【研究発表】超伝導を特徴づける2つの長さを計算可能に 実験に頼らない超伝導体の性能予測に道

報道発表
本研究のポイント
  • 超伝導体を特徴づける2つの基本的な長さ「コヒーレンス長」と「磁場侵入長」を、実験データを一切用いずに計算する手法の開発に成功。
  • 超伝導密度汎関数理論に「有限の運動量を持つクーパー対」を導入することで実現。転移温度・コヒーレンス長・磁場侵入長を同一の理論から同時に求めた計算は世界初。
  • 今後、超伝導線材や超伝導磁石の設計、および高い転移温度を持つ新超伝導体の探索への応用に期待。
【研究概要】

 横浜国立大学大学院工学研究院の河村光晶准教授、東京都立大学大学院理学研究科の野本拓也准教授、ヴュルツブルク大学のニクラス・ヴィット博士、東京大学大学院理学系研究科の有田亮太郎教授(理化学研究所創発物性科学研究センター チームディレクター)らの研究グループは、超伝導体を特徴づける2つの基本的な長さ「コヒーレンス長[用語1]」と「磁場侵入長[用語2]」を、実験データを一切用いずに計算する第一原理計算[用語3]手法を開発しました。アルミニウムやニオブなどの単体金属から、高圧下で約200 K (-73 ℃)の高い転移温度を示す硫化水素まで、幅広い超伝導体について実験値をよく再現することを確認しました。本成果は、超伝導線材や超伝導磁石の設計、新しい超伝導体の探索に貢献すると期待されます。
 本研究成果は、アメリカ物理学会(APS)が発行している国際科学雑誌「Physical Review Letters」(2026年11月3日付:米国東部時間)に掲載されるとともに、注目論文として「Editors' Suggestions」に選出されました。また、同じくAPSが発行している「Physics(Physics Magazine)」でも取り上げられ、解説記事が掲載されました。

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図1: 本研究で開発した手法の概念図。(上)結晶中のクーパー対[用語4]に、運動量qのゆるやかな空間変調を与えます。(中)その状態の超伝導ギャップ Δq と超伝導電流 Jq を、温度 Tと運動量 qの関数として第一原理計算で求めます。(下)得られた結果から、超伝導の秩序変数[用語5] Ψ(超伝導状態のそろい具合を表す量)が乱れから回復するのに要する距離であるコヒーレンス長 ξ0 と、外部磁場Hが超伝導体の内部にしみ込む深さである磁場侵入長 λLが決まります。

 

【社会的な背景】

 超伝導は、電気抵抗がゼロになる現象であり、MRI(磁気共鳴画像診断装置)やリニアモーターカー、次世代の核融合炉など、強い磁場を必要とする技術の基盤となっています。こうした応用では、その物質が「どれだけ強い磁場に耐えられるか」「どれだけ大きな電流を流せるか」が決定的に重要です。前者は上部臨界磁場と呼ばれ、コヒーレンス長によって決まります。後者は臨界電流と呼ばれ、実際の材料では結晶の欠陥や粒界などの内部組織にも左右されますが、その物質が原理的に到達しうる上限は、コヒーレンス長と磁場侵入長という2つの長さによって決まります。
 一方、計算機シミュレーションによる超伝導体の研究は、これまで主に「何度で超伝導になるか」(超伝導転移温度)を予測することに注力してきました。コヒーレンス長と磁場侵入長については、実験値や経験的なパラメータを入力しなければ求められず、実験が極めて困難な高圧下の物質などでは信頼できる値を得る手段がありませんでした。物質の性能を計算だけで見通すためには、これら2つの長さを実験に頼らずに決定する手法の確立が求められていました。

 

