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【研究発表】RNAに飾りを増やして高温環境下で生き延びる

~RNAアセチル化塩基解析法で超好熱古細菌生存の謎に迫る~

ポイント
  • これまでは、RNAのアセチル化反応を効率よくかつ簡便に解析できる方法がなかったためその実態や生物学的な影響が不明だった。
  • RNAのアセチル化反応を1塩基レベルで識別し、高感度で網羅的かつ定量的に解析できるようになった。
  • RNAのアセチル化反応が関与する生命現象やその異常に起因する疾患の解析の進展が期待される。

 JST 戦略的創造研究推進事業において、東京都立大学の田岡 万悟 准教授、延 優子 特任研究員、礒辺 俊明 客員教授らのグループは、細胞内のRNAを構成する4つの要素の1つであるシチジンのアセチル化反応で生じるアセチル化シチジン(Ac4C)注1)を1塩基レベルで識別し、高感度で網羅的かつ定量的に解析できる新たな方法を開発しました。
 RNAのアセチル化は、バクテリアやヒトなどの細胞ではRNAの構造を安定化したり、リボソームを合成したりするための調節に関わっていると推定されていますが、詳しい役割は分かっていません。本研究グループは、開発した方法を用いて85度の過酷な条件下で生育する超好熱古細菌(T.kodakarensis)のRNAを調べたところ、リボソームRNA注2)にAc4Cが数多く含まれることを発見しました。さらに質量分析法とクライオ電子顕微鏡法注3)を組み合わせてこの古細菌が持っているリボソームの全体像とAc4C分布を調べたところ、超好熱古細菌のリボソームは、生育環境が高温になるほどリボソームRNAに多くのAc4Cを付加することが分かりました(図1)。これはAc4Cがリボソームを熱から守る鍵となっていることを示しています。
 本成果は、生物の環境要因の変化に伴い、DNAからRNAが転写された後に、どのように化学的に修飾されるかの動態を解析するのに極めて有効です。今後、さまざまな種類のRNAに関する構造と機能についての基礎研究や異常なRNAの修飾反応に起因する筋萎縮性側索硬化症(ALS)など多くのヒト難治性疾患の発症メカニズム解析から早期診断、さらに治療のための創薬研究に貢献することが期待されます。
 本研究成果は、2020年6月17日(英国夏時間)に英国科学誌「Nature」のオンライン版に掲載されます。

本成果は、以下の事業・研究領域・研究課題によって得られました。
戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST)
研究領域:「ライフサイエンスの革新を目指した構造生命科学と先端的基盤技術」
     (研究総括:田中 啓二 東京都医学総合研究所 理事長)
研究課題名:「RNA代謝異常症のリボヌクレオプロテオミクス解析と構造生命科学への展開」
研究代表者:礒辺 俊明(首都大学東京 大学院理工学研究科 特任教授(研究当時))
研究期間:平成25年4月~平成31年3月
研究の背景と経緯

 RNAはゲノムに保存された遺伝情報とたんぱく質をつなぐ中間物質としての一般的な役割のほかに、染色体の安定性や再構成、転写や翻訳、物質輸送を含む多様な細胞機能を調節する重要な役割を担っています。こうした多様な機能に対応して、RNAは細胞内でDNAから転写された後に、メチル化やアセチル化、異性化、プロセッシングなどさまざまな化学修飾(転写後修飾)を受けることによって、その機能が精密に調節されていることが知られています。
 RNAの転写後修飾は原核生物から真核生物に至る全ての生物のRNAで観察され、その種類は150種類以上に及んでいますが、それぞれの修飾はRNAを含む生体分子間の相互作用の調節や立体構造の安定化、細胞内局在の調節、抗生物質耐性など、RNAが持つ特別な機能を示したり生命活動を調節したりする現象に関わっていることが示唆されています。しかし、その詳細は必ずしも明らかではありません。
 また、RNAの転写後修飾の詳細で網羅的な解析はエピトランスクリプトーム研究と呼ばれ、たんぱく質発現の新しい制御機構として、国際的な生命科学研究の大きな潮流を生み出しています。Ac4Cは、バクテリアからヒトに至る生物の細胞に存在する多くのRNAに含まれており、RNAがDNAから転写されて生成された後に生じる修飾塩基の1つであることが知られていました。しかしこれまでの研究ではAc4Cを効率よく高感度で網羅的かつ定量的に解析する方法がなかったため、RNA中の分布に関する詳細やRNAの構造と機能に及ぼす影響などの多くは分かっていませんでした。

