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システムデザイン学部 機械システム工学科
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流体工学からささえる「細胞移植」

「細胞移植」を知っていますか?
細胞を治療に使う「細胞移植」という治療法があります。代表的なものとして、白血病の治療などに使われる骨髄移植、膵(すい)臓の中の膵島という組織を移植する膵島移植などがあります。最近では新生児の医療として肝臓の細胞を移植する肝細胞移植に期待があります。これらの方法は、細胞を体の中に移植することで、臓器の機能を補い治療をする方法です。iPS細胞などの幹細胞からさまざまな細胞をつくりあげることができるようになるなかで、再生医療の入り口としても期待されています。
しかしながら、細胞移植において利用する細胞は、すごくデリケートです。ちょっとしたことでダメージを受けて細胞の機能が落ちてしまったり、死んでしまったりする問題があります。こうした課題に、機械工学、流体工学の知恵を活用し、より安全で、確実な医療につなぐための研究が進められています。
細胞移植にも、流体力学の知見が生かされている!
細胞移植では、細胞の分離や移動の段階で、細胞にさまざまな負荷がかかります。遠心分離器にかけたり、細管やフィルターを通したり、いろいろなところで細胞はダメージを受けてしまいます。液体と固体が混じり合った状態の流れを「混相流」と呼びますが、流体力学の中でもこの混相流の知見を生かし、細胞をやさしく扱うための研究がおこなわれています。
細胞の制御には、流れの力や電場の力も
「いかに細胞の持っている機能を保つか、高めるか」、「いかにたくさんの細胞を手に入れるか」、こうした目的のために、工学的な切り口で最適化と効率化を図ります。
例えば、細胞を移植する場合にはそのかたまりが大きすぎてもダメで、適切な大きさが重要です。また、元気な細胞だけを取り出すなどの制御も求められます。そのために、流れの力を利用したり、電場の力を利用することで解決が可能です。細胞移植が広く医療として利用される時代に向けて、細胞の機能などを計測する技術、そして細胞を操作・制御する技術が必要とされているのです。
機械工学が臓器移植に貢献する!?

「機械工学」と「医療」の関係は?
機械工学と医療というと、一見つながりがないように見えますが、実は、さまざまな場面で、機械工学の成果が役立てられています。例えば、機械工学の重要な一分野で、液体や気体の流れを考える「流体力学」は、私たちの体内で重要な働きをしている血液、食べ物の消化や呼吸など、流れを考えずに体を考えることはできません。体の流れを知り、活用することで、医療に貢献することができるのです。
臓器は、1つの「工業プラント」である
腎臓や肝臓は、なくては生きていけない重要な臓器ですが、その仕組みには、まだまだわかっていない部分がたくさんあります。腎臓には、1分間にペットボトル1本分の血液が流れ込み巧みな仕組みで1日にペットボトル1本分のおしっこを出し、体をきれいにしています。これらを工学的な視点から明らかにすることはさまざまな医療に役立ちます。
肝臓には、動脈から酸素いっぱいの血液が、静脈から栄養いっぱい、老廃物いっぱいの血液が流れてきます。さらに、消化に重要な胆汁をつくって、腸に流し込んでいます。たくさんの機能を持った肝臓は、1つの工業プラントのようなものです。その中を流れる血液は、水道や電気など社会インフラのようなものでもあり、血管は素材を運ぶパイプラインだと思ってもいいでしょう。こうした仕組みのなぞを解くカギの1つが、流体力学などの工学的知識なのです。
臓器をやさしくはぐくむゆりかごのような医療機器
臓器内の流れを解明し、臓器移植の際に、臓器を長持ちさせ、機能を復活させるための研究が進められています。欧米では、移植に使われる腎臓を、臓器灌(かん)流装置を使って保存することが広く利用されています。人体内と似た環境を整えることで、臓器を長持ちさせる仕組みです。臓器の仕組みなどを工学的に解明することで、より的確な処置をできるようになりつつあります。再生医療が本格化する将来に向けて、工学の知恵がいっぱいつまった未来の医療機器である臓器のゆりかごを研究開発しています。
高校生・受験生の皆さんへのメッセージ
私は、「臓器工学」をキーワードに、人と機械をつなぐための新しい機械工学の研究をしています。
例えば、今病気で臓器移植や細胞移植を必要としている人のために、臓器や細胞を確実にそしていかにやさしく届けるための、技術開発と研究を続けています。機械工学という分野は、ロボットや飛行機・自動車の研究だけではありません。人の命をつなぐために幅広い視野を大切にした研究と教育を行っています。ぜひあなたも、興味を持って機械工学の世界に進んできてください。
夢ナビ編集部監修