのような分野なのでしょうか?

放射線治療物理学は、放射線治療に関わる物理全般を扱う分野です。医療の世界においては、医師と装置をつなぐ役割を担う分野だと思っています。この分野では、「どんな放射線を、どのように、どれくらいの量で、どれほど正確に患者さんの腫瘍へ照射するか」といった物理的側面を学びます。放射線にもさまざまな種類があり、まずはそれぞれの特性を正しく理解することが出発点となります。

例えば、放射線治療では直線加速器などの大きな治療装置を使って患者さんに照射を行いますが、腫瘍に最大限のエネルギーで放射線を当てつつ、周囲の正常組織への影響を最小限に抑えることが求められます。そもそも放射線量が多すぎると患者さんに危険が及ぶ可能性もあるため、放射線が治療計画通りの量と方向で治療装置から照射されているかを確認することも重要です。

また、実際放射線治療分野では一般的に知られているX線の他に、陽子線や炭素線のような高エネルギーの粒子線も使用されている。この高エネルギーの粒子線は、優れた物理特性を持っているが、通常の検出器では出力が正確に測定できない場合があります。そのため、正しく粒子線の計測をするため、新しい検出器の開発や、既存の検出器の応答特性をモデル化する研究も行われたりしています。

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——この分野の研究を始めたきっかけを教えてください。

台湾の高校を卒業後、大学で放射線学科に進学したことがきっかけです。大学1年のとき、台湾で初めて陽子線治療装置を導入するために渡米していた担任の教授と出会いました。その経験や病院での実習を通じて放射線治療に強く興味を持ち、さらに学びを深めていくようになりました。
そして4年次には「もっと勉強したい」と思い、大学院への進学を目指しました。そこで、日本が世界に先駆けて粒子線治療を始めた国であるということを知り、日本への留学を決意しました。そして修士、博士共に首都大学東京(現・都立大)へ進学。それ以来ずっと放射線治療関連の勉強と研究を続けています。

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——現在はどのような研究テーマに取り組まれていますか?

特に力を入れているのは陽子線の計測関連の研究です。放射線治療では、出力される放射線量を正確に検出することが非常に重要です。また、施設の担当者だけでなく、第三者による出力線量の確認・評価も必要です。現在、日本国内ではX線と電子線のみを対象とした評価システムがありますが、陽子線に対しても同様の第三者評価システムが必要だと考えており、そのようなシステムの構築・開発に関する研究を行っています。

——張先生は国際的な研究活動に参加されています。その背景や、国際経験の重要性についてどのようにお考えですか?

日本政府は粒子線治療を海外に発信・推進していく方針を打ち出しています。その背景を踏まえて、2024年度に海外の学生と交流できるグローバル・コミュニケーション・キャンプに「粒子線治療を育成するための国際プログラム」を申請しました。内容は、大学院生を中心に台湾の大学を訪問し、陽子線施設の見学や現地の学生・教員との交流を行うというものです。国によって施設や病院のあり方に違いがあることを知り、異なる文化や環境を経験することで新たな視点が得られる。さらに、異文化交流によってコミュニケーション能力を養える点にもメリットを感じています。また、東京都にも陽子線治療施設が建設される予定と聞いていますので、学生が海外の施設を見学し国際経験を積むことは、将来のキャリアを考える上でも非常に良い経験になると思います。

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——今後挑戦してみたい研究テーマや取り組みはありますか?

研究に関しては、引き続き高精度の放射線治療を担保するために放射線計測の精度向上に関する研究を継続していきたいと考えています。また、近年注目されているフラッシュ治療にも機会があれば挑戦したいと思っています。また、放射線治療の分野だけではなく、博士研究員時代に放射線防護の分野にも関わっており、現在も日本の診断参考レベル(DRL)を決める事務局の一員として活動しています。診断参考レベルとは、レントゲンやCT撮影で使用する放射線量の目安のことで、日本では世界と比べて高い傾向にあります。これは綺麗な画像を撮影するためなのですが、放射線防護の観点からは必要最小限の量で行うことが大切です。日本では2015年からDRLが設定されましたが、東南アジアではまだこのような取り組みが限定されている。以前指導したベトナムの留学生はこのとこを知り、自国での母国医療機関において、画像診断における適正線量の指標となる地域DRLの構築を試みたいとの相談を受け、今後は該当する学生とDRL共同で研究を実施していきたいですね。

