D&Iは作業療法学の原点であり核でもある
近年、D&I(Diversity & Inclusion)が様々な業界で注目され、その重要性が叫ばれています。Diversity & Inclusionとは、多様性を認めそして受け入れていくという概念を表しており、業界によって若干の違いはあるものの、この点は共通しています。作業療法でもD&Iに基づく教育、研究、臨床が行われていますが、その取り組みは100年以上前に遡ります。作業療法は1920年代に米国で誕生しましたが、作業療法の創設に関与した人物達は、建築家やソーシャルワーカー、看護師など多様な専門職で構成されていました。つまり、創設された時点でD&Iが作業療法学の核となっていたわけです。現在、作業療法士は「人は作業を通して健康になる」ことを信念に、人々が希望する作業(活動)が日常生活の中でできるよう支援を行っています。「電車を利用する」支援であっても、人や環境、その組み合わせが異なれば電車の利用方法は千差万別で、同一の支援内容では対応できません。言い換えると、作業療法士はD&Iを理解してなければ、人の作業(活動)を支援することはできないのです。これが、D&Iが作業療法学の原点であり核でもある所以であります。
介護予防における生活支援サービスの充実に挑む
私の研究室では、介護予防における生活支援サービスの充実のためには何が必要なのか、その解明に取り組んでいます。現在、介護予防の取り組みとして、生活支援サービスがあります。このサービスでは、日常生活の維持が困難になってきた高齢者を対象に、今後も長く日常生活が維持できるよう多職種が連携して支援を行っています。私達は、作業療法士がどのように人々の作業(活動)に焦点をあて、どのような支援戦略をもって臨めば良いのか、東京都荒川区での臨床研究を通して検証しています。これまでの研究により、ごく短期間の作業療法士による関わりであっても、高齢者の生活課題が改善することがわかってきており、現在対象を拡げて検証しています。一方で、生活支援サービスが健康寿命の延伸に寄与するのか、その他の介護予防サービスとの最適なアルゴリズムは何かなど、まだまだ解明されていない点が多いのも事実です。今後は、最新のAI技術なども取り入れつつ、これまで以上に柔軟にD&Iに対して挑む必要があるでしょう。
Profile
人間健康科学研究科作業療法科学域
石橋裕准教授
首都大学東京大学院人間健康科学研究科作業療法科学系修了。博士(作業療法学)。2009年首都大学東京助教、2016年より現職。