研究成果のポイント
- 放射光測定により水分子が光センサ中の酸化チタン※1表面へ吸着する様子を直接観測し、その色識別メカニズムを世界で初めて解明
- 得られた知見を基に親水性ポリマーを導入することで、色識別の応答速度が10倍以上向上し、約0.15秒で色を判別できる高速カラーセンシングを実現
- カラーフィルターを必要としない薄膜光センサやイメージセンサ等への応用に期待
概要
大阪大学大学院工学研究科の小林泰さん(博士後期課程)、西久保綾佑講師、佐伯昭紀教授、東京大学物性研究所の原田慈久教授、NIMS(物質・材料研究機構)の木内久雄主任研究員(研究当時:東京大学物性研究所助教)、東京都立大学の石割文崇准教授(兼大阪大学招へい准教授)らの研究グループは、水分子の吸着を利用して光の「色」を高速に識別する新しい光センサの動作原理を世界で初めて解明しました(図1)。
図1. 本研究で開発した光検出素子の概要と材料構造
一般的なカメラや光センサは、赤・緑・青のカラーフィルターを用いて色(光波長※2)を判別していますが、本研究グループはこれまでに、フィルターレス・単一光電変換素子※3が、照射された光の波長(色)に応じて出力電圧を変化させる「波長依存光起電力効果(WDPE)※4」を世界で初めて報告しています。これによりカラーフィルターが不要なだけでなく、より小型・高感度な光センサの実現が期待されていますが、波長で電圧が変化する原理が未解明であり、数秒程度の時間がかかる色識別速度に課題がありました。
今回、研究グループは放射光実験施設を利用した「その場軟X線吸収分光※5測定」をTiO2/SbSI:Sb2S3/有機半導体積層サンプルに対して行い、空気中の水分子がセンサ内部へ浸透し、これが波長応答機能を引き起こして電圧を変化させていること(WDPEのメカニズム)を明らかにしました。さらに、この知見を基に親水性ポリマーをセンサ内部へ導入し、水分子を捕捉しやすい構造を設計したところ、色識別の応答時間を従来の数秒から0.15秒ほどへ大幅短縮することに成功しました。これにより、フィルターレスで薄型・高速な光センサを実現するに至りました。
本研究成果は、2026年7月24日(金)(日本時間)にドイツ科学誌「Advanced Functional Materials」(オンライン)に掲載されました。
【西久保講師のコメント】
我々が発見した「WDPE」は非常に新奇な現象で、機構の包括的な理解は困難でした。そこで放射光測定により、デバイス内部のミクロな変化を明らかにし、さらに高性能なデバイス設計の指針まで見出しました。共同研究は、自分達だけでは困難な課題も解決できます。デバイス内化学変化を用いた新たなデバイス設計を、センサだけでなく多様な機能へ展開していきたいです。
研究の背景
現在、スマートフォンやデジタルカメラ、自動運転用センサなど、多くの光センサは赤・緑・青(RGB)のカラーフィルターを組み合わせて色を識別しています。しかし、カラーフィルターは受光量の低下や構造の複雑化を招くため、より小型・薄型・高感度な光センサを実現する上でボトルネックとなります。これを解決するため、世界中でフィルターレスなカラーセンサの研究が進められていますが、多くは複数の受光素子や外部電圧を必要とし、かえって構造が複雑になってしまうという問題がありました。
本研究グループはこれまでに、アンチモン系半導体を用いた単一の光電変換素子において、照射する光の波長によって出力電圧が変化する「波長依存光起電力効果(WDPE)」を世界で初めて発見しました(2022年7月5日プレスリリース)。この現象は、単一素子のみで色を識別できる全く新しい原理として注目されました。しかしその発現メカニズムには未解明の点もあり、また色識別に数秒もの時間を要するなど課題がありました。
研究の内容
研究グループは、放射光実験施設フォトンファクトリー(PF) BL-2Bにおいて、その場軟X線吸収分光法(in situ XAS)を用い、湿度を制御しながらデバイス内部の状態を解析しました。その結果、空気中の水分子がセンサ内部へ浸透し、センサ内の酸化チタン(TiO2)層表面へ到達、吸着することを観測しました。これにより、青色~紫外光照射時のみ、TiO2の光触媒効果により水分子が化学反応を起こし、センサ内の電気的性質を変調させるという機構に至りました。従来は「悪者」とされていたセンサ内での化学反応を、あえて利用することで発現した機能といえます。
この知見を基に、水分子の浸透を促進させる親水性ポリマーをデバイス構造へ導入することで、色識別の機能を向上させることができないかと考えました。その結果、PSS(ポリスチレンスルホン酸)の導入により、色識別の応答時間は従来の約2~4秒から0.15秒程度まで短縮できました。これにより、電流から光強度を、電圧から波長を高速に識別できる検出器ができました。
本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)
本研究成果により開発された光センサは、フィルターを必要としないため、受光効率の向上やデバイスの小型化・薄型化が可能となり、ロボットや産業用カメラ、自動運転、医療など幅広い分野への応用が期待されます。さらに、放射光解析とデバイス開発を融合した本研究のアプローチは、カラーセンシングに留まらない様々な光機能デバイスへ展開できると考えています。また、本研究で開発したSbSI系材料は優れた可視光吸収特性を有し、太陽電池応用も可能と期待されます。
