1.概要
内部に別の材料を含んだ複合材料は、軽量化や強耐久性という高機能性を持つため、幅広い分野に応用されている産業的に重要な技術です。例えば、近年では車や飛行機の外枠などに用いられています。このような社会的重要性があるにもかかわらず、外力応答の機構についてあまりよくわかっていませんでした。最適な複合材料の設計のためには、この外力応答の機構を解明することは重要な課題です。
東京都立大学大学院理学研究科の田村優斗(大学院生)、谷茉莉助教、栗田玲教授らの研究グループは、複合材料のもっとも単純なモデルの一つを用いたシミュレーションを行い、外力は硬い領域に局在化し、その局在化の割合は、硬い領域の密度変化に大きく依存することを発見しました。つまり、材料のパラメターの密度依存性が重要であることを示しました。
このような密度依存性は、これまであまり考えられてきませんでした。複合材料の設計において、各成分の圧縮率が全体の力学応答を決めることを示しており、今後の複合材料の設計において重要な指針を与えたといえます。
2.ポイント
- 複合材料において、内部で力が局在化する機構を解明することは重要な課題でした。
- 内部の硬い領域に力が局在化することを発見しました。
- 局在化の割合は、各成分の圧縮率が重要であることを明らかにしました。
- 今後の複合材料の設計への貢献が期待されます。
■本研究成果は、1月12日付け(英国時間)でNature Publishing Groupが発行する英文誌Scientific Reportsに発表されました。本研究の一部は、学術振興会科学研究費補助金(基盤B No. 20H01874)の支援を受けて行われました。
3.研究の背景
一成分で構築される材料の評価として、ヤング率やポアソン比といったパラメターがよく使われていて、材料設計において非常に重要な役割を果たします。複数の成分で構築される複合材料は、成分の混合比に応じてヤング率やポアソン比が決まるわけではなく、耐久性や耐熱性に優れた材料が作成可能として、近年注目を浴びています。このような複合材料の機能は、内部の構造に依存しており、どのように材料設計するかが重要となってきます。一方で、複合材料のヤング率やポアソン比といったパラメターがどのように決められているのかは未解明であり、重要な問題でした。
今回、複合材料のもっとも単純なモデル系を用いて、シミュレーションを行いました。硬さの異なる2種類の粒子を用意し、図1のように縦一筋に硬い粒子を配置しました。この配置に対して、上から一定の力を加え、力の分布の様子や分布強度を硬さや筋の太さを変えて詳しく調べ、この分布強度を決めている因子を解明することを目指しました。
図 1 (a) 硬さの異なる粒子の配置。 (b) 上から力を加えた時の力の分布。
4.研究の詳細
東京都立大学大学院理学研究科物理学専攻の田村優斗(大学院生)、谷茉莉助教、栗田玲教授の研究グループは、硬さの異なる2種類の粒子を用いたソフトパーティクルモデルのシミュレーションを行いました。図1(a)のように、硬い粒子が縦に貫いた配置を取り、この配置に対して、上から一定の圧力を加えました。この時、図1(b)のように力が分布することから、まず、硬い領域に力が強く伝播することが明らかとなりました。
さらに、この力の分布の様子を定量的に調べるために、内部の構造変化を詳しく調べました。図2は硬さの比Ghを変えた時の内部構造変化と力の分布を示しています。図2(a)はx軸方向の変位、(b)はy軸方向の変位、(c)は底辺での垂直抗力、(d)は硬い領域と柔らかい領域の垂直抗力の比を示しています。図2(a)では、硬い領域では広がる方向に変位しており、(b)では硬さに関係なくほぼ一定であることがわかります。このことから、硬い領域では横方向に広がり、密度が低下していることを意味しています。図2(d)の点線は、密度変化しなかった場合における連続体近似を行なった時の理論線となります。シミュレーション結果と比較すると、理論よりもだいぶ小さな値になっていることがわかりました。ここで、マクロな材料の硬さは成分の硬さだけでなく、密度や構造に依存します。通常の材料のように密に詰まった状態では、少しの密度変化であっても物性値は大きく変化することが知られています。今回においても、密度変化はわずかではあるのですが、その小さな密度変化によって、硬い領域が柔化し、一方で柔らかい領域が固くなっていました。そのため、領域間の硬さの差が小さくなり、力の局在化が抑えられていることがわかりました。
図2 (a)はx軸方向の変位、(b)はy軸方向の変位、(c)は底辺での垂直抗力、(d)は硬い領域と柔らかい領域の垂直抗力の比。点線は連続体近似を行なった時の理論線。
成分間の圧縮率の差が密度変化を誘起し、内部のパラメターが大きく変化していることがわかりました。このことから、複合材料の設計において、単純に各成分の物性パラメターを見るだけでなく、内部での密度変化や密度変化による物性値の変化が重要であることが明らかとなりました。
5.研究の意義と波及効果
今回の研究では、硬さの異なる領域が内部に分布しているときに力の分布が密度変化に強く依存していることが明らかとなりました。このような密度依存性は、これまであまり考えられてきませんでした。複合材料の設計において、各成分の圧縮率が全体の力学応答を決めることを示しており、今後の複合材料の設計において重要な指針を与えたといえます。 今回は非常に簡単なモデルで行いましたが、より複雑な内部構造や摩擦を入れるなど発展が可能です。現実に近い状態でのシミュレーションも行うことで、材料学・物理学へのさらなる貢献が期待されます。
【論文情報】
【発表論文】
“Origin of nonlinear force distributions in a composite system ”
Yuto Tamura, Marie Tani & Rei Kurita
Scientific Reports 12, 632(2022)
DOI: 10.1038/s41598-021-04693-8
【問合せ先】
(研究に関すること)
東京都立大学大学院 理学研究科 物理学専攻 教授 栗田玲
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