Profile

経歴:オーストラリア・シドニーのマッコーリー大学で博士号を取得後、九州大学マス・フォア・インダストリ研究所、京都大学数理解析研究所で日本学術振興会特別研究員PDとして従事、2025年10月に都立大に着任。
専門:「高次圏論」
──先生の研究内容を教えてください。
私の専門は「高次圏論」という分野です。数学には代数、幾何、解析など様々な分野がありますが、それらには共通するパターンがあります。「もの」そのものではなく、「もの同士の関係」に着目することで、異なる分野に共通する構造を見い出せる。このように、異なる分野の「共通言語」となるのが圏論です。
この圏論に「似ている」という概念を組み込んだのが、高次圏論です。0や1といった数の世界では「等しいか否か」しか問えません。しかし図形の世界では、丸をぐにゃっと変形すれば三角になる。だから丸と三角は「似ている」ともいえます。一方、丸をどう変形してもバツにはならないですよね。そういった意味で、丸とバツは「似ていない」。このように、図形には「等しい」と「等しくない」の間に「似ている」という段階があります。こうした幾何学的な「似ている」を圏論で扱えるようにすることで、より広く数学の統一的な記述に挑戦するのが、高次圏論です。
──「知のみやこプロジェクト」に応募した理由を教えてください。
特に惹かれたのは、5年間という任期の中で、研究に専念できる点です。世界的に見ても、若手でこの条件での募集は数少ないと思います。実際、海外の研究者仲間に話しても驚かれるんですよ。
本プロジェクトは、人文科学から自然科学まで全ての分野が対象となります。そのため、書類も面接も、専門外の審査員にも伝わるプレゼンが求められる。普段の学会では、数学者に向けた資料をつくっていますが、このプロジェクトではより広い読者を想定して準備しなければいけません。これからの研究者人生を考えると、意味のある新鮮な経験だったと感じています。
──専門外の方に向けてプレゼンする経験は、どのような意味があると感じたのでしょうか。
実は研究者にとって、専門外の人にアピールする力は欠かせないんです。例えば研究費の申請では、専門の異なる審査員に自分の研究の意義を伝えなければいけない場面も多々訪れます。しかし、普段の研究漬けの生活の中で、専門外の人に向けて説明する練習の機会はなかなかありません。研究費や職がかかった重要な場面になって初めて「専門外の人に説明して、わかってもらうスキル」の重要さに気付く研究者も少なくないんです。
そういった意味でも、本プロジェクトの選考は専門外の方にプレゼンできる良い機会でした。
──研究環境についてはどう感じていますか?
このプロジェクトでは、研究テーマも時間の使い方も自分の裁量に委ねられており、その自由度の高さは特筆に値します。私が都立大に着任して間もない10月後半には、海外から知り合いの研究者が来て、2週間ほど滞在しました。彼と高次圏論の新しいアイデアについて議論した結果、面白そうなテーマが見つかって、現在も共同研究に向けたやり取りを続けています。このように、学内外だけでなく国内外問わず、自由に研究を広げられるのは、このプロジェクトならではだと感じています。
──先生は、任期の5年間でどのようなことに取り組みたいと考えていますか。
まず、研究だけに集中できる今の環境は、かなり恵まれていると思っています。この先、こんなに研究に専念できる機会はおそらくないでしょう。
だからこそ、まとまった時間がないと挑戦できない難問に取り組みたい。具体的には、幾何学の情報を失わずに代数的に扱う方法の研究です。これまで多くの研究者が様々なアプローチで挑んできましたが、みんな似たようなところでつまずいているんです。この5年間で、もう少し先の場所でつまずけたらうれしいですね。
もう一つの目標は、圏論のコミュニティづくりです。博士課程を過ごしたシドニーのマッコーリー大学には、大規模な圏論グループがありました。気軽に議論できる仲間がいる環境が、孤独な研究にも潤いをくれた。日本ではまだまだ圏論を専門にした研究者が少ないので、同様のコミュニティをつくって盛り上げていけたら、と考えています。
──知のみやこプロジェクトでは、1年間の海外研究を支援しています。海外で取り組んでみたいことはありますか?
まだ具体的な行き先は決めていませんが、博士を取ったシドニーに戻るか、親しい研究者がいるチェコやカナダ、もしくはお世話になっている先生のいるアメリカもいいですね。どこに行っても新しい刺激がありそうで、今から楽しみです。
──最後に、「知のみやこプロジェクト」への応募を検討している方へメッセージをお願いします。
研究に専念でき、任期が長い。研究者を目指す人にとって、これ以上恵まれた環境はないと思います。選考では専門外の人にも伝わるプレゼンが求められますが、それ自体が良い経験になります。
ただ、研究専念型なので、現在は大学内の他の先生方との接点は多くありません。その分、知のみやこプロジェクトの助教同士で交流したり、分野を超えて面白そうな研究の話を聞きに行ったりできたら楽しいだろうな、と思っています。興味のある方は、ぜひ一緒に都立大で新しいコミュニティをつくっていきましょう!





