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都市環境学部 都市基盤環境学科
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日本は世界有数の「トンネル大国」
道路用トンネルだけでも約1万本
日本は国土の約73%を山地が占めるため、世界でも有数のトンネル大国です。同じような地形を持つイタリアやノルウェーでも数千本のトンネルがあると言われていますが、日本では公に記録された道路用トンネルだけでも約1万本に及びます。
トンネルは人や車、鉄道はもちろん、水道水や電力などを最短距離で運ぶ役割を果たすインフラ構造物です。山を貫通するだけでなく、都市に地下鉄を走らせる、海底に通して陸と陸をつなぐなど、場所も条件もさまざまです。しかも、トンネル工事では、地中のすべての状態を完全に把握した上で進めることには限界があります。くまなく調査するには多くの費用がかかりますし、一日も早い開通を待ち望む人のためにも、費用と工期のバランスを考えた選択が求められます。
トンネルの形はどうやって決まる?
地中深くにあるトンネルには絶えず土の大きな圧力がかかります。トンネルの断面が四角形の場合、辺の中央に力が加わると紙の空き箱のようにへこんでしまいますが、円形であれば力学的に安定します。水路などには円形のトンネルが使えますが、道路や鉄道には平らな床の部分が必要なので、半円に近い馬蹄(ばてい)形が多く使われます。
トンネルを掘りながらコンクリートの構造で壁を造るシールド工法は、円形のトンネルを容易に掘ることができます。地上部分に影響なく掘り進めることができるので、都市部の地下鉄や、近年は道路などに使われます。
ますます深いところに造られる東京のトンネル
ほかにもトンネルの掘り方には、機械やダイナマイトなどを使って横方向に掘り進める山岳工法、最初に地面を掘ってから埋め戻す開削工法があります。東京に初期に開通した地下鉄は多くが開削工法で造られたため、トンネルが四角い形をしています。近年は地下も密集してきたことから、新しく開通する地下鉄は地表から40メートル程度の深いところにシールド工法で造り、また、さらに深いところである大深度地下の利用も進んできています。
トンネルの安全を支える避難設備
トンネル火災事故の発生
国土に山が多い日本では、各都市をトンネルでつなぐことで移動時間が短縮し、輸送力は飛躍的に向上します。トンネルにより、峠を越えるような交通の難所も解消されますが、一方でトンネル特有の事故の危険がつきまといます。 道路の場合では1979年には東名高速道路の日本坂トンネルで大きな火災事故があり、2016年には山陽自動車道の八本松(はちほんまつ)トンネルの火災事故で死傷者が出ました。トンネル内で車の事故が起きると、燃料だけでなく積荷が燃える可能性もあります。ヨーロッパのモンブラントンネルでは過去に食料運搬トラックから出火し、その積荷に延焼して火災が拡大するなど、大事故につながりました。
安全に避難するために
事故の際に安全に避難するために、トンネルにはさまざまな避難設備が造られています。特に避難通路は、本線トンネルとは別に造られた避難坑や、上り線と下り線のトンネルが並走する場合に反対側のトンネルに退避する避難連絡坑があります。東京湾の海底を通るアクアラインでは、円形に掘ったトンネルの下半分を避難通路として使用することになっています。早い避難が必要であると同時に、煙が上部に溜まる性質を踏まえ、さらに気圧も調整することで、トンネル内でも安全に避難ができるようにしてあるのです。
安全にどれだけ費用をかけるか
避難設備は重装備にすればするほど安全性は高まりますが、一方で工事費はかさみます。発生する確率が必ずしも高いとは言えないものの、ひとたび起きた場合には大事故となることに、どれだけの設備を造るかは非常に難しい問題です。諸外国には高度な避難設備を設けている場合もありますが、国全体のトンネルの数とのバランスや事故の発生率を踏まえて決める必要があります。一方、開発途上国では、限られた予算内でできるだけ多くのトンネルを通したいという要望もあります。
人命を優先する考えのもとで、社会が成熟するにつれてどのように安全を確保すべきかを考えていくことの重要性が増しているのが世界の現状です。
高校生・受験生の皆さんへのメッセージ
社会の変化が激しさを増す中で、知識や情報は容易に入手できるようになりました。しかし、物事の本質を理解して自らの知見にしていくためには、時間も労力も要すると考えています。
東京都立大学は教員と学生の距離が近く、身近に現場などの数多くの題材がある環境です。ぜひ、起きている現象を自分の目で見つめ、頭で考え、手を動かし、それによって得られたものを社会に還元することをめざしていく人になってください。そのために、学究的な取り組みを通じて応援していきます。本学で学んでみたいというあなたを待っています。
夢ナビ編集部監修