都市環境学部 都市基盤環境学科では、人々のくらしや社会の活動を縁の下で支える公共的な事業を行う分野であり、都立大では大都市である東京をフィールドとして実践的研究を進めている特徴があります。
その中でも今回は、私たちの暮らしを支えるインフラ整備の要である「トンネル工学」に着目。新しい材料や工法の研究開発を通じて、より安全で持続可能な社会の実現に取り組む都市環境学部 都市基盤環境学科 砂金研究室について紹介します。
都市の課題を解決する「都市基盤環境学」とは
──都市基盤環境学科では、どのようなことを学べるのでしょうか。
都市基盤環境学科は、いわゆる土木工学を基本としながら、現代の都市が直面する多様な課題に対応できる人材を育成する学科です。
従来の土木工学といえば、道路や河川、ダム、トンネル、鉄道、空港、港湾といったインフラ構造物を「計画し、作る」建設技術を学ぶことが中心でした。しかし、現在はそれらのインフラを「維持管理し、長く使う」領域に加え、環境問題や都市問題まで、扱う領域が大きく広がっています。
例えば、かつては騒音や振動といった公害問題が注目されましたが、今ではそれにとどまらず都市環境全体の質を高めることが求められています。単に構造物を扱うだけではなく、「良質な都市環境をいかに創造するか」という視点が非常に重要になってきているのです。
もともと土木工学は英語で「Civil Engineering(市民工学)」と呼ばれており、この分野はその名の通り、市民生活の質を向上させるための幅広い学問領域を含んでいます。さらに近年は環境についても多くの課題が生じつつあり、それらを含んだ都市基盤環境(Civil and Environmental Engineering)学科での勉学は、これからの時代に必要とされる総合的な技術と視点を学べる場といえるでしょう。
──砂金先生の研究テーマを教えてください。
私の専門はトンネル工学で、特に施工や維持管理における課題解決、そしてトンネル建設時の工法に関する基本的なメカニズムの解明に取り組んでいます。
近年、特に力を入れているのが、新しい材料や工法の研究開発です。例えば、トンネルの耐震性能向上を目的として、いろいろな補強部材の活用可能性を探る研究などを進めています。従来、トンネルは地震に対して概して強いと言われてきましたが、それでも実際には被害が発生するケースがあります。そのため、より高い安全性を実現する補強方法を模索し、小規模な実験から始めて段階的に実用化を目指しています。
また、私たちの研究室では、基礎研究に加えて、現場での応用を重視しています。国土交通省の研究機関や高速道路会社などと連携し、研究成果を実際の工事現場で検証することで、より実践的で信頼性の高い研究と技術開発に取り組んでいます。
──研究室で学生を指導する上で、先生が大切にしていることは何ですか。
最も大切にしているのは、学生のみなさんが楽しみながら研究に取り組める環境をつくることです。トンネル工学は、日本が世界をリードする分野の一つです。しかし、その実績を活かしつつ、新しい材料や工法などによってさらなる合理的な構造や設計とは何かを考えていくためには、柔軟な発想と積極的なチャレンジが不可欠。そのため、研究室では自由に意見を出し合える雰囲気づくりを心がけています。
また、できるだけ多くの現場見学の機会を提供するよう努めています。実際の工事現場を訪れたり、現場の技術者と意見交換をしたりすることで、研究の意義をより深く理解できるからです。こうした体験が、自分自身の将来のキャリアを具体的にイメージするきっかけにもなることを期待しています。
──砂金研究室の学部卒業生は、どのような進路を選ぶ人が多いですか。
4年次になると学生のみなさんは研究室に配属しますが、大学院への進学を考えられる方が多いようです。その進学した時間がより有意義になるような研究生活を送れるように、またトンネルに関して言えば経験によって技術的な考え方が培われることが多く、現場を見ながら考えることが有益でもあるので、その機会を多く持てるように、テーマの設定、動機付けにも配慮しています。実際の卒業生は、官公庁、道路や鉄道各社、建設会社や建設コンサルタントに就職するなど、幅広い分野で活躍しています。
一方で、就職後にトンネルに関連した業務に従事するとも限りません。そのため、研究室では専門知識の習得もそうですが、情報を整理し分かりやすく伝える力や、物事を多角的に考える力を養うことを重視しています。現代は情報があふれる時代ですし、それはトンネルでも同様で、これまでに実績、経験、一方で理論的なことなど、様々な知見が得られています。その中で、あらゆる情報や知見をいかに結びつけ、活用できるかが鍵となります。これらの力を身につけることで、学生のみなさんには社会で大きく羽ばたいてほしいと願っています。
──最後に、都立大の都市基盤環境学科で学ぶ魅力についてお話しいただけますか。
