理工学研究科分子物質化学専攻 海老原充教授の研究成果論文「小惑星イトカワから回収された粒子の中性子放射化分析」が「Science」誌に掲載されました。

お知らせ

小惑星探査機はやぶさが2010年6月に地球に持ち帰った小惑星イトカワのサンプル粒子の初期分析が、幾つかの国内研究機関で進められています。本学、海老原充教授(分子物質化学専攻)も研究チーム(大浦泰嗣准教授、白井直樹助教、熊谷和也さん(博士前期課程2年)も所属)の代表として分析を進めており、その成果の一部が、世界的な科学誌「Science」(8月26日号)に「はやぶさ」特集号の論文として掲載されました。特集号では、海老原教授の研究チームを含め、6研究チームの論文が掲載されています。
なお、8月25日(木)には、各論文の主著者が東北大学に集結し、記者会見による論文の概要説明と質疑応答が行われました。

JAXA探査衛星やぶさ試料分析研究成果論文1
6名の論文主著者 (右から2人目が海老原教授)
JAXA探査衛星やぶさ試料分析研究成果論文2
海老原教授の発表の様子             
JAXA探査衛星やぶさ試料分析研究成果論文3
海老原教授の発表の様子


研究(論文)内容要約

はやぶさ探査機が持ち帰った微小粒子1試料(約3マイクログラム ※1)について、中性子放射化分析法を用いてその元素組成分析を求めた。分析の結果、ナトリウム、スカンジウム、クロム、鉄、コバルト、ニッケル、亜鉛、イリジウムの8元素について含有量を求めることができた。この試料のFe(鉄)/Sc(スカンジウム)元素比、及びNi(ニッケル)/Co(コバルト)元素比は地球表面の岩石試料の持つ値と明らかに異なり,太陽系形成当時の物質であると考えられているコンドライト質隕石の値に等しいことがわかった。このことは、はやぶさ探査機が持ち帰った試料が小惑星イトカワ由来の地球外物質であり、かつ、その物質は太陽系の始原物質であるコンドライト隕石と同じであることがわかった。また、この試料には約30フェムトグラム(30 x10-15 g)のイリジウムが含まれていたが、このことからも分析した粒子が地球外物質であることが裏付けられた。このイリジウムはニッケルやコバルトから予想される含有量より約5倍少なく、この粒子が太陽系最初期に起こった元素の分別過程を保存していることが分かった。
今回のはやぶさ試料の分析によって、はやぶさ探査機が小惑星イトカワでの試料採取に成功し、かつ、それを地球に持ち帰ったことが証明された。その試料を分析した結果、太陽系の始原物質として知られているコンドライト質隕石と同じ元素組成を持つことがわかった。これまで、太陽系の生成過程やその後の初期分化過程を研究するために隕石試料が用いられてきたが、隕石試料がどこから飛来したかということを示す直接的な証拠は得られていなかった。この度のはやぶさ探査機の持ち帰った試料の分析によって、我々は初めてその直接的な証拠を手に入れることができたことになり、はやぶさ惑星探査計画が成し遂げた成果に、また一つ大きな偉業が付け加えられることになった。

※1 3マイクログラム = 100万分の3グラム

研究(論文)の詳細はこちら(790KB)