【研究成果発表】高エントロピー合金効果に着目した層状超伝導体の開発に成功

~層状機能性材料設計の新たなコンセプト~

報道発表

 首都大学東京 理学研究科物理学専攻の水口佳一准教授の研究グループは、高エントロピー合金(1)型の層を持つ新しい層状超伝導体を発見しました。
 この層状超伝導体は、電気が伝導し超伝導が発現するBiS2伝導層と、電気的に絶縁のREO(希土類酸化物)ブロック層(REは希土類)の交互積層構造を持つBiS2系層状超伝導体の一種です。今回新しく開発したコンセプトは、REOブロック層のREをLa、Ce、Pr、Nd、Smの5種類の希土類元素で固溶させ、高エントロピー合金状態にすることです。高エントロピー効果により結晶構造が安定化し、超伝導特性が向上することを発見しました。
 今後、高温超伝導体を含めた様々な層状機能性材料にこのコンセプトを応用し、これまでにない機能を有する高エントロピー合金型ブロック層を持った層状機能性材料が開発されることが期待されます。

【研究成果のポイント】
・新規超伝導物質を発見
・層状物質への高エントロピー合金効果の導入
・高エントロピー合金効果による結晶構造安定化と超伝導特性向上の可能性
・高エントロピー合金型の層状構造を持つ新規機能性材料開発への期待

研究の背景と経緯

 層状化合物は、二次元的な層状(シート状)の結晶構造を持つ物質であり、異なる種類の層を積層させることで、様々な物質をデザインすることができます。さらに、二次元的な結晶構造は低次元的な電子状態を生じさせるため、高温超伝導(2)などの特異な量子現象の舞台として盛んに研究されてきました。高い超伝導転移温度(Tc)(3)を持つ銅酸化物高温超伝導体では、銅と酸素が作るCuO2面が共通の層状構造として存在し、高温超伝導発現の鍵となりました。同様に、2008年に発見された鉄系超伝導体では、鉄とヒ素が結合したFe2As2層が高温超伝導発現の鍵となり、2012年に私たちが発見したBiS2系超伝導体ではビスマスと硫黄が結合したBiS2層が超伝導発現の舞台となりました。
 これらの層状超伝導体は“超伝導状態が発現する層(伝導層)”と“ブロック層(4)”が積層した結晶構造を持っています。
 なお、この研究開発は、(独)日本学術振興会の科学研究費補助金(新学術領域J-Physics、基盤研究(B))の助成を受けて行われました。

研究の内容

 今回、本研究グループはBiS2系層状超伝導体のREO0.5F0.5BiS2に着目し、従来1つまたは2つの元素で構成していたREサイトを、La、Ce、Pr、Nd、Smの5元素で固溶した多結晶試料を4種類合成しました。すべての試料において、REサイトのそれぞれのイオンの占有率を10-30%とすることで、近年注目を集める高エントロピー合金と類似の状態をブロック層において実現しました。RE = La0.2Ce0.2Pr0.2Nd0.2Sm0.2とした試料の結晶構造を図1に示します。

図1. 高エントロピー合金型ブロック層を持つREO0.5F0.5BiS2超伝導体の結晶構造。(RE=La0.2Ce0.2Pr0.2Nd0.2Sm0.2

図1

図2.  超伝導転移温度と格子定数aの相図

図2

 今回合成した4つのREO0.5F0.5BiS2試料はすべて超伝導転移を示しました。また、固溶させる希土類の比率によって、格子定数a(図1のa軸方向の単位格子の長さ)は異なる値となり、BiS2伝導層のBi-S間結合距離が異なる試料が合成されました。
 図2は、従来型および高エントロピー合金型のREO0.5F0.5BiS2における超伝導転移温度と格子定数aの関係を示す相図です。REサイトが1元素または2元素(例えばRE = Ce0.6Nd0.4のような固溶系)からなる従来型試料では、a = 4.03Å(REがCeとPrの中間)より格子定数が大きくなると超伝導が消失します。これは、Bi-S間結合距離が長くなりすぎ、BiS2伝導層の結晶構造が乱れるためだとわかっています。一方、高エントロピー合金型試料では、a = 4.035Åの試料でもTcが3ケルビンの超伝導転移が観測されています。すなわち、高エントロピー合金型ブロック層を持つ試料では、BiS2伝導層の結晶構造の乱れが抑制されている可能性があります。

【用語解説】

(1)高エントロピー合金

一般的な合金は2つ程度の元素で構成される。近年、1つの元素サイトに5種以上の元素を5-35%の占有率で固溶させた合金が高エントロピー合金として定義され、盛んに研究されている。特に、高エントロピー効果により増強する強度や耐久性を利用した構造材料や生体材料の分野において、従来材料にない高性能が実現している。

(2)高温超伝導

超伝導は低温の物質で起こる量子現象で、電子がクーパー対という対を形成することで電気抵抗が消失する現象である。この性質を生かし、超伝導は電力ケーブルや強磁場マグネットなどに応用される。特に、比較的高温(例えば30K以上)で超伝導状態を実現できる物質を高温超伝導物質と呼ぶ。

(3)超伝導転移温度 (Tc)

冷却により物質が常伝導状態から超伝導状態に転移する温度。

(4)ブロック層

電気的に絶縁な層。伝導層(超伝導が発現する層)と交互に積層することで、伝導層に二次元的な電子状態を実現する。

今後の展開

 REOブロック層と類似の構造を持つ層状超伝導体は多く存在するため、高エントロピー合金型ブロック層を持つ様々な層状超伝導体が開発されることが期待されます。特に、高温超伝導体や熱電変換材料などの層状機能性材料にこのコンセプトを応用することで、これまでにない革新的な機能を有する高エントロピー合金型ブロック層を持った層状機能性材料が開発されることが期待されます。

論文の情報

“Superconductivity in REO0.5F0.5BiS2 with high-entropy-alloy-type blocking layers”
Ryota Sogabe, Yosuke Goto, Yoshikazu Mizuguchi, Appl. Phys. Express, 11, 053103 (2018), DOI: 10.7567/APEX.11.053102

平成30年4月19日
応用物理学会刊行の英文誌「Applied Physics Express」(オンライン版)に掲載。