ラティス構造は衝撃吸収特性に優れ、航空宇宙産業などで注目されています。しかしながら、規則的なセル形状である従来のラティス構造は、衝撃が加わる方向により異なる衝撃吸収特性(異方性)を示し、衝撃方向が予測できない製品には適用が困難でした。
地方独立行政法人東京都立産業技術研究センター(都産技研)と東京都公立大学法人東京都立大学(都立大)は、ラティス構造のセル形状を不規則にすることにより異方性が消失することを明らかにし、不規則なセル形状分布のパラメータ制御による衝撃吸収特性の制御に成功しました。
またUEL株式会社との共同研究※において、複雑なラティス構造を自動生成する手法を新たに開発し、機能性形状生成ソフトウェア「POLYGONALmeister FShape」に適用されました。本ソフトウェアは2025年2月25日より販売が開始されます。
※本研究はJST可能性検証(JPMJSF23CK)の助成を受けて実施しました。
技術のポイント
・Voronoi分割と正規分布ランダム関数を用いて規則構造を不規則化。
・セル生成の繰返し自動処理により指定した不規則さの構造を自動生成。
・構造の不規則さだけでなくセルサイズも制御可能で、ユーザーオリジナルのラティス構造を生成可能。
図1 規則/不規則ラティス構造の3Dプリント品
研究背景と内容
従来のラティス構造ではセル形状が規則的であることから変形帯(FB)が形成されやすく(図2a)、衝撃吸収性について異方性を示すため、均一な特性(等方性)が必要な製品への適用が困難でした。
本研究ではVoronoi分割法を用いてラティス構造を不規則化し、セル体積分布の変動係数(CV値)を不規則さパラメータとして定義して、不規則なラティス構造を得ました。
上記手法で作製した不規則ラティス構造の圧縮試験の結果、CV値の増加によりFBが消失し(図2b)、異方性を抑制できることが判明しました。
図2 ラティス構造の圧縮試験:(a) 規則ラティス、(b) 不規則ラティス.
また、CV値が一定値以上まで増加するとエネルギー吸収異方性は急激に低下し(図3;オレンジ色のプロット)、変形における平均エネルギー吸収量もCV値の増加により減少することが示されました(図3;水色のプロット)。
このことは、不規則ラティス構造のCV値の制御により、エネルギー吸収異方性およびエネルギー吸収量の制御が可能となることを示しています。
図3 規則/不規則ラティス構造のエネルギー吸収量と異方性
論文誌名:Elsevier, Additive Manufacturing
掲載日:2023年2月5日
論文タイトル:Effects of random and controlled irregularity in strut lattice structure of PA12 on compression anisotropy ( open access)
著者:大久保智*、山内友貴、北薗幸一(都立大) *責任著者
DOI: https://doi.org/10.1016/j.addma.2022.103385
特許出願済: 特開2023-114284
用語の説明
ラティス構造:
周期的なパターンや配置を持つ格子構造で、3Dプリンターを用いて作製される
Voronoi分割法:
空間上の配置された母点間を垂直二等分面で区切り、区切られた領域を最も近い母点にグループ化する空間分割法
変動係数:
確率・統計学において標準偏差を平均値で割った値で、データの相対的なばらつきを表す指標
【お問い合わせ】
地方独立行政法人東京都立産業技術研究センター
機械技術グループ 青沼 TEL 03-5530-2570
経営企画室 大原 TEL 03-5530-2521 MAIL: koho@iri-tokyo.jp
東京都立大学 大学院
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【製品に関するお問い合わせ】
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