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放射線についての正しい知識を身に付け、広めていきたい

——まず、この学科を志望された理由を教えてください。

小学生のころから多くの人を幸せにしたいという思いがあり、高校生になって医療職に関心を持ちました。色々と調べる中で診療放射線技師という仕事を知り、放射線治療の分野に興味を持ちました。都立大のホームページでは、高校生にもわかりやすく研究内容が紹介されており、特に放射線治療によって患者さんを治し、苦痛を和らげることができる可能性に強く惹かれました。

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張研究室の山口祐佳里さん

私は小学生のときに家族を病気で亡くし、その経験から病気を早期発見して治療できるような仕事に就きたいと思っていました。放射線技師の仕事を知ったのは、中学生の時の職場体験。そこから放射線学科を志望するようになりました。

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張研究室の浜田流星さん
——張先生の研究室を選んだ理由を教えてください。

放射線治療に強い関心を持っていたことに加え、授業での先生の明るくて親しみやすい人柄に惹かれました。また、研究テーマを先生と相談しながら、自分の興味にあわせて自由に選択できる点にも惹かれました。

大学1年のオリエンテーリングで放射線治療の分野に初めて触れ、大学3年になって放射線治療の授業を受けたことをきっかけに、面白い分野だと感じ、研究室に入りたいと思いました。

——授業や演習で印象に残っていることや、学びを通じて変わった事などはありますか?

英語の説明書を読みながら、マンスリーQAという放射線治療照射装置の維持管理作業をゼミのメンバーと協力して行ったことが印象に残っています。実際に手を動かすことで理解が深まり、座学だけでは分からない学びを得られました。語学の勉強にもなりましたし、グループでのディスカッションも多く、解釈の違いや装置のセッティング方法について試行錯誤する過程が楽しかったです。

一般的に、放射線は「怖い」「危険」というイメージが強いと思います。しかし、学んでいくうちに多様な分野で活用できることを知り、「適切に使えば便利」という印象に変わりました。研究と並行して、都立大の先生が審査員を務める放射線科コンテストに協力した経験があり、小学生にも放射線をわかりやすく伝えられるクイズ作りにも関わったことがあります。このように、楽しく学べるようにすることで、放射線はもっと身近なものであり、適切に使えば便利なものだと知ってもらいたいと思っています。

——張先生の指導で印象に残っているエピソードを教えてください。

張先生は私たちに、主体的に考える機会を与えてくれます。すぐに答えを教えるのではなく、考えるためのヒントを出してくれるので、自分で問題を解決する力を養うことができました。また、どんな質問でも気軽に相談できる温かい雰囲気を作ってくださり、一人ひとりがきちんと理解できているか確認してから次に進むので、疑問をそのままにせず学びを深めることができています。先生の指導のおかげで、学ぶ姿勢や考える力が成長したと思います。

卒業研究のときに文章がうまくまとめられなかったとき、張先生から、私が好きなクイズを作る活動になぞらえ「クイズをつくる時、問題文は答える人に対してもっと親切に短くするでしょう? 研究も同じです」とアドバイスをいただいたんです。自分の活動に対する理解を感じましたし、自分が好きな物になぞって研究も、他の人に分かりやすく伝える姿勢は同じだと伝えてくださったのが印象的でした。

——現在の学びは、どのように今後の目標につながっていくと思いますか?

将来は、多くの患者さんが安心して治療を受けられるような装置の開発やサービス設計に携わり、より安全に放射線治療が行えるような社会にしたいと考えています。学部では放射線の持つ可能性や魅力について学び、大学院では一つのテーマを突き詰めて考え、広く深く学ぶ楽しさを知ることができました。この経験を仕事につなげていきたいと思います。

放射線の仕事に就きたいと思いつつ、クイズの仕事も続けていきたいですね。特に、放射線の魅力や危険性を含めた様々な側面を、多くの人に楽しく伝えられるようなクイズコンテンツを作成していきたいと思っています。

——最後に、都立大に入りたいと思っている高校生や大学生に、この環境の良さを教えてください。

この大学の魅力は、学生が少人数なので先生との距離が近いことです。先生が学生の顔を覚えてくれるため、放射線科学に限らず、様々な分野の先生に質問がしやすい環境だと感じます。また、学内でハイレベルな装置を学生が使える環境は非常に貴重だと思います。

都立大は総合大学なので、1年次は南大沢キャンパスで医療以外の様々な分野を学び、2年次から医療に特化していきます。サークルや部活に入ることで医療系以外の進路を目指す他学部の学生とも交流でき、様々な進路の人たちと関われるのも魅力的です。キャンパス間の移動は大変かもしれませんが、総合大学特有のメリットも活かしながら学んでいってほしいですね。

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