「分断的な地域研究」から「統合的な海域研究」へ
本研究プロジェクト(海域アジア・オセアニア研究)は、人間文化研究機構の大型研究プログラム「グローバル地域研究」の一環として、2022年4月から開始しました。海域アジア・オセアニアは、東アジア、東南アジア、オセアニアといったエリアを包括しますが、明確な境界はありません。本研究は、日本の南西諸島、台湾、中国南部沿岸部、東南アジア島嶼部、オセアニア島嶼部を中核エリアとし、そこからグローバルに拡がる現象を、特に人類学を中心とする視点から捉えることを目指します。
東アジア、東南アジア、オセアニアの研究は、これまで個別の学会が組織・運営されてきたことに象徴されるように、異なる地域研究の体系のなかで発展してきました。一部の先駆的な研究を除き、これらの地域研究の間では十分な対話がなされない傾向が今でも強いです。しかし、海洋という視点から捉えると、東アジア、東南アジア、オセアニア、さらにはその外延の世界は、個々ばらばらに理解することはできません。つまり、東アジア、東南アジア、オセアニアなどという枠組みは、陸地に住む人間から見た、陸地主観的な区分に過ぎないのです。海域アジア・オセアニア研究は、このような既存の地域、そして地域研究の枠組みを取り払い、それらを超えた人・モノ・情報などのネットワークを捉えることを目的としています。
アジアとオセアニアをつなぐ研究母体/組織の確立へ向けて
海域アジア・オセアニア研究全体としては、さまざまな個別研究、共同研究に取り組むことになりますが、当東京都立大学拠点が特に注目するのが、現在社会における地域を跨いだ人と物質の流動です。たとえば、オセアニアの島嶼部では、オーストロネシア語族系(下図参照)の先住民だけでなく、現在の中国、フィリピン、インドネシアにあたる地域から移住した人々が暮らしてきました。今や中国や東南アジアからの食や道具もオセアニアの島嶼部で流通し、先住民の生活に溶け込んでいます。その傾向は近年ますます強まっており、オセアニア島嶼部は、アジアの経済ネットワークの一部としての性質も帯びるようになっています。このような東アジア、東南アジア社会のオセアニアへの拡がりは、本研究の焦点の1つです。それ以外にも、オセアニアの先住民の東アジア・東南アジアへの移住、東南アジア山地民と海域世界とのつながり、沖縄のグローバル・ネットワークなども研究の対象とする予定です。最終的には、それらの研究成果を統合することで、現代海域アジア・オセアニア世界の諸相を明らかにします。
Profile
人文科学研究科 社会行動学専攻
河合洋尚准教授
東京都立大学社会科学研究科社会人類学専攻博士課程修了。博士(社会人類学)。
関連リンク
・海域アジア・オセアニア研究 東京都立大学拠点 HP(代表:河合洋尚准教授)