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東京都立大学の「学び」を体験! ― 古永 真一

Profile
古永 真一 教授
  【教員紹介】

人文社会学部 人文学科
表象文化論教室

キーワード
表象文化, 自分らしさ, 社会

「男らしさ」って何だろう?「自分らしさ」って何だろう?

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表象文化論って何?

「表象文化論」とは、芸術や文学、社会・文化現象一般について、ジャンルにとらわれず、分野を横断しながら検証していく学問です。1つのテーマに対して、今起きている現象だけを追うのではなく、歴史的背景、地域的要因などを考慮しながら掘り下げることで、現在の現象がいかにして起こったかが見えてきます。

昔からあった「美男子萌え」

例えば、「男らしさ」について、ヨーロッパではギリシア時代以降、軍人としての男らしさが非常に大きな意味を持ってきました。「戦場で勇ましく戦うマッチョな男性像」、それが富国強兵や帝国主義、植民地主義などの国策を支えてきたとも言えます。日本でも明治時代以降、欧米にならって徴兵制が導入され、マッチョな男に憧れた女性たちもいました。しかし当時の大衆文学などでは、軟弱な美男子が刀を持つとめっぽう強いといったヒーロー像が、男女問わず支持されていたようです。現代を見ても、ジャニーズ系など一見中性的な男性が人気なのも、欧米とは異なるところでしょう。

「らしさ」の多様化の中でどう生きるか

また、日本では、女性が掲げる理想の男性像として、かつては「三高(高学歴、高収入、高身長)」がもてはやされ、現在では「三低(低姿勢、低リスク、低依存)」が好まれるなど、女性が「男らしさ」の概念をリードしてきました。戦後の1つのモデルだった「24時間働く企業戦士」という男性像が崩壊し、男らしさが多様化していることもあり、男性にとって現代は、具体的な理想像が描きづらい時代かもしれません。
近年ではLGBT(同性愛者、両性愛者、性同一性障がい者)の社会運動をはじめ、男女の枠にとらわれず、自分らしく生きることを模索する動きも盛んです。しかし「自分らしさ」とは何なのか、今度は「自分らしさ」の枠にとらわれすぎてはいないかという問題も出てきます。そうした視点で文化・社会現象を見ていくことは、自分がいかに生きるかにもかかわる、意味深い考察でもあるのです。

こんなにも違う!「戦争」の描かれ方

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「映像」から見えてくる戦争

芸術や文学、文化一般において、戦争はどう描かれてきたのでしょう? 2つの世界大戦を軸に見ても、戦争とは非常に多面性のあるテーマだということがわかります。
第1次世界大戦以降の特色としては、ドキュメンタリーや戦争映画など、多くの映像が残されていることが挙げられます。映像は非常にインパクトのあるメディアですが、戦争の悲惨さを描いた作品もあれば、戦争を礼賛するプロパガンダ作品もあります。また、ヒトラーの演説の映像を見ると、いかに危険なカリスマ性があったか、よく伝わってきます。こうした映像を見ることで、戦争を止める策はなかったか、ほかにどのような道があり得たかを考えるきっかけにもなります。

「アミューズメント」としての戦争

一方、サブカルチャーの世界では、戦争は「非日常的なアミューズメント」としてとらえられることもあります。軍艦が美少女化した「艦隊これくしょん」なども一例ですし、ミリタリーおたくもいれば、サバイバルゲームで戦争ごっこを楽しむ人も少なくありません。実際、戦争には血わき肉おどる側面があり、それを描いた文学や映画も多々あります。悪いやつをやっつけるという勧善懲悪の図式は、見ていて気分が高揚するものですが、同時に警戒も必要です。わくわくと高揚するのは、自分がやっつける側に立っているからです。しかし、実際に自分が戦争で戦うとなると、そうはいきません。勧善懲悪の図式も成り立たないでしょう。

戦争を「描く」ことの意味

絵画の世界を見ると、藤田嗣治の作品に『アッツ島玉砕』があります。いろいろな解釈のできる絵画ですが、アッツ島における日本軍の玉砕場面が、陰惨ながらもある種、美学的に構築されています。しかし現場の写真を見れば、一見するとゴミと見まがうような死体は生々しくて陰惨で、美しいどころではありません。
戦争を写真で撮る、絵で描くというのは、どういうことなのでしょう? それについて改めて考えてみるのも、非常に意味のあることなのです。

高校生・受験生の皆さんへのメッセージ

大学では「1つのテーマに対し、さまざまな視点から深く掘り下げて考える」ということが重要になります。
最近では新書でも興味深い題材が多く取り上げられており、電子書籍も充実していますので、興味があることは自分で掘り下げ、積極的に書物の世界に分け入ってみてください。例えば、今、自分が楽しんでいるドラマやアニメ、漫画、ゲームなどの文化がどのように成り立ち、時代とともにどういう側面を見せてきたのか、そういう観点から見直してみると、新たな視野も開けてくると思います。


夢ナビ編集部監修