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理学部 物理学科
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我々はなぜ存在できるのか? 物質が存在し反物質が存在しない謎

物質の対となる反物質とは?
物質の最小単位は素粒子で、一般的に粒子と反粒子が対として存在します。粒子と反粒子は、いわばプラスとマイナスの関係で、これらが出会うと、お互いに打ち消し合って消滅します。
宇宙に存在する星や我々生命などは、粒子によって構成された「物質」でできています。反粒子によって構成されたものは、「反物質」と呼ばれます。「反物質」は見かけ上「物質」と全く変わりません。もしも仮に、「反物質」で出来た世界があるとすれば、我々の「物質」でできた世界と全く見分けがつかないはずです
反物質は存在するか?
「物質」と「反物質」は見分けがつかないと言いましたが、目の前にあるものが「物質」であるか「反物質」であるかは簡単にわかります。もしもそれが「反物質」であった場合、手を触れた途端に大爆発が起き、物質でできた我々もろとも互いに消滅してしまいます。しかしながら、そのような恐ろしい話はSFの世界だけで、身の回りには「反物質」は存在しません。宇宙を見渡しても、物質と反物質が出会うことによる大爆発は観測されておらず、夜空に輝く星もみな「物質」でできているようです。
「粒子」と「反粒子」の性質の違いを探る
ではなぜ、「物質」で出来た我々が存在できるのでしょうか。「物質」と「反物質」が全く同じ性質をもっているならば、「物質」と「反物質」が同数存在するはずであり、やがて互いに消滅してなくなってしまうはずです。「反物質」が存在せず「物質」で出来た世界が存在するためには、「粒子」と「反粒子」の間に「CP対称性の破れ」とよばれる性質の違いが必要です。つくば市の高エネルギー加速器研究機構で行われた加速器実験「Bファクトリー実験」では、この「CP対称性の破れ」について詳細に調べ、そのメカニズムはノーベル物理学賞を受賞した小林・益川両氏の提唱した理論に従うことがわかりました。「反物質」が消え「物質」が残るための必要条件を一つクリアしたことになり、謎の解明に向けた第一歩を記したといえます。
素粒子物理学の枠組み「標準模型」の先には何があるのか?

素粒子の標準模型とは
2012年にヒッグス粒子が発見され、「標準模型」と言われる素粒子物理学の理論的枠組みが完成しました。この標準模型は、基本的な相互作用とされる4つの力のうち、「電磁気力」、「弱い力」、「強い力」の3つを含む理論体系で、ノーベル物理学賞を受賞した小林・益川理論もこの中に含まれます。標準模型は、地球上で実験的に作り出せるあらゆるミクロの現象をほぼ矛盾なく説明することができる強力なものです。しかし、一方で、「重力」を含んでおらず、また宇宙に物質が存在し、反物質が存在しない謎などについても、この理論では説明することができません。
標準模型を超える物理を探す
そのため、多くの研究者は、標準模型を超えるより大きな理論的枠組みが存在すると考えています。しかしながら、標準模型を超える枠組みを実験的に探るのはそれほど簡単ではありません。標準模型はあまりに強力であり、素粒子実験で得られる結果をことごとく標準模型が説明してしまうためです。高エネルギー加速器研究機構で予定している加速器実験「スーパーBファクトリー実験」では、電子とその反粒子である陽電子をこれまでにない高い頻度で衝突させ、標準模型では説明できない極めて小さな手がかりを、膨大な実験データの中から探しだそうとしています。
もうひとつの鍵はニュートリノ
標準模型を超える枠組みを実験的に探るもうひとつの鍵は、ニュートリノです。
ニュートリノは電子と性質が似ていますが電荷を持っていません。ニュートリノはなんでも通り抜けてしまうため捕えることが難しく、その性質はまだ多くの謎に包まれています。もしかすると標準模型からはみだした性質を持っているかもしれません。例えば、電荷がないため、粒子=反粒子かもしれません。もしそうだとすると、反物質が消えた謎を解く大きな鍵になります。この性質を調べるために、「ニュートリノを出さない二重ベータ崩壊」という現象の探索が世界各地でおこなわれています。
高校生・受験生の皆さんへのメッセージ
世界が存在するのは、一見、当たり前のようですが、ミクロの世界を詳しく調べてみると、さまざまな奇跡的な偶然の上に我々が存在していることがわかります。例えば、星や我々人間を形成している「物質」がなぜ存在しているでしょうか。これは実はとても難しい問題で、まだ誰もその答えを示すことはできません。
このように、自分の身近にあることを「素朴な疑問」を持って見つめ直せば、当たり前だと思われることの中にも謎があり、それを探求することで新しい発見につながるかもしれません。
夢ナビ編集部監修