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人文社会学部 人文学科
フランス語圏文化論教室
キーワード
フランスの社会・文化から学ぶ
アメリカとは違うフランスの文化
日本ではアメリカ文化の影響が目立ちます。第二次世界大戦後に世界の覇権を握ったのはアメリカとソ連で、日本は資本主義陣営のアメリカから多くの影響を受けてきました。ただ、同じ先進国の中で、フランスは、アメリカとは明らかに異なる文化性や価値観をもっています。
フランスがもつ4つの特質
フランスの社会や文化における特質を4つあげましょう。まず、「論理性」です。17世紀にデカルトという哲学者が活躍し、人間が合理的にこの世界をとらえることができるという論理性をフランスに根づかせる端緒となりました。また、「批評性」も旺盛です。1789年のフランス革命以降、人々は国の体制を批判的に問い直し、革命を通じて何度も作り替えました。まさに「死にもの狂いの実験」を繰り返したのですが、その根底には強い「批判精神」がありました。さらに、フランスでは「社交性」も顕著です。移民や難民を受け入れ、彼らの文化を取り入れて、自国の文化を豊かに発展させてきました。ピカソやシャガールはそれぞれスペイン人、ロシア人でしたが、彼らの才能はフランスで開花しました。最後は「前衛性」です。フランスでは既成概念を打ち破る奇抜な出来事がしばしば起こります。夏のセーヌ川に砂浜を出現させるイベントがパリ市の主催で実施されるなど、日本では考えられない進取の気質があるのです。
優劣をつけるのではなく
ここで大切なのは、「フランスのほうが日本より優れている」と主張したり、「両者のどちらが優れているのか」を競ったりすることではありません。日本は清潔で無駄が少なく、安全な国で、フランスより住みやすい面がたくさんあります。一方、フランスでは、ほとんどの大学の授業料は無料で、しかも給付型の奨学金が充実していますが、日本の大学の授業料は高く、奨学金制度も低調です。二者択一の二元論ではなく、それぞれの国の特質や欠点を比較して、社会のより良い未来像を考えることが肝要なのです。
フランスにおける「哲学」~大学入試と「哲学する」授業~
大学入試の最初の科目は「哲学」
フランスの大学入試は「バカロレア」と呼ばれ、高校修了を認定する国家資格です。合格すると基本的にどの大学(フランスの大学はほとんどが国立)にも入学できます。バカロレアの初日の午前に行われるのが「哲学」の試験で、哲学がとても重視されていることがわかります。「物事を認識するためには、物事を観察するだけで十分か」といった命題に対して、小論文の執筆が課せられます。試験時間は4時間に及び、明確な論理展開で、自分の考えを表明することが求められます。
フランスの高校での哲学教育
フランスの高校3年生は、文系で週8時間、理系でも週4時間の哲学の授業を受けます。授業内容は、「人間とは何か」「愛とは」「自由とは」などの命題に対する議論が中心です。教科書はさほど使用されず、正解はひとつとは限りません。生徒は自由に考えたことを論理的に構成して、他者に伝える力を養います。教師は議論の展開を促すために、歴史上の哲学者の思想を参照し解説したりします。こうすることで、過去や現在の思想を単なる知識としてではなく、生きた言葉として提示し、学生らの思考の深化に役立たせるのです。
現在のフランスの哲学教育は、1920年代に確立しました。数学にしても歴史にしても、学年が上がるにつれて、学ぶ内容はどうしても細分化されていきます。選挙権を得る18歳前後の高校3年の時期に、それまでの知識を総合し、社会の一員としての資質を養ってもらうために、哲学が活用されているのです。
「哲学すること」の教育的意義
日本の高校で、これほど深く自由に思索する機会はあるでしょうか? 歴史や倫理の教科書に、哲学者やその著書、思想の特徴などが出てくることはありますが、それらは「哲学についての情報」にすぎません。一方、フランスの哲学の授業は、情報を得るだけではなく、一人ひとりが「哲学すること」を目的にしています。日本では主体性や創造性の育成が求められますが、フランスの哲学教育の実践には大いに注目するべきでしょう。
高校生・受験生の皆さんへのメッセージ
私が所属している人文・社会系では、さまざまな文化圏の研究・教育が行われています。せまい日本だけの価値観にとらわれずに、いろいろな国から多様な価値観を学んで、柔軟な人間力をつけることができるのです。
私はフランス語圏文化論の研究を専門にしています。学生の皆さんと、フランスに滞在する機会をもち、フランスという国の価値観に直に触れる機会もあります。これらが「人生が変わるほどの経験」になる場合も少なくありません。興味があれば、ぜひ一緒に学んでいきましょう。
夢ナビ編集部監修