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都市環境科学研究科-外来生物の基礎生態に基づいた分布拡大予測

各地で発生する外来生物問題と、対策の難しさ

人の手によって本来の生息域の外に持ち出され、新たな場所に定着しまった生物:外来生物は、時に人間社会に対して様々な悪影響を及ぼします。2017年に強い毒を持つヒアリが日本で初めて確認され、世間を賑わせたことを記憶している方も多いと思います。外来生物対策に投じられている費用は世界中で類型年間1,000億ドルを大きく超えるという試算もあり、外来生物問題は今や私たちの社会を脅かす一大要因となっています。

既に侵入・定着してしまった外来生物による悪影響を軽減、あるいは抑止するために、対象種の駆除や、分布拡大を防ぐための対策が各地で行われています。しかし、グローバル化が進んだ現在、毎年のように新たな外来生物が侵入してきます。さらに、外来生物による悪影響が顕在化したときには、対象種は既に広域に分布を広げている場合が多く、場当たり的な対応では焼け石に水というのが現状です。限られた労力の中で効果的な対策を実現するためには、対象種の基礎的な生態を明らかにすると当時に、それに基づいた駆除等の管理技術開発、さらに、その技術を適用する労力を、空間的にどのように配分するかという広域計画が必要になります。

基礎生態に基づいた将来予測と駆除労力の適切な配分

管理労力を空間的に適切に配分するための有効な手段として、対象生物の分布拡大を予測する手法を確立することが挙げられます。これは例えるなら外来生物を悪天候とみなした天気予報を行うようなもので、不確実性はあれど、一定の信頼性が担保されていれば、降水確率に基づいて傘を持って行くか置いていくかを決めるのと同様に、結果に基づいて駆除活動を行う、行わないといった判断をすることが可能になります。

私たちの研究室で取り組んでいるテーマの一つに、外来生物の分布拡大予測があります。近年特に積極的に取り組んでいるのは、対象生物の基礎生態に基づいたコンピューターシミュレーションを実施することで対象生物の分布拡大を予測し、駆除対策の効率化に貢献することを目指した研究です。例えば最近では、小笠原諸島に蔓延る侵略的外来植物であるギンネムや、サクラやモモを枯らす侵略的外来昆虫であるクビアカツヤカミキリの分布拡大を予測し、駆除労力を集中すべき場所を特定するという研究を行いました。この実現には対象生物の基礎的な知見と、高性能なコンピューターを扱う技術の両方が必要であり、非常に学際的な研究であると言えます。

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Profile

都市環境科学研究科観光科学域
大澤 剛士准教授
神戸大学大学院人間発達環境学研究科博士後期課程修了。2018年から現職。