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【研究成果発表】高機能な導電性ポリマーの精密合成法を開発~有機エレクトロニクスの発展に貢献する光機能材料の開発に期待~

<ポイント>

●π(パイ)共役ポリマーの特性制御には、末端に特定の官能基を導入することが重要だが、 従来の手法では2つの末端にそれぞれ異なる官能基を導入できなかった。

●π共役ポリマーの各末端に目的の官能基を効率よく導入できる精密合成法を開発した。

●光機能材料の設計や開発に有効な基盤技術として、有機EL素子や有機太陽電池など有機エレ クトロニクスの発展に貢献する。


 JST戦略的創造研究推進事業において、首都大学東京 大学院理工学研究科の野村琴広教授らは、優れた光機能を発現するπ共役ポリマー(注1)の精密な合成法を開発しました。

 有機エレクトロニクスへの応用が期待される共役ポリマーは、その特性がポリマーの繰り返し単位(主鎖)の種類や長さ(共役長)のみならず末端の化学状態の影響を受けることが知られています。高い光機能の発現には、規則的かつ構造欠陥や不純物の混在の少ないポリマーの合成が必要で、ポリマー末端の均質化や特定の官能基(注2)の導入ができることが重要となります。

 本研究グループでは、これまでにルテニウム触媒を用いたオレフィンメタセシス重合法(注3)を開発し、構造欠陥や不純物の混在といった従来法での問題を解決してきました。今回開発したモリブデン触媒を用いた手法では、ルテニウム触媒を用いた場合の上述の優位性はそのままに、ポリマーの2つの末端に異なる官能基をほぼ 100%の確率で導入することに成功しました。また本手法により、反応性の高いポリマー末端を片方に残した状態で、もう一方に目的の官能基を効率よく導入することにも成功しました。

 本手法を用いることで、ポリマーの特性と末端官能基との関係をより詳細に解明および制御できるだけでなく、他の材料と接合、固定化や集積化することによって、より緻密な材料設計が可能になります。有機EL素子や太陽電池など有機エレクトロニクスの発展に貢献する光機能材料の開発に向けた有用な基礎技術となることが期待されます。

 本研究成果は、3月24日付でドイツ化学会誌「Angewandte Chemie International Edition」のオンライン版に掲載されました。


本成果は、以下の事業・研究領域・研究課題によって得られました。

【戦略的創造研究推進事業 先導的物質変換領域(ACT-C)

◎研究領域:「低エネルギー、低環境負荷で持続可能なものづくりのための先導的な物質変換技術の創出」 (研究総括:國武 豊喜 公益財団法人 北九州産業学術推進機構 理事長)

◎研究課題名:「定量的な炭素-炭素結合形成・集積化を基盤とする新規な星型巨大π共役有機分子の精密合成と光機能材料への展開」

◎研究代表者:野村琴広(首都大学東京 大学院理工学研究科 教授)

◎研究期間:平成24年10月~平成30年3月

上記研究課題では、π共役ポリマーやオリゴマー末端への定量的な炭素-炭素結合形成を基盤とした、 π共役分子集積体の効率合成手法の確立と特性解析を通じ、構造の特異性(緻密な構造制御や集積化) に基づく新しい高機能材料の創製を目指しています。


研究の背景と経緯

 優れた光や電子機能を持つ高分子半導体であるπ共役ポリマーの特性は、繰り返し単位(主鎖)の種類や長さ(共役長)のみならず末端の化学状態の影響を受けることが知られています。特に、有機エレクトロニクスの中でも分子を組み上げることで回路を構築する分子エレクトロニクスでは、ポリマー末端が特性に与える影響が顕著となります。従って、高い光機能の発現や新しい高機能材料の設計や開発には、末端の均質化や特定の官能基の導入といった末端官能基の制御が重要です。

 この種の高分子材料の合成には、従来脱ハロゲン化重縮合(注4)やカップリング反応(注5)が使用されてきましたが、電子機能に寄与する結合の切断(共役の切断)や不溶化の原因となる結合の生成(ポリマー鎖間の架橋)、オレフィン2重結合の立体規則性の低下などの構造欠陥が問題となっていました。さらに、副生物である分離困難な不純物の混在も解決が必要でした。構造欠陥のいくつかの問題はリン化合物とアルデヒドによる手法などで解決できますが、より構造欠陥が少なく、副生物を削減可能な環境負荷の低い手法の開発が求められていました。

 本研究グループとブリュッセル自由大学のゲールツ教授らは、オレフィンメタセシス反応によるポリマーの合成手法に注目してきました。これまでに構造欠陥や立体規則性の低下などを解消できる新しい合成手法として、ルテニウム触媒を用いたオレフィンメタセシス重合法の開発に成功しています(図1)。この手法は不純物の混在も少ないため、環境負荷の低い合成手法としても有用です。また、合成した後に別の触媒反応を用いることで、ポリマーの両末端に目的の官能基を高効率で導入できることも明らかにしました。しかし、π共役ポリマーの2つの末端にそれぞれ異なる官能基を導入する手法はありませんでした。

研究の内容

 本研究グループは、これまでの知見を基に、モリブデン触媒を用いたオレフィンメタセシス重合法を詳細に検討しました。オレフィンメタセシス重合法を用いて合成したπ共役ポリマーに対して、ポリエチレングリコール(注6)を結合させる反応(グラフト化)や、異なる2種類の高分子を組み合わせたトリブロッコポリマー(注7)の合成反応を用いることで、末端の状態を特定しました。

 その結果、ルテニウム触媒を用いた場合の上述の優位性はそのままに、π共役ポリマーの2つの末端の片側のみにモリブデンと炭素の2重結合(触媒活性種)が導入されることが分かりました(図2)。この触媒活性種は、続く反応で容易に目的の官能基に置き換えることができるため、この手法により、π共役ポリマー末端の片方のみに目的の官能基をほぼ100%の確率で導入することが可能になりました。

 残ったもう一方の末端は反応しやすい芳香族ビニル基であるため、既存の反応によって容易に官能基の変換および導入ができます。実際に、この方法によってπ共役ポリマーの2つの末端に異なる官能基をほぼ100%の確率で導入することに成功しました。また、合成したポリマーの発光特性を測定した結果、末端官能基の種類によって光の強度や色が異なることが分かりました。末端官能基とπ共役ポリマーとの相互作用により、π共役ポリマー単独では見られない、興味深い発光特性を示すことを明らかにしました。

今後の展開

 本合成法の開発により、光機能などのポリマーの特性と末端官能基との関係をより詳細に解明および制御できるだけでなく、他の材料との接合、固定化、複合化や集積化も含めたより緻密な材料設計が広く可能になります(図3)。特に、有機エレクトロルミネッセンス(EL)素子や有機太陽電池などの有機エレクトロニクスの発展に向けた研究開発や、高機能化や集積化などの特徴を活かした新しい高機能材料の設計に役立つ重要な基盤技術となることが期待されます。

<論文タイトル>

“Synthesis of Poly(arylene vinylene)s with Different End Groups by Combining Acyclic Diene Metathesis Polymerization with Wittig-type Coupling”(共役ポリマーの両末端に異なる官能基を定量的に導入する精密重合・合成手法)

本論文は、注目すべき研究成果が選ばれるハイライト論文として、本誌の裏表紙でも紹介されます。

著者:Tomonari Miyashita, Mikiko Kunisawa, Shunsuke Sueki and Kotohiro Nomura

Angewandte Chemie International Edition

doi:10.1002/anie.201700466 (International Edition)

報道発表資料 (529KB)Adobe PDF

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