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理学部 生命科学科
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アルツハイマー病の発病の原因を探る
脳細胞は入れ替わらない
脳は体が感じた情報を処理する器官です。見ることは目だけでできるのではなく、目からの情報を視神経で運び、脳が判断します。感覚や運動を制御する機能だけでなく、学習や記憶、感情の制御などを行う器官でもあり、人間性そのものだと言えるでしょう。
脳は、一般的な器官と違い、細胞が入れ替わることはありません。かすり傷ができたとき、皮膚の細胞はすぐに入れ替わり1週間程度で治ります。血球細胞も3カ月もすれば、ほとんど入れ替わります。しかし、脳は生まれたときにほぼ全部の脳細胞ができあがっており、10代くらいまでに成長を遂げると、その後は増えることも入れ替わることもありません。脳の神経はコンピュータの基盤のようにネットワークをつくり、その部分ごとにさまざまな記憶をため込んでいるので、入れ替わるわけにはいかないのです。
アルツハイマー病は脳の病気
ヒトは、ほかの器官が元気でも脳が死ぬと、目が見えなくなったり、記憶がなくなったりします。アルツハイマー病は認知症の一番の原因です。なぜアルツハイマー病になるかは、いまだに解明されていません。家族に発病歴がなくてもかかることから、遺伝性の病気でもありません。現在、脳の中に特有のタンパク質がたまることで脳細胞が死んでしまい、アルツハイマー病を引き起こすことまではわかっています。なぜたまるのか、どうしたらたまらなくなるのかを探るのが、これからの研究目標なのです。
増え続ける患者
日本では2019年時点で80歳以上の4人に1人が認知症であり、そのほとんどがアルツハイマー型認知症だといわれています。世界では今のところ5000万人くらい患者がいて、このままいけば2050年には患者数が1億人を超えてしまうかもしれません。医学が進歩して寿命が延びたとしても、脳の機能が正常に働き続けなければ、幸せに生きることは難しいでしょう。世界中で共同研究を行い、アルツハイマー病のメカニズムを解明する必要に迫られているのです。
ショウジョウバエで、アルツハイマー病を解明する
ハエをモデル動物として研究
アルツハイマー病は、発病のメカニズムが解明されていません。発病すると脳の神経細胞が死んでしまいます。これは特有のタンパク質が脳内にたまることが原因です。
このメカニズムを探るために、ショウジョウバエをモデル動物とした研究が進んでいます。ショウジョウバエは、立派な脳を持ち、学習もできます。記憶などの脳の高次機能の解析には非常に使いやすいモデル動物です。遺伝の点でもヒトと似ていて、遺伝子疾患の原因となる遺伝子の70%以上はヒトと同じものを持っています。
研究に好都合なショウジョウバエ
1個の遺伝子を調べる場合はモデル動物を1匹飼えばいいですが、100個の遺伝子を調べるには同じ数のモデル動物が必要です。マウスでは大きな部屋が必要になりますが、ハエなら小さなスペースで済みます。温度調整も不要でエサも安いため、限られた費用で研究を行うには好都合なのです。また、代替わりの速さも利点です。遺伝子の研究では、遺伝子操作をした次の世代まで待つ必要があります。さらに、アルツハイマー病の場合は加齢にともなう変化を調べるために、年をとらせる時間も必要です。マウスの場合は2年ほどかかりますが、ショウジョウバエは2週間程度で大人になり、2カ月で次世代に替わるのです。
アルツハイマー病を発病させる
ショウジョウバエの脳にヒトのタンパク質を入れてアルツハイマー病を発病させます。発病したハエは記憶障がいを起こし、動きに異変が生じます。ハエの記憶障がいは、においと電気ショックの組み合わせで調べます。2つのにおいの発生源の一方に電気ショックを組み合わせることで、記憶が正常なハエは電気ショックのあるにおいには近づかなくなりますが、記憶障がいのあるハエは電気ショックのあるにおいを覚えることができません。
発病したハエにどういう薬を与えたら症状が治まるか、どういう遺伝子操作をすればいいかを調べることが、アルツハイマー病治療のために役立っていくのです。
高校生・受験生の皆さんへのメッセージ
大学での学びは高校と違って答えがありません。高校の勉強は答えがある問題について、どうやったら答えがうまく出せるかを考えるものです。
情報のシェアが簡単になったことで、サイエンスの進歩は加速を続けています。大学で学ぶ生物学は、教科書に書いてあることでさえ正しいとは限りません。教科書は5年もたてば古くなってしまいます。どんどん新しいことが解明されています。次にその新しいことを見つけるのはあなたなのです。自分を信じて頑張ってください。
夢ナビ編集部監修