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健康福祉学部 放射線学科
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がん細胞や、認知症の兆候を放射線の力でとらえる核医学検査

放射性医薬品を投与し臓器の機能を評価する核医学
放射線は医療の世界ではなくてはならない存在で、大きく3つの分野に分けられます。1つめは「X線検査」や「CT検査」などで、脳や臓器、腫瘍(しゅよう)などの形を画像で見る「形態学的検査」です。2つめは、微量の放射線を出す放射性医薬品を体内に投与し、血流や代謝、腫瘍などの機能変化を画像や数値でとらえる「核医学検査」です。「PET検査」や「シンチグラム検査」が該当します。3つめは、放射線を使ったがん治療です。
核医学ではどのようにして、がんをとらえるのか
核医学の検査は、脳、甲状腺、心臓、肝臓、腎臓、膀胱、骨などの臓器別に多くの種類があり、それぞれの検査で用いる薬も異なります。静脈から投与された放射性医薬品は、診断したい臓器に集まり放射線を出すので、特殊な撮影装置でとらえて放射性医薬品の分布を画像にします。特にがん細胞は、通常の細胞より糖代謝が20倍盛んなため、ブドウ糖に放射性物質を付着させた医薬品を体内に投与して画像化することで、病気の有無がわかります。
「放射線を体内に入れても大丈夫なの?」と心配になるかもしれませんが、検査で利用される放射性医薬品は微量で、ある一定の時間ごとに放射能は半減していきます。そして、およそ数日から数週間で体内から排出されます。
認知症は、発症前に防ぐ時代がやってくる
脳の血流や物質の蓄積状況などを診断する画像も、実は核医学検査のひとつです。アルツハイマー型認知症は、脳の血流量が低下したり、アミロイドβというタンパク質が蓄積したりして正常な神経細胞が壊れることで発症すると言われています。放射性医薬品の進歩により、脳の血流量や物質の蓄積状況を画像で見ることができるようになりました。認知症は、今までは発症してから治療を行っていましたが、これからは、発症前に予防ができる時代になると期待されています。
環境中の放射線量を計測し、危機管理に備える

原発事故後のセシウム137はどう変化していく?
日本では、2011年3月の東日本大震災によって、福島第一原子力発電所の大きな事故が起きてしまいました。その事故によって、原発施設の外に放出・拡散された放射性核種が、どのように移行(変化)していくのか、正確な動態はわかっていません。そのため現在、放射性物質がどのように環境の中で移行していくかという調査が、放射線の研究者によって進められています。主に計測の対象とされているのは「セシウム137」という核種で、放射能がはじめの半分になるのに要する時間(半減期)は、およそ30年とされています。
都市部か、農村部かでも、プロセスや速度は異なる
放射性核種がどのように移行するのかは、「アスファルトの多い都市部」と、「裸地が多い農村部」では異なると予測されています。さらに、気象条件や土壌の質が砂利か、砂か、粘土かなど、どんな状態なのかによっても、移行プロセスやその速度が異なるとされています。原発事故による放射線の影響は非常に広範囲にわたることと、半減期が長いことで、それぞれの地域での長期的なデータの蓄積と研究の進展が待たれます。
原発建設予定地周辺では、天然放射性核種の計測も
東南アジアでは、原子力発電所の建設が予定されている国があり、万が一事故が起こったときのために、日本で培った放射線核種の計測技術や移行プロセスのデータ活用が有用です。原子力発電所の建設が予定されているベトナムやタイでは、日本人研究者による協力のもと、もともと自然界に存在する、さまざまな天然放射性核種の計測が進められています。計測方法は日本と同じですが、ベトナムやタイの土壌は日本とは違い、天然放射性核種の存在比もかなり異なっていることがわかっています。危機管理の観点から、事前に天然放射性核種の量を測定しておくことや、移行プロセスについてデータを蓄積することが重要になるのです。
高校生・受験生の皆さんへのメッセージ
放射線医学(核医学)の世界では、物理や化学(薬品)、生物(人体)、数学(画像処理)など、とても多くの分野の学問が必要になります。理系科目は、なるべく苦手意識を持たず、できるだけ広く勉強しておいてください。
また医学の世界は国際化しているので、論文を書いたり読んだりするのに、英語力が不可欠です。卒業生の中には、留学したり、国際機関で働いたり、外資系企業で活躍している人も大勢います。高校生のうちから、ぜひ英語力を磨いておいてください!
夢ナビ編集部監修