トンネル工学に限らず、都市基盤環境学科で学ぶ醍醐味は、社会の基盤となるインフラを様々な角度から考えられることにあります。橋梁やダム、トンネルといった構造物の設計・施工から維持管理、交通や上下水道のような市民生活に直結する施設、そしてそれらを計画する理論的な内容、ひいては環境への配慮まで、対象とする分野は非常に幅広いです。そして、それらは全て人々の暮らしを支え、社会の発展に寄与する重要な要素です。
だからこそ、学生のみなさんには自分の専門分野にとどまらず、幅広い視野を持って課題に取り組める人材になってほしいと考えています。また、自分が普段暮らす街や環境をより良くしたいという意欲を持ち続けることも欠かせません。数学や物理の得意不得意もあるのかもしれませんが、それよりもこの分野では「どうすれば街や社会を良くできるだろう」と問い続ける姿勢が何よりも大切だと考えています。都市環境や街づくり、国づくりに興味がある方にとって、この学科での学びは非常に魅力的で充実したものになるでしょう。
さらに、都立大の特徴として、最新の知識を実践的に学べる環境が整っている点が挙げられます。教員と学生の距離が近く、きめ細かな指導が可能な点も大きな魅力です。これらの利点を最大限に活かしながら、皆さんと一緒に「より良い社会の実現」につながる研究を進めていくことができたら嬉しく思います。
実際に印象に残ったプロジェクトや研究室の魅力について、大学院博士前期課程1年次の栗野さん、田村さんに話を聞きました。
「災害に強いまちづくり」への貢献を目指して
──都市環境学部 都市基盤環境学科に進学した理由を教えてください。
小学生のときに、学校の代表として東日本大震災で被災した福島県の小学生との交流プログラムに参加したことがきっかけです。実際に被災地を訪れ、崩壊したインフラや津波で流された町、放射線の影響で車の窓を開けて走ることができない道路など、被害の深刻さを目の当たりにしました。その経験が強く心に残り、「人々が安心して生活できる安全な都市環境づくりに貢献したい」と考えるようになりました。高校生になって進路を考える中で、その思いを実現できる学科として都市基盤環境学科を選びました。
私も、自衛官として働く父の影響で、災害対策への関心が高かったことがこの学科に進学した大きなきっかけです。小学生の頃に東日本大震災を経験し、その後も豪雨による洪水や土砂災害など、大規模な自然災害が相次いでいたように感じます。そうした大規模な自然災害は、街のつくり方を変えることで未然に防ぐことができるのではないかと思いました。そこで、土木工学を学べる大学を探していたところ、都立大の都市基盤環境学科と出会いました。この学科なら、自分が学びたいことを深く学び、人々の安心を守るための研究ができると確信し、進学を決めました。
──数ある研究室の中でも砂金研究室を選んだのは、どうしてですか?
都立大でしか経験できない研究を、砂金研究室で行えると思ったことが最大の理由です。また、砂金先生は学部の授業の中で、学生一人一人の答案にしっかりとコメントを付けて返してくださるなど、きめ細かな指導をされていました。研究室に入ってからも、丁寧な指導を受けられるのではないかと感じ、自分の成長に最適な環境だと考えたことで、この研究室を選びました。
私は学部進学の理由と重なりますが、防災分野に携わりたいという思いから、安全・防災分野の研究室を探していました。その中で砂金先生の授業を受けるうちにトンネル工学の面白さを感じ始め、また先生の人柄にも惹かれて、この研究室を選びました。
──研究室で取り組んだ研究活動の中で、特に印象に残っているものをお聞かせください。
私は2024年7月に、スペインで開催された国際学会で研究発表をする機会をいただきました。山岳トンネルの補助工法に関する研究について発表したのですが、英語力に自信がない中での挑戦でした。それでも、海外の研究者から発表内容に対して質問をいただけたことが非常に嬉しく、日々の研究活動へのモチベーションが大きく向上するきっかけになりました。
私の場合は、2024年能登半島地震で被災したトンネルの現場視察が特に印象に残っています。私はトンネルの耐震対策をテーマに研究していますが、実際に被災現場を訪れることで、自分の研究の意義を改めて実感しました。また、災害にどう貢献できるかを考える中で、都市基盤環境学科を目指した当時の初心に立ち返るきっかけにもなりました。
──最後に、お二人の将来の目標についてお聞かせください。
まだ具体的な進路は決まっていませんが、都市基盤環境学科に入学した理由である「人々の当たり前の日常を守る」という目標を実現できるよう、これからも学びと研究を深めていきたいと考えています。研究室では主にトンネルについて研究していますが、それ以外にも、先生や現場の方々との関わりを通じて、専門知識だけでなく、人との関わり方や自身の成長の仕方も学べています。この経験を活かし、いずれ社会に何らかの形で貢献できる人材になりたいと思っています。
私も、砂金先生のもとで実際に現場の方々と交流し見学する中で、仕事をより具体的にイメージできるようになり、自分の将来像がより明確になってきました。研究室で学んだトンネルのインフラ整備や防災に関する知識を活かしながら、将来は「人々が安全・安心に生活できる環境をつくる」という目標を目指し、社会に貢献していきたいです。