特記事項
本研究成果は、2026年7月24日(金)(日本時間)にドイツ科学誌「Advanced Functional Materials」(オンライン)に掲載されました。
※本研究成果を報告する論文は、当初8月5日(現地時間)の公開を予定しておりましたが、出版元のシステム上の不備により、7月23日(現地時間)に公開されました。
タイトル:“Water Adsorption-Induced Color Sensor: Insight into the Sensing Mechanism and Interfacial Engineering for Improved Responsiveness”
著者名:Tai Kobayashi, Ryosuke Nishikubo, Yusuke Tomiyori, Fumitaka Ishiwari, Daisuke Asakura, Eiji Hosono, Miho Kitamura, Hisao Kiuchi, Yoshihisa Harada, Akinori Saeki
DOI:https://doi.org/10.1002/adfm.76809
なお、本研究は、日本学術振興会 科学研究費助成事業(基盤B 25K01857、若手研究23K13826、基盤A JP24H00484、学術変革A「動的エキシトン」 JP20H05836、新学術領域研究「水圏機能材料」JP19H05717・JP22H04541、学術変革A「超セラミックス」JP22H05145・JP23H04626)JST-CREST(JPMJCR23O2)、JST-Spring(JPMJSP2138)、マツダ財団、八洲環境財団の支援を得て行われました。また、東京大学物性研究所 冨依勇佑 ISSPリサーチフェロー(AGC株式会社 化学品カンパニー開発本部 マネージャー)、産業技術総合研究所 朝倉大輔研究グループ長、細野英司上級主任研究員、量子科学技術研究開発機構(QST)北村未歩主任研究員の協力を得て行われました。
用語説明
※1 酸化チタン
TiO2。主にペロブスカイト太陽電池や色素増感太陽電池などにおいて、マイナス電荷を持つ電子を選択的に輸送する材料。光触媒材料としても非常に高い活性を持つことが知られている。
※2 光波長
光は“波”としての性質をもっており、波の山から山(あるいは谷から谷)への長さを波長という。波長によって光のエネルギーや、可視光の色が決まる。
※3 光電変換素子
異なる特性を持つ半導体を組み合わせることで、光照射により発電をするデバイスを指す。太陽電池や光センサ、光通信の受光器等、様々な場面で利用される。
※4 波長依存光起電力効果(WDPE)
研究グループが2022年に報告した、光波長により光電変換素子から出力される電圧が変わる現象。従来のデバイスでは、電圧は波長によらないため、非常に新奇な現象であった。この発表の後、複数の研究機関で類似の現象が報告されるようになった。
URL:https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/research/2022/20220705_2
※5 その場軟X線吸収分光
サンプルにX線を照射すると、原子特有の波長のX線を吸収する。また、酸化や還元により材料内の原子の化学状態が変化すると、X線吸収特性が変化するため、化学的な変化を観測できる。
参考URL
大阪大学 西久保綾佑 講師 https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/2014056c66bca6a1.html
大阪大学 佐伯昭紀 教授 https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/9edffb14f50a9e1f.html
NIMS(物質・材料研究機構) 木内久雄 主任研究員(研究当時:東京大学物性研究所 助教)
https://samurai.nims.go.jp/profiles/kiuchi_hisao
東京大学物性研究所 原田慈久 教授
https://www.u-tokyo.ac.jp/focus/ja/people/people003506.html
本件に関するお問い合わせ先
<研究に関するお問い合わせ>
大阪大学 大学院工学研究科 講師 西久保 綾佑 (にしくぼ りょうすけ)
TEL: 06-6879-4587 FAX: 06-6879-4588
E-Mail:nishikubo@chem.eng.osaka-u.ac.jp
<報道に関するお問い合わせ>
大阪大学 工学研究科総務課 評価・広報係
取材申込フォーム:https://forms.office.com/r/7dq9mBvSWb
TEL:06-6879-7231 FAX:06-6879-7210
E-Mail:kou-soumu-hyoukakouhou@office.osaka-u.ac.jp
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