この層状超伝導物質は、SnとAsが二次元的に結合したSnAs層(超伝導状態が発現する層)とNa層(ブロック層)が交互に積層した結晶構造を特徴とし、このような層状構造は銅酸化物高温超伝導物質系や鉄系超伝導物質系と非常に類似していることから、SnAs系層状物質においても、非従来型メカニズムで超伝導が発現している可能性があります。
今後SnAs伝導層を基本とした新たな物質が開拓され、超伝導転移温度の上昇や、高温超伝導メカニズム解明の鍵となることが期待されます。
・新規超伝導物質を発見
・SnAs層が超伝導発現に寄与
・非従来型超伝導メカニズムの可能性
・さらなる超伝導物質開発と超伝導転移温度向上への期待
研究の背景と経緯
これらの高温超伝導体は“超伝導状態が発現する層”と“ブロック層(3)”が積層した結晶構造を持っています。
なお、この研究開発は、(独)日本学術振興会の科学研究費補助金(新学術領域J-Physics、基盤研究(B))および国立研究開発法人 科学技術振興機構JST-CRESTの助成を受けて行われました。
研究の内容
今回、本研究グループはスズ(Sn)とヒ素(As)を主成分とした新しい層状超伝導物質NaSn2As2を発見しました。特徴として、SnとAsが二次元的に結合したSnAs層(超伝導状態が発現する層)とNa層(ブロック層)が交互に積層した結晶構造を持っています(図1)。
図2(a)は、NaSn2As2の磁場中電気抵抗率の温度依存性を示しています。0 Oe(ゼロ磁場中)においては、1.3 K(ケルビン)(4)以下で超伝導状態発現に伴う電気抵抗率の減少が観測され、約1.2 Kでゼロ抵抗状態が実現しています。超伝導転移は比熱測定においても確認されました。
図2(b)に示すように、1.3 K付近で超伝導転移に由来する比熱の変化が観測され、試料全体が超伝導状態にあることが明らかになりました。
NaSn2As2は、銅酸化物高温超伝導物質系や鉄系超伝導物質系と類似の層状構造を持ち、低次元的な電子状態が発現していると考えられ、非従来型メカニズムの超伝導(5)が発現している可能性があります。
用語解説
(1)高温超伝導
超伝導は低温の物質で起こる量子現象で、電子がクーパー対という対を形成することで電気抵抗が消失する現象である。この性質を生かし、超伝導は電力ケーブルや強磁場マグネットなどに応用される。特に、比較的高温(例えば30K以上)で超伝導状態を実現できる物質を高温超伝導物質と呼ぶ。
(2)超伝導転移温度 (Tc)
冷却により物質が常伝導状態から超伝導状態に転移する温度。
(3)ブロック層
電気的に絶縁な層。伝導層(超伝導が発現する層)と交互に積層することで、伝導層に二次元的な電子状態を実現する。
(4)ケルビン(K)
熱力学温度の単位。273.15 Kが0 ℃に対応する。
(5)非従来型メカニズムの超伝導
従来型の超伝導メカニズムでは、電子が格子振動を媒介にして電子対を形成し、超伝導が発現する。一方、非従来型メカニズムを有する超伝導体では、格子振動ではなく、磁気揺らぎや電荷揺らぎなどを媒介にして電子対が形成され、超伝導が発現する。非従来型メカニズムを解明することで、さらなる高温超伝導物質の設計指針が得られると期待される。