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【研究発表】鉄欠乏環境で耐え忍ぶための光合成反応:isiA遺伝子の多様な発現機構と機能の解明

発表のポイント

  • 集光性色素タンパク質(注1)は、光合成に必要な光エネルギーを集め、光化学系に供給する重要な役割を持っています。シアノバクテリア(注2)が鉄欠乏条件下で発現させる集光性色素タンパク質IsiAは種間で数が異なり、4種類もつ種も存在しますが、その多様性の理由は不明でした。
  • 4種類のisiA遺伝子をもつシアノバクテリアAnabaena sp. PCC 7120の鉄欠乏条件下において、野生株からはIsiA1、isiA1遺伝子欠損株からはIsiA2とIsiA3が発現することと、各タンパク質が光化学系Iタンパク質(PSI)に結合し、励起エネルギーを供給することを明らかにしました。
  • 1つのisiA遺伝子が使えなくても代わりのisiA遺伝子が発現することにより、鉄欠乏という貧栄養下を生き抜く術をAnabaenaが持つことを見出しました。
 岡山大学異分野基礎科学研究所の長尾遼特任講師、神戸大学大学院理学研究科の秋本誠志准教授、東京都立大学大学院理学研究科の得平茂樹准教授らの共同研究グループは、理化学研究所環境資源科学研究センターの堂前直ユニットリーダーらと共に、シアノバクテリアAnabaena sp. PCC 7120の鉄欠乏状態において誘導されるIsiAタンパク質の発現解析および時間分解蛍光分光法(注3)を用いた励起エネルギー伝達解析に成功しました。この結果から、IsiAタンパク質が選択的な発現制御機構を持ち、光合成光化学反応に必要な励起エネルギー供給を担っていることが明らかになりました。本研究成果は10月15日、欧州の科学雑誌「Biochimica et Biophysica Acta - Bioenergetics」にオンラインで掲載されました。
 本研究成果は、「鉄欠乏という貧栄養環境の中でいかにして光合成生物は耐え忍ぶのか?」、という問いに対して知見を与えるものです。光合成生物は貧栄養下において光合成装置を調整し、必要最低限の光合成反応を駆動する必要があります。IsiAの多様な発現は生存戦略の一環であると考えられます。

発表内容

<現状>

 光合成とは、太陽の光エネルギーを利用して水・二酸化炭素から炭水化物と酸素を合成する反応です。光化学系I(PSI)・光化学系II(PSII)と呼ばれる膜タンパク質複合体が光合成反応の中心であり、光エネルギーを有用な化学エネルギーへと変換する役割を担います。光化学系タンパク質は陸上植物・藻類・シアノバクテリアでほぼ同じですが、光化学系タンパク質に結合し、光エネルギーを供給する集光性色素タンパク質は極めて多様性に富んでいます。この多様な集光性色素タンパク質が、生育に必要な光エネルギーを集め、光化学系に供給することにより、光合成反応を駆動しています。至適生育環境であれば難なく通常の光合成反応を進めるのですが、環境の変化などにより貧栄養下にさらされた場合は光合成反応装置を再編成・最適化する必要があります。シアノバクテリアでは生育に必要な鉄が減ることにより特有な集光性色素タンパク質iron-stress-induced A (IsiA)を発現することが知られています。発現したIsiAはPSIに結合し、光励起エネルギーを供給します。興味深い点は、IsiAの種類がシアノバクテリア種間で異なるということです。基本的にはIsiAは1種類なのですが、いくつかのシアノバクテリアでは4種類持つものも存在します。ではなぜこのようなIsiAの多様性が生じたのでしょうか?その詳細は全く不明でした。

<研究成果の内容>

 長尾特任講師、秋本准教授、得平准教授らの共同研究グループは、堂前直ユニットリーダーらと共に、isiA遺伝子を4つ持つシアノバクテリアAnabaena sp. PCC 7120の鉄欠乏状態において発現されるIsiAタンパク質の選択的な発現メカニズムおよびそれらIsiAからPSIへの励起エネルギー伝達機構の解明に成功しました。鉄欠乏条件下においてIsiA1が優先的に発現する一方、isiA1遺伝子が不活性化した際にはIsiA2およびIsiA3が発現することを見出しました(図A)。発現したIsiAはクロロフィルやカロテノイドを持ち、数十~数百ピコ秒でPSIへ励起エネルギー伝達します。このとき、少なくともIsiA1からPSIへは2つのエネルギー伝達経路、IsiA2とIsiA3からは1つのエネルギー伝達経路が存在することがわかりました(図B)。このようなIsiAタンパク質の選択的な発現および励起エネルギー伝達機構により、このシアノバクテリアは鉄欠乏という貧栄養下において光合成反応を上手く調節しているのかもしれません。

<社会的な意義>
 太陽光を利用したクリーンエネルギーの活用は、エネルギー問題や環境問題の解決につながる非常に重要な事柄です。IsiAはシアノバクテリア特有の集光性色素タンパク質であり、他の光合成生物の集光性色素タンパク質と比べ、励起エネルギー伝達機構が異なると考えられています。IsiAの光捕集機構をより詳細に理解することは、太陽光エネルギーを効率よく集める分子配置の設計に指針を提供する可能性があります。将来的には、得られた知見を利用することで、太陽光エネルギーの成分の選択的利用に基づいたエネルギー利用デバイスの創出が期待されます。
図. AnabaenaのIsiA1, 2, 3の発現モデル(A)および励起エネルギー伝達経路(B)。IsiAとPSIにはエネルギーの異なるクロロフィル(Chl)が存在する。

論文情報

論 文 名:“Molecular organizations and function of iron-stress-induced-A protein family in Anabaena sp. PCC 7120”
「アナベナisiA遺伝子の発現分子機構と機能」
掲 載 紙:Biochimica et Biophysica Acta - Bioenergetics
著  者:Ryo Nagao, Makio Yokono, Yoshifumi Ueno, Takehiro Suzuki, Koji Kato, Ka-Ho Kato, Naoki Tsuboshita, Tian-Yi Jiang, Naoshi Dohmae, Jian-Ren Shen, Shigeki Ehira, and Seiji Akimoto
D O I:https://doi.org/10.1016/j.bbabio.2020.148327 外部リンク

研究資金

 本研究は、日本学術振興会「基盤研究」(課題番号:JP20K06528、JP20H02914)、日本学術振興会「萌芽研究」(課題番号:JP19K22290)、日本学術振興会「新学術領域研究(研究領域提案型)」(課題番号:JP19H04726、JP17H06433、JP16H06553)の支援を受け実施しました。

補足・用語説明

注1:集光性色素タンパク質
 クロロフィルやカロテノイドなどの色素を結合した、太陽光エネルギーを集める役割を持つタンパク質です。光合成生物の種類に応じて異なる集光性色素タンパク質が存在します。

注2:シアノバクテリア
 藍色細菌、あるいは藍藻とも呼ばれ、原核生物に分類されます。単細胞ながら、植物と同じように光合成を行います。地球上へ生命が誕生した初期に出現し、光合成を通して大気中に酸素を生産し続けた生物です。

注3:時間分解蛍光分光法
 パルスレーザーを色素に照射した後、色素から発せられる蛍光の変化をフェムト秒(10-15秒)からピコ秒(10-12秒)の時間分解能で追跡する方法です。光エネルギーを吸収した直後の色素分子の挙動だけではなく、分子が置かれた環境に関するさまざまな物理化学的情報を解析するための非常に有用な分光法です。この手法により、集光性色素タンパク質の色素分子の役割を明らかにします。

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