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人文社会学部 人間社会学科
言語科学教室
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赤ちゃんの脳から、言葉の獲得への道筋を考える

赤ちゃんの脳はどのように発達するのか
人は生まれてから、どのようにして言葉を使えるようになるのでしょう。人間の脳がどのように発達し、その過程で言葉をどう獲得していくかを明らかにするため、さまざまな観点から赤ちゃんの脳の研究が行われています。
生後1週間以内の新生児、生後3カ月、6カ月の赤ちゃんがそれぞれ眠っているときの脳の働きを計測し、脳のどの場所でどんな活動をしているのか、動きの様子を地図にしてみると、面白いことがわかります。生後1週間ごろは脳のいくつかの場所がバラバラに活動しているのですが、生後3カ月になると、脳の左半球、右半球の左右対称部分が、同じタイミングで活動している様子が見られるようになります。脳の中で役割分担ができ始めるのです。発達の仕方も、脳の場所ごとにルールがあることがわかってきました。6カ月になると、そのような脳の働きはさらに明確になってきます。
音の違いを聞き分ける
生後3カ月程度の赤ちゃんは、すでに脳の中に、リズムや抑揚などの情報をとらえる場所ができています。いつも一緒にいる人の声、知らない人の声など、周囲の人の声の特徴を認識し、区別できるようになります。また、世界中の言語はリズム体系から3つに分類できるのですが、赤ちゃんはリズム体系の異なる言語を聞くと、その違いを認識するという研究結果もあります。例えば日本語と英語は異なるリズム体系に属する言語ですが、赤ちゃんは2つの言語の意味はわからなくても、「違う」ということを理解するのです。
リズム・抑揚の認識から言葉の獲得へ
赤ちゃんに話しかけるとき、人はゆっくりとやや声高に話しますが、このリズムと抑揚が、赤ちゃんには受けとめやすい情報です。大人が無意識にそのように話しかけてしまうこと自体も不思議なことですが、発達の過程にある赤ちゃんの脳にとって、リズムや抑揚は非常に大切な情報になるのです。この音や抑揚を認識する場所が、言葉の獲得へと進む段階で、脳のほかの場所とどのように連絡し合っているのか、研究が進められています。
人が言葉を発する直前の脳の働きを解明する

言葉が口から発せられるまでの過程に注目
私たちは毎日ごく当たり前に人と会話をし、自分の意見を述べたりしていますが、頭の中にある考えを言葉として発する際、脳ではどのようなプロセスが働いているのでしょうか。
人は成長の段階でさまざまな単語を習得し、知識として蓄えていきます。つまり頭の中に辞書を作っていくわけですが、これを「心的辞書(メンタルレキシコン)」と呼んでいます。言葉を発するときにこの辞書は役立ちますが、たいていの人は、話す事柄すべてを頭の中で暗記してから話しているのではなく、話し始めると同時に、文章を頭の中で次々に組み立て話すのです。文章を書くときも同様で、書いているうちに「私はこういうことが書きたかったのか」とわかったりするものです。これは、声が出始める前、あるいは言葉としてアウトプットする直前に、脳が何らかの働きをしている結果だといえます。
脳が持つ「見えない」情報を顕在化させる
こうしたメカニズムを解明する一つの手がかりとして、声を出す直前に脳が持っているはずの「見えない」情報を、どれだけ顕在化できるかという研究が行われています。この「直前の情報」には、発話する内容だけでなく、それらを音として発するための運動情報も含まれます。発話という動作を行う際、「これからこうした音が発せられます」という情報が、それらの動作を司る脳の部所に伝達されるのです。
脳の働きが発話に与える影響
脳からこうした情報が伝えられるおかげで、人は自分の声を正しいタイミングで聞きながら発話することができます。考えるときに使っていて、表出しない言葉を「内言」と言いますが、内言を使っているときにも話をしているときと共通した脳の働きがあると考えられています。脳の働きを調べることで考えること(思考)と言語の関係性に迫る試みが始まっています。深く突きつめていくと、人が当然のように話していること自体、非常に不思議なことなのです。この「不思議」をいかに解明していくかが、言語科学の面白さの一つでもあります。
高校生・受験生の皆さんへのメッセージ
言語科学とは、言葉がどうやって成り立っているのか、発達してきているのか、また、言葉を獲得する過程はどうなっているのかということなどを研究する分野です。いろいろなアプローチの仕方があるので、高校時代は興味のあることに何でも挑戦して、幅を広げて勉強したり、それを趣味にしたりしてほしいです。それと同時に、家族や先生、友だちとたくさん会話をしてください。誰かと話すことから、自分はどういうことに興味があるのか、どう生きていったら楽しく有意義に、人の役に立つのかということを一生懸命考えてほしいと思います。
夢ナビ編集部監修