【研究成果】

 本研究では、密度汎関数理論を超伝導状態に拡張した理論である超伝導密度汎関数理論[用語6]に、「有限の運動量を持つクーパー対」を導入しました(図1)。通常、超伝導状態は結晶全体で一様であると仮定して扱われます。これに対し本研究では、クーパー対の状態を空間的にゆるやかに波打たせ、その波の細かさを運動量 q として指定しました(図1上)。この状態について、電子対の結び付きの強さを表す「超伝導ギャップ」Δq と、流れる「超伝導電流」Jq を、温度 T と運動量 q の関数として計算しました(図1中)。このとき、超伝導ギャップが失われる運動量からコヒーレンス長が、超伝導電流が最大となる運動量から磁場侵入長が、それぞれ決まります。すなわち、超伝導体の内部で外部磁場がどこまでしみ込み、超伝導状態がどの範囲でそろっているか(図1下)を、実験値や経験的なパラメータを一切用いずに決定できることを示しました。さらに、超伝導電流の最大値そのものは、欠陥や粒界、表面のない理想的な結晶においてクーパー対が壊れずに流せる電流の上限である対破壊電流[用語7]にあたります。実際の超伝導線材が流せる臨界電流は、結晶の欠陥や粒界といった内部組織に強く依存し、通常は対破壊電流より小さくなります。対破壊電流はその到達しうる上限を与える量であり、材料の潜在能力を測る指標となります。
 ここでの技術的な難しさは、コヒーレンス長や磁場侵入長が結晶の格子定数の100倍から1000倍にも達する点にあります。この長さを捉えるには、逆格子ベクトルの0.1%にも満たない極めて小さな運動量を数値的に安定に扱う必要があり、そのための計算手法を新たに開発しました。開発した手法を、アルミニウム、インジウム、スズ、タンタル、鉛、ニオブといった単体超伝導体、A15型化合物であるV3Si、および高圧下で超伝導となる硫化水素H3Sに適用しました。例えばニオブでは、転移温度8.09 K(-265.06 ℃、実験値9.50 K)、コヒーレンス長34 nm(実験値38~40 nm)、磁場侵入長34~40 nm(実験値27~39 nm)と、いずれも実験をよく再現しました。さらに、第一種/第二種超伝導体[用語8]を分類した結果が、調べたすべての物質で実験と一致しました。約100万気圧という超高圧下でしか超伝導にならず、実験での測定が極めて困難なH3Sについても、転移温度181 K(実験値184 K)、コヒーレンス長3.0 nm、磁場侵入長19~22 nmという値を得ました。極限環境下の物質を計算だけで特徴づけられることを示した点は、本手法の大きな利点です。
 加えて、多数の超伝導体の転移温度とフェルミ温度を対数目盛で並べて整理した「植村プロット[用語9]」を、初めて第一原理計算のみから構成しました。この図の上で超伝導体は、超伝導が生じる仕組みごとに異なる系列をなして分布することが経験的に知られています。本研究で計算した物質は、格子振動を仲立ちとする従来型超伝導体が占める領域に正しく収まり、なかでもアルミニウムやニオブなどの単体超伝導体で、転移温度がフェルミ温度に比べて系統的に低いという傾向を再現しました。さらに、V3SiやH3Sのように転移温度の高い系では、「電子対を作る力の強さ」と「超伝導状態の位相の硬さ(位相剛性)」が同時に大きくなっていることを示しました。これまで実験データと単純化された物理モデルによって論じられてきたこの整理図に、微視的な裏付けを与えたことになります。

【今後の展開】

 本研究により、超伝導体の「性能」を実験に頼らず計算だけで見積もる道が開かれました。これまでの第一原理計算が「いつ超伝導になるか」を答える手法であったのに対し、本手法は「その超伝導がどのような性質を持ち、どこまで壊れにくいか」まで答えることができます。今後は、上部臨界磁場や、臨界電流が原理的に到達しうる上限といった応用上重要な量を、物質の組成と結晶構造だけから計算機上で事前に評価できるようになり、超伝導線材・超伝導磁石の設計や、MRI・核融合炉・量子コンピュータといった応用に適した材料の絞り込みを加速すると期待されます。また、室温超伝導を目指した高圧下水素化物の探索など、実験が困難な領域における物質設計の指針を与えることにもつながります。

【謝辞】

 本研究は、日本学術振興会 科学研究費助成事業(課題番号:JP25H01246、JP 25H01252、JP 24H00190、JP 25K07220、JP 25K07234、JP 25H00420)、科学技術振興機構 経済安全保障重要技術育成プログラム(K Program)(JPMJKP25Z7)、理化学研究所 TRIP 事業(RIKEN Quantum、Advanced General Intelligence for Science Program、Many-body Electron Systems)の助成を受けて行われました。数値計算は東京大学情報基盤センターのスーパーコンピュータを利用しました。

