【研究発表】ダイレクト・エアー・キャプチャー(DAC)で回収した二酸化炭素を植物工場に応用:ウシオ・大気社と共同開発

報道発表
1 概要

 炭素循環型社会の実現に向け、植物工場では大気中の二酸化炭素の濃縮・供給技術の開発が求められています。そこで、東京都立大学で開発した高速DAC技術、株式会社大気社(以下、「大気社」という。)の高効率ガス循環・熱交換システム、ウシオ電機株式会社(以下、「ウシオ」という。)の吸収剤実装・太陽光利用システム、を活用することで、大気中の二酸化炭素を高効率かつ低コストで回収・濃縮し、植物工場に適切な濃度の二酸化炭素を供給する新しいDACシステムの開発を目指します。

【ポイント】
  • 高いDAC性能を示す、イソホロンジアミン等を用いて大気中の二酸化炭素を高速回収する。
  • 太陽光利用、熱交換等を活用し、低エネルギー(低コスト)で吸収した二酸化炭素を脱離・濃縮する。
  • 濃縮した大気中の二酸化炭素を植物工場に供給し、植物の成長を促進させる。

 

2 リリースの詳細

 IPCC※1からの指摘にもあるように、気候変動の要因の1つとして、地下から石炭、石油、天然ガスといった炭素を掘り起こすことで発生する大気中の二酸化炭素濃度の上昇があげられています。2050年のカーボンニュートラルに向けて地下からの炭素に依存しない社会基盤や技術開発が進められる一方、完全に二酸化炭素の放出量をゼロにするために、大気中の低濃度の二酸化炭素(400ppm)を直接回収、利用する技術であるDACが提案されています。しかしこの技術は効率・コストの面で改善の余地があり、現在、高効率な材料やシステムが望まれています。東京都立大学 大学院理学研究科 化学専攻 山添 誠司教授らの研究グループは、既存技術を大きく凌駕(りょうが)する、非常に高い二酸化炭素の吸収特性を持つ材料「イソホロンジアミン」を見出し、DACにとって理想的な物質であること、60℃程度の温度で吸収した二酸化炭素を最大数%まで濃縮できることを明らかにしました※2。(2022年5月11日報道発表「既存技術を凌駕!世界最速級!空気中のCO2高速回収技術の開発」)現在、ビニールハウスや植物工場では植物の成長を促進させるため、ボイラー等を用いて高濃度(0.1~0.5%)の二酸化炭素を供給しています。そこで、このDAC技術と大気社の高効率ガス循環・熱交換システム、ウシオの吸収剤実装・太陽光利用システムを合わせることで、大気中の二酸化炭素を低エネルギー・低コストで回収し、高濃度二酸化炭素を供給するDAC装置の開発に取り組みます。

 今回、東京都立大学、ウシオ、大気社の3社は、この大気中の二酸化炭素をSkyCarbon®と名付け、そのSkyCarbonをカーボンオフセットに活用する「SkyCarbon構想」(図1)の実現を目指します。その一環として、まずは大気社グループが保有する植物工場にこのDAC装置を実装 (図2)し、気候変動対策だけでなく食料対策や豊かな生活を可能にする炭素循環型社会に向けて、研究開発や実証実験を開始することで、2030年までの事業化を目標としています。今回開発するDAC装置は大気中の二酸化炭素を10倍程度に濃縮し、植物工場に応用するものであり、これまで、ボイラーや二酸化炭素ボンベ等で行っていた二酸化炭素の供給を、大気中の二酸化炭素を低コストかつ低エネルギーで回収・濃縮することで供給する日本初の新しいDAC技術です。本技術は、植物工場やハウス栽培での利用だけでなく、農作物や藻工場等のグリーンカーボンにも応用できるほか、より高濃度の二酸化炭素を供給できるようになれば将来的には燃料・化学品合成に活用することも可能になり、2050年度のカーボンニュートラル実現に向けた第一歩となります。

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図1:SkyCarbon構想のイメージ
大気中の二酸化炭素を回収して身近で有用なものに変換し、カーボンニュートラル、大気中のカーボンネガティブに貢献します。

 

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図2:植物工場へのDAC装置の実装

DAC装置は、「大気中二酸化炭素のみを吸収するための二酸化炭素吸収材」、「吸収した二酸化炭素回収に必要となる熱源(太陽光活用)」、「熱を二酸化炭素吸収材に伝える伝熱技術」、「制御技術」で構成されます。イソホロンジアミンを活用してウシオが独自に固体化した二酸化炭素吸収材に、同じくウシオが開発中の円筒型太陽光集熱器を使って太陽光を効率よく熱に変換して電熱し、二酸化炭素を低エネルギーで回収します。また、回収した二酸化炭素を植物工場に供給する際、加熱した気体の温度を低減するため、植物工場の排水を活用します。

 

※1   Intergovernmental Panel on Climate Changeの略。日本語では「気候変動に関する政府間パネル」と呼ばれ、 1988年に世界気象機関(WMO)と国連環境計画(UNEP)によって設立された政府間組織のこと。
※2   S. Kikkawa, K. Amamoto, Y. Fujiki, J. Hirayama, G. Kato, H. Miura, T. Shishido, S. Yamazoe, Direct Air Capture of CO₂ Using a Liquid Amine-Solid Carbamic Acid Phase-Separation System Using Diamines Bearing an Aminocyclohexyl Group, ACS Environ. Au, 2, 354-362 (2022): NEDOプロジェクト「未踏チャレンジ2050」の成果

 

3 問合せ先

(研究に関すること)

東京都立大学大学院 理学研究科 化学専攻 教授 山添 誠司
TEL:042-677-2553 E-mail:yamazoe@tmu.ac.jp

(大学に関すること)

東京都公立大学法人
東京都立大学管理部 企画広報課 広報係
TEL:042-677-1806 E-mail:info@jmj.tmu.ac.jp

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東京都立大学大学院理学研究科化学専攻 山添誠司教授

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報道発表資料(1.6MB)