塗料や接着剤の中で粒子が“くっつきやすくなる”条件を発見 ― 高性能コーティング材料設計に向けた新たな指標 ―

報道発表

1.ポイント

  • エポキシ–アミン硬化系において、硬化前後のフィラー粒子配置を共焦点蛍光顕微鏡で3次元的に直接観察。
  • 硬化によってフィラー粒子の凝集が促進されることを実験的に確認。
  • 凝集のしやすさは、フィラーの体積分率だけでは説明できず、粒子間の平均すき間 𝐻 によって整理できる。
  • 粒子サイズ 𝑎 で規格化された隙間パラメータ 𝛿𝐻/𝑎 が大きいほど、硬化による凝集が起こりやすい。
  • 塗料、インク、接着剤、機能性コーティングなどのフィラー分散設計に新たな指針を与える。

2.概要

 塗料、インク、接着剤などのコーティング材料の多くは、液体の状態で塗布された後、「硬化」と呼ばれる化学反応によって固体の膜になります。これらの材料には、導電性、抗菌性、強度などの機能を与えるために、フィラー粒子(注1)と呼ばれる微小な粒子が加えられることがあります。材料の最終的な性能は、このフィラー粒子が硬化後にどのように分散し、あるいは集まるかに大きく左右されます。
 しかし、硬化の過程でフィラー粒子がどのような条件で凝集するのかは、これまで十分に分かっていませんでした。特に、粒子の濃度だけで凝集の起こりやすさを説明できるのか、あるいは別の指標が必要なのかは明らかではありませんでした。
 東京都立大学大学院理学研究科の古田祐二朗(研究当時:博士後期課程、現在:東京大学)・ 栗田 玲 教授の研究グループは、エポキシ樹脂とアミン硬化剤からなる硬化系を用い、蛍光ポリスチレン粒子の3次元配置を共焦点蛍光顕微鏡(注2)によって硬化前後で直接観察しました。その結果、硬化によってフィラー粒子の凝集が促進されることを実験的に明らかにしました。
 さらに、この凝集の起こりやすさは、従来よく用いられるフィラーの体積分率だけでは説明できず、粒子同士の平均的なすき間「平均粒子間距離 𝐻」(注3)によってよく整理できることが分かりました。特に、粒子サイズ 𝑎 で規格化した隙間パラメータ(注4) 𝛿𝐻/𝑎 が大きいほど、硬化による凝集が起こりやすいことが示されました。
 本研究成果は、塗料、インク、接着剤、機能性コーティングなど、硬化によって作られる高分子複合材料において、フィラー粒子の分散状態を制御するための新たな設計指針となることが期待されます。

■本研究成果は、6月5日付けでElsevierが発行する英文誌 Progress in Organic Coatings に発表されました。本研究の一部は、日本学術振興会科学研究費助成事業(No. 26K00676)の支援を受けて行われました。

 

3.研究の背景

 塗料、インク、接着剤などのコーティング材料は、表面を保護するだけでなく、導電性、抗菌性、耐久性などの機能を与える材料として幅広く使われています。これらの機能の多くは、材料中に分散された「フィラー」と呼ばれる微小な粒子によって実現されます。そのため、フィラー粒子が硬化後にどのように分散し、あるいは凝集するかは、材料の性能を大きく左右します。
 近年、環境負荷の低減や省エネルギー化の観点から、溶媒を乾燥させるのではなく、化学反応によって液体から固体へ変化させる「硬化型」のコーティング材料が注目されています。しかし、硬化の途中でフィラー粒子がどのような条件で凝集するのかは、これまで十分に分かっていませんでした。特に、凝集のしやすさを粒子の濃度だけで説明できるのか、あるいは粒子同士の距離など別の指標が必要なのかは明らかではありませんでした。
 そこで本研究では、エポキシ樹脂とアミン硬化剤からなる硬化系を用い、蛍光ポリスチレン粒子の硬化前後の配置を共焦点蛍光顕微鏡で3次元的に直接観察しました。粒子サイズと体積分率を変えながら凝集の程度を調べることで、硬化中のフィラー凝集を支配する条件を明らかにすることを目指しました。

4.研究の詳細

 研究グループは、エポキシ樹脂とアミン硬化剤からなる材料中に、蛍光を発するポリスチレン粒子をフィラーとして分散させ、硬化前後で粒子の配置がどのように変化するかを調べました。観察には共焦点蛍光顕微鏡を用い、材料内部の粒子配置を3次元的に再構成しました。
 図1は、硬化前後におけるフィラー粒子の3次元配置を示しています。粒子の色は、どの大きさのクラスターに属しているかを表しています。硬化前には孤立した粒子が多く見られますが、硬化後には複数の粒子が集まったクラスターが増加していることが分かります。この結果から、硬化反応によってフィラー粒子の凝集が促進されることが直接確認されました。
 次に、粒子の凝集の程度を定量的に評価するため、全粒子のうち少なくとも一つの粒子と接触している粒子の割合を「凝集率」として求めました。図2は、硬化前後の凝集率を比較したものです。その結果、硬化によって凝集率が増加することが分かりました。一方で、同じ体積分率でも粒子サイズが異なると凝集の起こりやすさが異なり、凝集の程度はフィラーの量だけでは説明できないことが明らかになりました。
 そこで研究グループは、粒子同士の平均的なすき間である「平均粒子間距離 𝐻 」に着目しました。図3は、硬化によってどれだけ凝集が増えたかを、平均粒子間距離 𝐻および粒子サイズ 𝑎 で定義された隙間パラメータ 𝛿𝐻/𝑎 と比較したものです。その結果、𝛿𝐻/𝑎 を用いることで、粒子サイズの異なるデータもよく整理できることが分かりました。
 これらの結果は、硬化中のフィラー凝集を理解するうえで、単にフィラーの体積分率を見るだけでは不十分であり、粒子同士の距離を考慮することが重要であることを示しています。特に、隙間パラメータ 𝛿𝐻/𝑎 は、硬化型コーティング材料におけるフィラー分散状態を予測・制御するための有用な指標になると考えられます。

