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都市環境学部 環境応用化学科
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可能性は無限大! 未来社会に欠かせない触媒の技術

効率よく物質を変換するには?
持続可能な社会を作っていく上で、重要な技術となるのが「触媒」です。例えば、AをBという物質に変換したいとき、化学反応を効果的にかつ少ないエネルギーで促す存在が触媒です。しかし、一般に物質を変換するときには、余計な反応や不必要な物質の生成が同時に起こってしまいます。それらを減らすために、原子や分子がどのように触媒に近づき、反応し、離れていくか、ということを、できるだけ詳細に解析する研究が進められています。そのメカニズムが解明されれば、より選択的かつ効率的に物質を変換できるようになり、さらに有効な触媒も作れるようになるでしょう。
触媒は現代の「錬金術」
触媒に用いる金属としては白金やロジウムなど高価なものの方がよく働きますが、コストがかかり、資源量も限られています。そのため、できれば安価で、広く手に入る金属に触媒を置き換えたいのですが、それらの金属は単体で使っても反応が進行しません。そこで、例えば金とパラジウムで合金を作れば、少量の金でも期待する反応が得られるようになります。このように、触媒に適した希少な金属と手に入れやすい金属の配列を原子レベルでうまくコントロールすることは、限られた資源を有効に使うという観点からも重要で、「元素戦略」の一分野として注目されています。
原子・分子レベルの解析が可能に
最適な触媒を作ろうとするとき、配列や組み合わせには無限の可能性があります。これまでは望ましい反応が得られていても、なぜそういう現象が起きているのか、詳しく解析することが困難で、経験に頼るところがありました。しかし近年は、原子・分子レベルの解析が可能になったので、反応の様子を見ながら、新しい組み合わせや配列のアイデアを得られるようになっています。
また、スーパーコンピュータで理論的な予測もできるようになってきました。自由自在に分子を組み替え、人類の持続的な発展に寄与する触媒の研究は、今後ますます重要になってくるでしょう。
空気からパンを作る? 魔法みたいな「触媒」の働き

化学肥料の開発に一役買った触媒
二酸化マンガンに過酸化水素水を加え、酸素を発生させる実験を覚えていますか? このとき、過酸化水素水を酸素と水に分ける役割をしている二酸化マンガンのような物質を「触媒」と呼びます。有名な例としては、鉄を主成分とする触媒を利用して、窒素と水素からアンモニアを作る「ハーバー・ボッシュ法」があります。この方法のおかげで容易に化学肥料が作れるようになり、小麦など食物の生産性が向上しました。窒素は空気から得られるので、ハーバー・ボッシュ法は「空気からパンを作った」と表現されることもあります。
縁の下の力持ち
化学の観点では、「触媒」とは、分子を自在に組み替えたり、選択的に分子を変化させたりといったことを効率よく行うツールとも言えます。私たちの身の回りにあるほとんどのものに触媒の技術は使われていますが、触媒自体を目にすることはなく、まさに「縁の下の力持ち」の存在です。
例えば、自動車の排気口の中にも触媒として白金やロジウムなどの金属が含まれており、排気中の有害物質を、できるだけ環境に悪影響を与えない物質に変換する役割を果たしています。また、燃料電池、リチウムイオンバッテリーも触媒がないと効率的に動きません。クリーンな水素エネルギーの利用も推奨されていますが、石油や天然ガスから効率よく水素を作る上でも、触媒の技術は大きな役割を果たしているのです。
「グリーンケミストリー」に欠かせない触媒
「資源を有効に使う」「エネルギーを効果的に生み出す」「環境に負荷のかかる物質をなるべく外に出さない」といった3つのポイントを実現するために触媒は必要不可欠です。「環境に優しい合成化学」として、有害物質をなるべく使わない、出さない化学の実践をうたった「グリーンケミストリー」でも、触媒は大きな鍵を握っているのです。
このように人類が将来も安定して持続可能な社会を作っていくため、触媒はとても重要な技術であり、世界中で研究が進んでいます。
高校生・受験生の皆さんへのメッセージ
理系を志すなら、科学史など学問がどのように発展してきた歴史があるのかについても学んでほしいと思います。ただ数式や知識を覚えるだけではなく、その背景にある研究者たちのストーリーや概念がどのように発展したのかを知って幅広く学問をとらえてもらいたいのです。同じように、理系以外の学問も含めて、いろいろなことに興味を持ってください。どんなことも、決して無駄なことはありません。
あなたの活躍の舞台は世界です。国際社会に出て活躍するためにも、大学で幅広い教養を身につけ、人間としての魅力を高めてほしいと思います。
夢ナビ編集部監修