【用語解説】
[用語1] コヒーレンス長:超伝導状態が空間的にどれだけの距離にわたって同じ性質を保つかを表す長さ。超伝導を局所的に乱したとき、元に戻るまでに要する距離ともいえる。物質が耐えられる磁場の上限(上部臨界磁場)を決める。

[用語2] 磁場侵入長:超伝導体の表面から内部へ、外部磁場がしみ込むことのできる深さ。超伝導体が磁場をはじき返す性質(マイスナー効果)の強さを表す。

[用語3] 第一原理計算:物質を構成する原子の種類と並び方だけを入力とし、実験データや経験的なパラメータを用いずに、量子力学の基本法則から物質の性質を予測する計算手法。

[用語4] クーパー対:超伝導状態において2つの電子が結び付いてできる対。この対がそろって動くことで、電気抵抗のない電流が流れる。

[用語5] 秩序変数:超伝導状態がどれだけ発達しているかを表す量。ゼロなら通常の金属、大きいほど超伝導が強く発達していることを意味する。クーパー対の波動関数に対応し、その空間変化のしかたがコヒーレンス長を決める。

[用語6] 超伝導密度汎関数理論:物質の電子状態を計算する標準的な手法である密度汎関数理論を、超伝導状態を扱えるように拡張した理論。超伝導転移温度を実験値なしで予測できる。

[用語7] 対破壊電流:欠陥や粒界、表面のない理想的な超伝導体に流せる電流の上限。これを超えるとクーパー対が壊れ、超伝導が失われる。実際の超伝導線材が流せる電流の上限は「臨界電流」と呼ばれ、結晶の欠陥や粒界による磁束の止まりやすさ(ピン止め)などの内部組織に大きく左右されるため、通常は対破壊電流より小さい。対破壊電流は、その物質が原理的に到達しうる上限にあたる。

[用語8] 第一種/第二種超伝導体:磁場に対するふるまいによる超伝導体の分類。第二種超伝導体は磁場を部分的に内部に取り込むことで強い磁場に耐えられるため、超伝導磁石などの応用に用いられる。どちらになるかはコヒーレンス長と磁場侵入長の比で決まる。

[用語9] 植村プロット:多数の超伝導体について、超伝導転移温度と、超伝導を担う電子の運動エネルギーの目安であるフェルミ温度との関係を、対数目盛で整理した図。超伝導が生じる仕組みごとに分布する領域が異なり、銅酸化物高温超伝導体などの非従来型超伝導体は両者の比が比較的大きい領域(およそ0.01~0.1)に集まるのに対し、格子振動を仲立ちとする従来型超伝導体はこれよりはるかに小さい比を示す。

 

【論文情報】

掲載誌:Physical Review Letters
論文タイトル:First-principles calculation of coherence length and penetration depth based on density functional theory for superconductors
著者:Mitsuaki Kawamura, Takuya Nomoto, Niklas Witt, Ryotaro Arita
DOI:https://doi.org/10.1103/lrhl-j9bt

 

本件に関するお問い合わせ先

(研究に関すること)

横浜国立大学 大学院工学研究院 准教授 河村 光晶
Mail: kawamura-mitsuaki-zr@ynu.ac.jp

 

東京大学 大学院理学系研究科 物理学専攻 教授 有田 亮太郎
兼:理化学研究所創発物性科学研究センター チームディレクター
Mail: ryotaro.arita@phys.s.u-tokyo.ac.jp

 

(報道に関すること)

横浜国立大学 総務企画部 リレーション推進課
Tel: 045-339-3027
Mail: press@ynu.ac.jp

 

東京都立大学 管理部 企画広報課 広報係
Tel: 042-677-1806
Mail: info@jmj.tmu.ac.jp

 

東京大学 大学院理学系研究科・理学部 広報室
Tel: 03-5841-7585
Mail: media.s@gs.mail.u-tokyo.ac.jp

 

理化学研究所 広報部 報道担当
Tel: 050-3495-0247
Mail: ex-press@ml.riken.jp

 

科学技術振興機構 広報課
Tel: 03-5214-8404
Mail: jstkoho@jst.go.jp

 

(JST事業に関すること)

科学技術振興機構 先端重要技術育成推進部 伊藤 哲也
Mail: k-program@jst.go.jp

 

理学研究科 野本拓也 准教授

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