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都市環境学部 観光科学科
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優れた建築物の公開がよいまちをつくる
建築物を無料で一斉公開するイベント
ヨーロッパの建築物といえば、築何百年の教会や城などの記念碑的建築物、あるいは、高さやデザインが統一された町並み、ガウディやコルビュジエなどの著名な建築家による作品に注目が集まりがちです。しかしロンドンでは、毎年9月中旬の土日に、比較的新しく建てられたり、リノベーションを行ったりした建築物を無料で公開する「Open House London」というイベントが開かれています。1992年から始まり、近年では約800棟が参加し、2日間で約25万人を集める大イベントになっています。さらに、この取り組みは現在、欧州、北米の都市をはじめ世界に広がっています。
建築に関する対話や議論がまちへの愛着を生む
このイベントは、専門家の間だけで建築のよしあしについて議論するのではなく、一般の人にも建築を知ってもらい、建築家と話す機会を持ってもらおうという、いわば教育目的で始まりました。デザイン性や創造性の高い、現代の建築物を訪れ、対話や議論を通じて、まちに愛着を持ち、まちへ関わりを持つ人を増やそうという狙いです。さらに、他地域から観光や定住を目的に訪れる人が増えるかもしれません。一方、公開する住民にとっては、手間もかかり、破損などのリスクも想定されますが、自分がこだわった家に住んでいるだけあって、むしろ、積極的に公開したい人が多いようです。
庭や町工場など、どんな地域資源も観光対象になる
日本でも、「生きた建築ミュージアム フェスティバル大阪」をはじめ、鹿児島、広島など、各地で建築物公開イベントが行われています。また、建物だけでなく、庭、文化財、町工場などを一斉公開している地域もあります。地域の人にとってはありふれた資源が、観光客をひきつける対象となり、活用されているのです。こうしたイベントが行われるのは、年に1~2日のみという希少性も、観光客の訪問意欲をかき立て、イベントの集客につながっています。
まちづくりや観光の視点で町工場をみてみる
町工場が集まる東京都大田区
東京都大田区は、中小の工場が集積するものづくりのまちです。完成品を作るのではなく、小さなネジを作るだけ、部品を削るだけ、穴を開けるだけ、メッキをするだけなど、特定の加工を専門に行っているのが特徴です。複数の会社が協力して一つの製品を作ることは、「仲間まわし」とも呼ばれています。その結果、世界的にも優れた製品が生まれています。また、住宅と工場が混在しているのも大田区の特徴です。かつては、住み働く場所であったのですが、近年は工場の跡地に新しいマンションなども増え、地域と工場の関係も希薄になりつつあります。
町工場の一斉公開「オープンファクトリー」
一方近年、製造現場を対象とした産業観光に人気が集まっています。テレビや新聞などでもその活躍が取り上げられ、町工場を見学したいというニーズが高まっています。しかし、大手の自動車工場や食品工場なら、見学した人が最終的に製品を買ってくれることが期待できるのですが、大田区の町工場の場合は、直接商売につながりにくいため、一般の人を対象にした工場見学はこれまで難しかったのです。そこで、大学と地元観光協会が協力して大田区の町工場を、一年で一日だけ地域の住民や一般の人に公開するイベントを行いました。2012年に始まり、現在では毎年秋の恒例のイベントとして定着しています。また、全国の工業都市にも広がっています。
観光・まちづくり・ものづくりの課題に取り組む
大田区では毎年約4000人が区内外から参加していますが、工場やまちにとってもさまざまな効果がありました。これまでやや距離があった地域住民に工場のことを知ってもらう機会となりました。また、企業としては、若手従業員・職人が活躍できる場となっています。さらに、デザインやアートの専門家がものづくりの現場に近づくよいきっかけとなりました。近年工場にとっては、優秀な若者の確保が大きな課題となっていますが、今後は、このような工場を開く取り組みを通じて、いかに雇用に繋げるかが重要になってきます。
高校生・受験生の皆さんへのメッセージ
もしあなたが観光やまちづくりに興味があるなら、自分の住んでいるまちをよく見てください。まちにはいろいろな歴史があります。どうやって発展してきたのか、あるいは、どんな自然環境の中にあるのかを理解することで、まちづくりのヒントが見えてくるはずです。
また、そこに住んでいる人にも焦点を当ててみましょう。空間的な側面と人の活動の側面、両方から見ていくことが大切です。どんなまちにも必ず魅力は隠れているものです。あなたもまちの魅力を私たちと一緒に探してみませんか。
夢ナビ編集部監修