東京都立大学AI利活用ポリシー
東京都立大学学長
大橋 隆哉
我が国が目指すべき将来の社会として提唱されているソサエティ5.0構想において、いくつかの技術が重要とされているが、その中でも一番に挙げられることが多いのがAI(人工知能)技術であろう。特に、生成AIの利活用は今後、社会のさまざまな場面で重要になってくることが予想され、本学としても日常的に生成AIに向き合っていくことになると考えられる。
ただし、AIは便利な技術であると同時に、人間の2つの「そうぞうする力」、すなわち想像力と創造力を奪ってしまう可能性があることを恐れなければならない。しかし、太古のソサエティ1.0の時代に、火事や火傷の原因になるからと言って人類が火を使うことをやめなかったように、ソサエティ5.0の時代において我々は、AIと共生していく必要があると考えられる。
東京都立大学の学生や教職員には、AIが内包する「危うさ」を認識しつつも、 AIとうまく付き合ってほしいと願っている。
1. AIの利用について
学生の学習活動、教員の教育・研究活動、そして職員の職務遂行の上で、AIを適切に利用することは、今後重要になってくると考えられる。たとえば、情報の入手のためにインターネットで検索をするのは今や当たり前であるが、その際、生成AIを活用することは効率の面で意味がある。また、文章やプログラムを書く上で、学生も教職員も、AIを効果的に利用することが考えられる。下にあげるような点に注意しつつ、学習、教育・研究、職務の効率化をはかってほしい。
2. AIの利用上の注意
当たり前であるが、AIは万能の道具ではない。特に、生成AIが生成したものがすべて正しいという保証はどこにもなく、生成結果の正しさを盲信しないという態度が必要である。加えて、倫理的に問題のある表現、偏見や差別などが含まれている可能性についても、十分に注意を払う必要がある。
また、大学は教育・研究に関する訓練の場であり、集う人々の創造力や想像力を鍛える場である。安易なAIの利用はその様な鍛錬の機会を失いかねず、その結果、その利用者は自らの力で学び、真理を探究することを放棄することになる可能性もある。
他にも注意すべき点はあるが、中でも教育・研究における注意点について、具体的に示すこととする。
(1) 成績評価項目に関わる生成AI利用
ChatGPT等の生成AIを活用してレポート等を作成した場合、盗用又は剽窃行為にあたる可能性があることに注意してほしい。盗用・剽窃とは、文章・数式等を直接利用するだけでは無く、そこに示されるアイデア・意見等の内容を自分のオリジナルであるかのように表現する場合も含まれる。一方、生成AIは情報収集等に利活用することができる。そのため、授業における生成 AIの利用については、必ず各科目担当教員の指示に従うこととする。
(2) AIと著作権
生成AI により生成された文章や画像等は、著作権等の観点を踏まえた上で、利用者本人の判断で注意深く取り扱う必要がある。自身の見解を表現するにあたり、改めて、隅々まで自身が理解する言葉・数式であるかを確認し、その内容に責任を持つことが必要である。なお、生成AIの生成物に関する著作権の問題は、現在、議論されている事柄も多く、すべてがはっきりと解決されているわけではないので、特に授業の範囲を越えて広く公開する場合などは注意する必要がある。
(3) AIと個人情報
生成AIに個人情報や部外秘情報を入力しないように、常に注意する必要がある。これらは、AI自身の学習に用いられ、ひいては部外秘情報等の漏洩につながる恐れがある。可能であれば、AIの学習を禁止するオプション(オプトアウト)を用いるべきである。
3. 次世代AI人材育成プログラムについて
本学は、博士後期課程学生の育成事業である次世代研究者挑戦的研究プログラムおよび次世代AI人材育成プログラムに採択されている。今後、AI分野はもとより、AI分野における新興・融合領域として定義される次世代AI分野の人材育成や先端的な研究開発を推進する事業に取り組む予定である。