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東京都立大学の「学び」を体験! ― 竹宮 健司

Profile
竹宮 健司 教授
  【教員紹介】

都市環境学部 建築学科

キーワード
建築計画, 建物, 設計

見えないニーズをくみ取る、「建築計画」の大切さ

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建築計画学が追究するもの

建築学には「建築計画学」という学問分野があります。人間の心理や行動に合わせて、建物をつくろうという学問です。人間の行動はいつも理論通りとは限りませんから、人々が建物をどのように使っているかを調べて、より使いやすい建物とは何かを研究する必要があります。また、人は同じところにずっと暮らしていればニーズが変わっていきます。家族の構成人数が変わることもありますし、年を取れば介護のためにバリアフリーが必要になることもあるでしょう。ですから建築計画学では、使いやすい建物とは何かを長いスパンで考えることが必要なのです。

病気や障がいを抱えた人のために

どんな建物でも建築計画は必要ですが、特に病気や障がいを抱えた人が使う空間は、細やかな建築計画が必要です。なぜならその空間は生活そのものにつながっているからです。元気な人にとってはささいなことでも、障がいや病気を抱えた人たちにとっては大問題、ということがあります。
しかし、そのような人たちが利用する医療施設をつくるとき、その意見はなかなか反映されません。施設をつくるのは利用者ではなく管理者だからです。そうならないために、今ある施設の使われ方を調査したり利用者にヒアリングしたりして、そこで何が問題になっているかを考えます。いかに使う人のニーズをくみ取って建物の設計に生かしていくかが、建築計画における課題なのです。

現代の課題に応えるために

建築計画は昔から行われていました。しかし、昔とは違った課題が日々生まれつつあります。例えば、NICU(新生児集中治療室)が発達して、重い病にかかった命も救われるようになりました。そうすると、救われた子どもたちの体の状況に応じた支援や施設が必要になってきます。また現代では、高齢者の増加によって、高齢者施設やサービスにも多様なニーズが生まれてきています。現代の問題に合わせて、建築も見直され改良されなければならないのです。

建築計画の観点から見る、高齢者施設の工夫

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建築計画の大切さ

「建築計画学」という分野では、建物が実際にどのように使われているかを調べて、使われ方に応じた、よりよい建築をめざします。特に、不特定多数が利用する大きな建物は利用者の声が反映されにくいため、きちんとした調査をし、建築計画を立てることが重要になってきます。

高齢者施設の設置基準とニーズのギャップ

例えば、高齢者施設の場合、厚生労働省の定めた施設設置基準がありますが、それが常に利用者のニーズと合致しているとは限りません。高齢者施設は、通う施設(通所施設)なのか、泊まる施設(短期入所施設)なのか、住む施設(居住施設)なのかで分かれています。しかし、そのように施設が分かれていることによって、不便なことも出てきます。最初は通う程度でよかったとしても、年月がたつと利用者のニーズが変化し、泊まったり住んだりする施設が必要になることがあるからです。その場合、利用者は別の施設を探さなければなりません。しかし、環境やスタッフが変わることなく、同じ施設を利用できた方が、利用者にとっては安心なはずです。

ユニークな施設を調査する

実際にそのようなニーズに応えて、制度の枠を超え、「通う・泊まる・住む」というすべての機能をそろえた施設があります。そのような施設は、構造や使われ方がユニークです。調査すると、例えば、昼と夜では空間を使い分けていることがわかります。昼間はリビングでみんなが集い、夜は比較的プライベートな空間で夕飯を食べられるように工夫されているのです。また多くの施設がいすに座る方式を採っているのに対し、そこでは床に座る方式も選べるようになっています。このように目線を低くすることによって、利用者は家庭的な雰囲気のなかで落ちついて生活することができます。 先駆的な試みをしている施設を調査し、その建物がどのように使われているかを調べることによって、よりよい建物とは何かを考えることも建築計画の役割なのです。

高校生・受験生の皆さんへのメッセージ

建築学科をめざすのなら、「かっこいい建築が好きだ」という気持ちや、「建築家になりたい」という目標があることももちろん大事です。しかし、最も大事なことは、私たちのまわりにある空間に関する問題意識を持つことです。人にやさしい建物とは何か、どんな空間が使いやすいか、家族が病気になったり障がいを抱えたりして介護が必要になったときにどんな空間が必要か、自分の暮らしのなかで考えてみてください。
建築学科では、人々の暮らしがより豊かになるための建築空間のあり方を考えています。


夢ナビ編集部監修