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東京都立大学の「学び」を体験! ― 渡辺 賢

Profile
渡邉 賢 教授
  【教員紹介】

健康福祉学部 作業療法学科

キーワード
平滑筋, クモ膜下出血, 筋肉

体はどのように動くのか~筋肉の種類とそれぞれの働き

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筋肉には2つの種類がある

私たちが顔を洗ったり、ご飯を食べたり、歩いたり、文字を書いたり、といった身体の動きは、すべて筋肉が動くことによって行われています。筋肉には、「横紋(おうもん)筋」と「平滑(へいかつ)筋」の2種類があります。横紋筋は顕微鏡で見るとしま模様(横紋構造)があるのが特徴で、骨格筋と心筋があります。骨格筋は上腕二頭筋など身体を動かす筋肉、心筋は心臓を動かす筋肉です。ここでは横紋筋についてみていきます。

骨格筋が動くメカニズムとは

筋肉がどのようにして動くのか、骨格筋を中心に探ってみましょう。まず、神経からの指令で筋小胞体からカルシウムイオンが放出されます。カルシウムイオンがトロポニンと結合すると、「細いフィラメント」の分子構造が変化します。するとモーターの働きをする「太いフィラメント」が、レールのような細いフィラメントの上を滑ります。太いフィラメントと細いフィラメントはともに伸びることはないので、結果的に太いフィラメントが細いフィラメントをたぐりよせ、収縮が起こります。

この一連の流れは、2種類のフィラメントが規則的に並ぶ「筋節(きんせつ)」、あるいは「サルコメア」と呼ばれる構造の中で起こっています。サルコメアの長さは、約2マイクロメートル(500分の1ミリメートル)ですが、収縮時のフィラメントのたぐりよせによって短くなります。骨格筋の場合は、このサルコメアが筋の全長につながって同じ動きをします。

自分の意思とは関係なく動く心筋

心筋の場合も似たような動きをします。1秒に1度ぐらいのペースでギューと収縮して、再び弛緩するという動きを繰り返します。いわゆる「心拍」です。この周期的な心筋の収縮弛緩により、血液が心臓から動脈へと送り出されます。

骨格筋と大きく異なる点は、骨格筋は私たちの意思で自由に動かせるのに対し(随意筋)、心筋は私たちの意思とは関係なく動いていることです(不随意筋)。ですから、意図的に腕を曲げることはできても、意思で脈の速さを変えることはできないのです。

謎の筋肉「平滑筋」の仕組みを解き明かせ!

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血管や臓器に使われる平滑筋

空腹時などに、おなかからでるグーという音。この音は、胃や腸が動いている音です。胃に何も入っていなくても1時間に1回ぐらいの間隔で周期的に動き、ゴミや細菌を掃除しています。この動きの元になっているのが、「平滑筋」という筋肉です。胃や腸のほかにも血管、消化管、子宮などさまざまな臓器が平滑筋により動きます。平滑筋は顕微鏡で見てもしま模様が見えないのが特徴です。

謎が多い平滑筋の仕組み

実はこの平滑筋は、構造も収縮メカニズムもあまり解明されていません。横紋筋は、「太いフィラメント」や「細いフィラメント」によって構成される「サルコメア(筋節)」が筋肉全体に連なり連携して動きますが、平滑筋は、サルコメアの存在は確認されているものの、それが散在しており横紋筋とは微細構造が全く異なります。平滑筋の場合、太いフィラメントが細いフィラメントの上を滑ってサルコメアを短くさせることで収縮が起こることは同じですが、細胞内で具体的にどのようにサルコメアが並んでいるかもよくわかっていません。細いフィラメントや太いフィラメントの形や並び、またサルコメアの並びが変化するなど「リモデリング」が横紋筋に比べて起こりやすいことや、このリモデリングによって収縮が制御されているらしいことから、さらに研究が必要な分野です。

難病治療や予防につながる可能性も

「クモ膜下出血」という病気があります。通常、発作が起きて1週間位たつと血管平滑筋の異常収縮により脳血管が急に締まって、血液が通らなくなり、酸素や栄養素が脳に行きわたらなくなるという経過をたどります。そうなってしまうと、予後(よご:治療後の経過)が悪く、死に至ったり、障がいが残ったりします。クモ膜下出血以外にも平滑筋が弛緩、あるいは収縮し続けることによって発生する病気があります。もし平滑筋の仕組みがわかれば、これらの病気の治療や予防につながるかもしれません。現在、生理学ではX線回折などの最新技術を利用し、平滑筋の仕組みを調べる研究が行われています。

高校生・受験生の皆さんへのメッセージ

ゲノムが解明されたりタンパク質の構造がわかったりといったニュースを耳にすると、身体のことはほとんど解明されてしまい、もう調べることがないのではと思うかもしれません。しかし、実際はわからないことだらけなのです。例えば、研究段階で臓器再生ができたといっても、実際の体内の臓器とは全く異なるものであり、医療への適用はまだまだこれからです。生命科学は、医療やバイオテクノロジーなど専門分野の学びに必要なだけではなく、環境や食糧といった私たちの日常生活に直結する大切な分野です。ぜひ興味をもって学んでください。


夢ナビ編集部監修