image-2

図1 共焦点蛍光顕微鏡画像から再構成したフィラー粒子の3次元配置。(a) 粒子径 𝑎 = 8 μm、体積分率 𝜙 = 0.16 における硬化初期、(b) 同条件における硬化後の4次元配置。(c) 粒子径 𝑎 = 5 μm、体積分率 𝜙 = 0.065 における硬化初期、(d) 同条件における硬化後の3次元配置。粒子の色は、その粒子が属するクラスターの大きさを表している。

image-3

図2 硬化初期および硬化後におけるフィラー粒子の凝集率 𝛹𝑎𝑔𝑔。(a)、(b) は体積分率 𝜙 = 0.065 における結果であり、粒子径はそれぞれ 𝑎 = 5μm、𝑎 = 8μm である。(c)、(d) はそれぞれ、粒子径 𝑎 = 5 μm、体積分率 𝜙 = 0.12、および粒子径 𝑎 = 8 μm、体積分率 𝜙 = 0.13 における結果を示している。エラーバーは、独立した測定から得られた標準偏差を表す。

image-4

図3硬化による凝集率の増加量 𝛥𝛹𝑎𝑔𝑔 と平均粒子間距離 𝐻 の関係。𝐻𝑐 は、𝛥𝛹𝑎𝑔𝑔 がほぼゼロとなる臨界的な粒子間距離を表す。(a) の挿入図は、平均粒子間距離 𝐻 と粒子径 𝑎 の定義を模式的に示している。(b) 粒子径で規格化した隙間パラメータ 𝛥𝐻/a=(Hc−H)/a に対する 𝛥𝛹𝑎𝑔𝑔の変化。異なる粒子径のデータにおいても、𝛥𝛹𝑎𝑔𝑔 は 𝛿𝐻/𝑎 と正の相関を示している。

5.研究の意義と波及効果

 本研究では、硬化中にフィラー粒子の凝集が促進されることを、実験的に直接示しました。さらに、その凝集のしやすさはフィラーの体積分率だけでは説明できず、粒子同士の平均的なすき間、特に粒子サイズで規格化した隙間パラメータ 𝛿𝐻/𝑎 が重要な指標となることを明らかにしました。
 この成果は、硬化型コーティング材料において、どの条件で硬化過程によって凝集が起こりやすいかを予測するための新たな考え方を与えるものです。塗料、インク、接着剤、導電性フィルムなどでは、フィラーの分散状態が材料の性能を大きく左右します。そのため、本研究で示した粒子間距離に基づく指標は、目的に応じてフィラーの凝集や分散を制御する材料設計に役立つと期待されます。
 今後、異なる樹脂、硬化剤、粒子材料、粒子形状を用いた研究へ展開することで、より幅広い硬化型高分子複合材料に適用できる設計指針の確立につながる可能性があります。

6.用語解説

(注1)フィラー粒子:材料に特定の機能や性質を与えるために混ぜ込まれる微小な粒子のこと。塗料、インク、接着剤などでは、導電性、抗菌性、強度、耐久性などを高める目的で加えられることがある。

(注2)共焦点蛍光顕微鏡:蛍光を発する物質を観察する顕微鏡の一種。通常の顕微鏡では見えにくい材料内部の構造を、奥行き方向に少しずつずらしながら撮影することで、3次元的に調べることができる。

(注3)平均粒子間距離:粒子が材料中に均一に分散していると仮定したときに、粒子同士が平均的にどの程度離れているかを表す距離。本研究では、フィラーの体積分率と粒子径から、1個の粒子が占める平均的な空間を見積もり、そこから粒子表面どうしの平均的なすき間として計算した。

(注4)隙間パラメータ:本研究で新たに導入した、フィラー粒子の集まりやすさを表す指標。平均粒子間距離 𝐻を粒子径 𝑎 をもとに定義され、おおよそ 1 − 𝐻/𝑎 と表すことができる。この値が1に近いほど、粒子サイズに対して粒子同士の隙間が小さく、硬化によって凝集が起こりやすいことを意味する。

7.論文情報


掲載誌:Progress in Organic Coatings

タイトル:“Curing-induced filler aggregation in epoxy-amine systems”

著者:Yujiro Furuta and Rei Kurita

DOI:10.1016/j.porgcoat.2026.110305

URL: https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0300944026003619

8.問い合わせ

 (研究に関すること)
東京都立大学 理学研究科 教授 栗田玲
TEL:042-677-2505 E-mail: kurita@tmu.ac.jp

(大学に関すること)
東京都公立大学法人
東京都立大学管理部 企画広報課 広報係
TEL:042-677-1806 E-mail: info@jmj.tmu.ac.jp

理学研究科 物理学専攻 栗田 玲 教授

 

報道発表資料