研究の内容

 本研究で開発した方法によって、細胞内に存在する種々のRNA、すなわちたんぱく質の合成に関わるメッセンジャーRNA、トランスファーRNA、リボソームRNAや、さまざまな役割を持つ非コードRNAに含まれるAc4Cを1塩基レベルで識別し、効率よく高感度で網羅的かつ定量的に解析できるようになりました(図2)。またこの方法によって、バクテリアや真核生物のRNAには数少ないAc4Cが、85度を超える過酷な高温環境で生育する超好熱古細菌(T.kodakarensis、鹿児島小宝島の硫気孔で発見)のリボソームRNAを含む種々のRNAで、温度条件に依存してその数を増加させることが明らかになりました。
 本研究では、開発した方法によって超好熱古細菌リボソームRNAのAc4C修飾を大規模に解析すると同時に、その結果をRNA質量分析法で検証し、クライオ電子顕微鏡法でリボソーム複合体注4)の詳細な三次元構造を明らかにしました。その結果、従来知られていなかったAc4C修飾反応を触媒する酵素の基質特異性注5)(認識配列5’-CCG-3’)を明らかにするとともに、この修飾が85度以上の高温におけるリボソーム複合体の熱安定性に寄与していることを示しました。
 本研究成果は、新しく開発した方法と質量分析法、クライオ電子顕微鏡法を組み合わせる方法が、生命科学の新しい潮流であるエピトランスクリプトーム研究の基盤になるRNAの転写後修飾の実態と環境要因の変化に伴うダイナミクス解析に有効であり、RNAの構造と機能に関する研究やRNAの修飾反応の異常に伴うヒトの疾病の解析から創薬に至る研究に革新的な進歩をもたらすことを示しています。

今後の展開

 本研究成果は、RNAの構造と機能に関する基礎研究やAc4C修飾に関連する早老症「ラミン病」などのヒトの希少疾患、さらにはRNAの代謝異常に起因する筋萎縮性側索硬化症(ALS)など多くのヒトの難治性疾患の発症機序の解明から早期診断、創薬を含む治療法の開発につながる研究の端緒となることが期待できます。

付記

本研究は、ワイツマン科学研究所のシュワルツ教授とシャレブ=ベナミ教授のグループ、アメリカ国立衛生研究所(NIH)のマイヤー教授と共同で行いました。

参考図
65度 75度 85度
65度 75度 85度
図1 異なる温度で生育した超好熱古細菌T.kodakarensisリボソームRNAに存在するAc4C
 クライオ電子顕微鏡法で決定したT.kodakarensisリボソームRNAの立体構造とAc4Cの位置(水色)を示している。この図(65度、75度、85度条件下)から生育温度の上昇に伴ってリボソームRNA分子中のAc4Cの数が大幅に増加していることが分かる。

図2 RNA中のAc4Cを解析する方法の概略

 RNAを酸性NaCNBH3処理あるいはそれと比較するための擬似的な無処理(モック処理)を行う。その後、RNAにアダプターを連結して逆転写反応によってcDNAを合成する。このcDNAをさらにPCR法で増幅した後に配列を決定する。
 Ac4Cは逆転写の際にモック処理ではシチジンとして認識されて配列決定されるが、一方で酸性NaCNBH3処理された場合にはウリジンとして認識される。そのため、両者の配列を比較することにより、RNA上におけるAc4Cの位置が特定される。

用語解説

注1)アセチル化シチジン(Ac4C)
シチジンの塩基であるシトシンの4位に位置するアミノ基が酵素によってアセチル化されることで生じる転写後修飾。

注2)リボソームRNA
リボソーム複合体に含まれるRNA成分。リボソーム複合体の骨格を形成し、たんぱく質を合成する活性部位を持っている。

注3)クライオ電子顕微鏡法
透過型電子顕微鏡法の一種で、試料を低温で解析する手法である。構造生物学や細胞生物学の分野で用いられる。

注4)リボソーム複合体
細胞内に存在するたんぱく質を合成する小器官。すべての生物が持っている。

注5)基質特異性
酵素反応が特定の化学物質の構造を識別し、化学反応を促進する仕組みのこと。

論文タイトル

“Dynamic RNA acetylation revealed by quantitative cross-evolutionary mapping”
(生物種を超えた定量的マップ法により明らかになったRNAアセチル化修飾のダイナミズム)

DOI:10.1038/s41586-020-2418-2

報道発表資料 (844KB)Adobe PDF

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