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理学部 生命科学科
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動物の消化管の発生のメカニズムから人体の形成過程を探る
脊椎動物に共通する消化器官の順序
動物の消化管は、ニワトリでは受精卵が誕生してから2日くらいで体内に管の形ができて、さらに数日のうちに、細かい器官に分化していきます。消化管は人間を含む脊椎動物の場合、口から肛門に向かって、咽頭、食道、胃、十二指腸、小腸、大腸の順に連続して並んでいて、通常、この順序が入れ替わることはありません。その消化器官の発生のメカニズムについて研究が進められています。
前腸と後腸が真ん中でつながる
器官の発生と分化を調べるためには、ニワトリを使った実験がよく行われます。生命の元になる胚が、親の体内ではなく体の外で発生し、しかも卵黄の上にのっているため、観察しやすいからです。細胞を特殊な蛍光物質で染色するなどの方法を使い、成長にともなって細胞がどう移動していくのかを観察します。
消化管は初期状態では、大きく前腸と後腸に分けられます。発生当初の胚は、平たい形をしています。平面状だった胚は、ある時急に起き上がるような形で前方の端が曲がり、折れ目のようなものができます。同時に折れ目がもう1つ逆向きにもでき、それがZ字形に深くなっていくことで、袋状の構造ができあがり、それが前腸となります。同じような折れ曲がりが胚の後方にもでき、袋状となって後腸を形作ります。そして、前腸は後方へと伸び、後腸は前方へと伸びていき、真ん中で2つの管がつながって、1本の長い消化管となるのです。
人体の構造の起源を見る
消化管は、動物の体の中でもごく初期にできるものなので、消化管の発生を調べると、人間の体全体がどのように形作られていくのか、ということも少しずつわかってきます。消化管がどのような細胞の動きでできていくのかを観察すると、頭や顔の構造がどのようにできあがっていくかという、平面的な胚が立体的な人体となっていく過程も見えてきます。
私たち人間の、人間らしい体がどのようにできるのか、それを調べるためのヒントが、消化管の発生にも隠されているのです。
ニワトリの消化管の構造は産卵後1日半で決定される!
動物の消化管はみんな同じ
ほとんどの動物は、口から肛門にまでつながる消化管という1本の管を持っています。そして、胃の数が違ったり、胃のない魚がいたり、などという細かい違いはあっても、消化管の大きな構造は、どの動物でもほとんど変わりません。消化管が2本とか3本あるなどという動物は存在しないのです。
動物は、受精卵が細胞分裂を起こして、いろいろな種類の細胞が生まれ、さらに成長しながら細かい器官ができていき、その体を形作ります。ニワトリの研究から、消化管の形を決定づけるのは、卵が産まれてから1日から1日半というごく初期だということがわかっています。人間の場合でも、発生のごく初期の段階に決定されると考えられます。
消化管の分化の謎を探る
ニワトリの発生過程で消化管は、3日目には管ができ、6日目までには、食道、前胃、砂嚢(さのう)、小腸、大腸など消化管の各部に分化します。つまり、まだ管すらできていない1日半の段階で、どの細胞が消化管のどの部分になる、ということがだいたい決まっているのです。
このような研究は、ニワトリなどの卵の中で成長しつつある胚を使い、各部の細胞をほかの場所に移植するなどの実験をすることで明らかになります。消化管の場合、1日目の時点で細胞を移植すれば、移植した先の場所に合わせて分化するのですが、1日半以上経ってから移植すると、本来できるべきでない場所に器官ができることになります。
医療分野への応用
こうした発生の仕組みを、さらに遺伝子や分子レベルで調べることで、さまざまなことがわかります。ある遺伝子の働きを抑えてしまうと、そこに発生するべき器官ができない、ということがわかれば、その遺伝子の機能がわかります。 例えば、胃がんは、胃の中に腸の遺伝子が発現してしまうことで発生することがあるということがわかっています。胃や腸の発生の原理がわかれば、こうしたがんの発生を早めに発見したり、発生を抑えたりすることができるようになるでしょう。
高校生・受験生の皆さんへのメッセージ
ほかの世界でも同様ですが、科学の世界で一番大事なのは、「疑問を持つ」ということです。疑問を持つためには、疑問のタネを探さなければなりません。授業中でも、外を歩いているときでも、身のまわりではいろいろな疑問が生まれるはずです。ぜひ、あなたもそれを探してみてください。
そしてできれば、その疑問を解くための努力をしてみてください。これを積み重ねていくと、大学受験も、大学に入ってからも、とても面白い日々が過ごせます。がんばってください。
夢ナビ編集部監修