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理学部 生命科学科
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DNAを解析すれば、進化の歴史がわかる
遺伝から進化にアプローチ
「生物進化の研究」というと、ダーウィンのようにひたすらフィールドで観察し、データを取るというイメージがあると思います。しかし進化に対するアプローチはさまざまで、DNAやゲノムの配列からでも迫ることができるのです。例えば人間のミトコンドリアDNAは必ず母親から子どもへと受け継がれ、父親から受け継がれることはありません。そのため母親から母親、またその母親、と系図を遡っていくと、すべての人類にとっての共通の女系祖先である「ミトコンドリア・イブ」の存在にたどり着くことができます。このイブが生きていた年代の推定値から、人類の祖先はアフリカで誕生したとする「アフリカ単一起源説」が強く支持されました。これは、遺伝情報から生物の進化を探る一例だと言えます。
塩基配列の解析とは
DNAは生物の遺伝情報のほぼすべてを担う高分子生体物質です。同じ種であれば、配列自体はほとんど同じです。しかし何かのきっかけで特定のDNAが置き換わる、抜ける、増える、別の場所に飛んでしまうという突然変異が起こります。ただしDNAの塩基配列は一見したところ、アデニン(A)、グアニン(G)、シトシン(C)、チミン(T)を表す記号がランダムに並んでいるだけで、どの部分がどういう働きをしているのかわかりません。そこでコンピュータを使い、例えばアミノ酸をコードしている配列などを探していくことになります。そして、異なる個体のDNAを比較すれば、進化の過程で何が起きたのかを知ることができるのです。
種分化の仕組み
生物の種分化はまず集団の個体に突然変異が起こるところから始まります。しかし変異自体は何か目的があって起こるわけではありません。したがって個体にとって有害な変異であれば淘汰され、逆に環境に適した変異であれば集団全体に広がることになります。また、有害でも有益でもない突然変異も多く存在します。つまり生物の進化は突然変異の繰り返しで、集団中に変異が蓄積することにより種分化が起こるきっかけが生まれるのです。
遺伝に関する情報が蓄積されているキイロショウジョウバエ
同じ種でも遺伝子は違う
生物は同じ種でも遺伝子レベルで見ると違うところがあります。例えば、生息地域ごとに異なる組み合わせの塩基があり、遺伝子の発現に対して異なる制御を受ける場合があります。キイロショウジョウバエは高地では黒く、温かい地域では淡く白い体色です。これは体色を司る「エボニー遺伝子」の発現量が違うためです。このエボニー遺伝子はドーパミンなどの神経伝達物質を介する機能にも影響を及ぼしているため、行動パターンの違いも生み出します。また、キイロショウジョウバエは交尾の際、雄が羽を震わせるなど複雑な求愛行動を行います。そのとき、クチクラ(外骨格を形成する生体物質)に触れて交尾相手を認識するのですが、例えばフェロモンの合成に関わる遺伝子の構成が変わると相手を選ぶ際の好みのパターンも変わるのです。
研究に適したキイロショウジョウバエ
キイロショウジョウバエは人家の近くに生息しているため、20世紀初頭から多くの遺伝学者が研究題材として使ってきました。そのため遺伝に関するノウハウが豊富に蓄積されており、人為的なノックアウト(特定の遺伝子を破壊すること)やノックダウン(発現量を抑えること)、入れ換えなども容易になっています。しかしキイロショウジョウバエの近縁種でも遺伝学研究のノウハウが当てはまらないことがあるため、このハエでしかできない実験もたくさんあります。
遺伝子を組換えるには
放射線などで外部から遺伝子を変化させることもできますが、その方法だと変化させたのがどの遺伝子であったのか、特定しにくくなります。そのため普通は遺伝子組換えを仲介する特別なDNA塩基配列に挿入した遺伝子を卵に注入し、目的とするハエの遺伝子に変化を起こさせた後、その変化によって生じた生物現象を調べます。光るマーカーなどを使って特定の遺伝子がどの組織に発現しているかを調べることもあります。原理的には他の生物でも、細かな技術的な問題や倫理的な問題をクリアすれば、類似の方法で遺伝子を組換えることが可能です。
高校生・受験生の皆さんへのメッセージ
生物学の研究には国語や英語、数学などの基礎的な知識はもちろん、さまざまな世界への好奇心が大事です。ぜひさまざまな経験をして、自らの感受性を磨いてください。もうひとつ、人生には結婚や出産など、大きなイベントが待っています。そこで難しくなるのが仕事との両立ですが、どんな仕事もプロ意識を持って取り組めば、必ず周囲の理解や信頼を得られ、働きやすい環境が整っていくものです。人生の困難を恐れず、大学での4年間を将来についてじっくり考える時間にしてください。
夢ナビ編集部監修