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法学政治学研究科-当事者の行動インセンティブを踏まえて制度の機能と効率性を考察する

株主代表訴訟について日・米・中の制度を比較

法学研究に「法と経済学」というアメリカ発の学際的分野があります。伝統的な法学が比較法研究や判例研究に重きを置き、制度運用の整合性や安定性を問うのに対し、「法と経済学」は経済学の視点や手法を用いて法制度を分析します。

会社法や商法を専門とする私が「法と経済学」の視点で着目するのは、法制度の機能と効率性および当事者の行動インセンティブです。

前者では、とある目的を達成するための制度設計に選択肢がある場合、得ようとする機能を実現できる効率性の高い制度はどれかを考察します。

また後者は制度の対象となる当事者の動機づけや法令遵守に努める要因を分析します。たとえ強い強制力や罰則が設けられていたとしても、当事者の行動インセンティブを無視した制度設計は、最小の社会的コストで効率よくその目的を実現できません。

こうした観点から私は会社法に定められた株主代表訴訟について研究しています。日本の株主代表訴訟の制度は、アメリカのそれをモデルとして定められました。また中国では2006年の会社法改正で、株主代表訴訟の制度が盛り込まれました。制度設計が異なる日・米・中の制度の機能と効率性を比較しながら、より合理的な制度のあり方を考えています。

活発な運用を促すか濫用の予防重視か

日本とアメリカは、1株を持っていれば訴訟を提起できます。株主であれば誰でも権利を行使できる間口の広い設計が成されていますが、その分、制度の濫用が危惧され、訴えの却下や和解を含めて訴訟を終了させる制度の整備が重要です。一方、発行株式数の一定割合を有していないと訴訟を起こせない中国の制度は、濫用を予防するため間口を狭くした設計です。そのため、2006年にこの制度が定められましたが、ほとんど活用されていません。株主代表訴訟の制度は、会社に対する経営者の責任を問う株主権を定めたものであり、活発かつ健全に利用されるための設計が求められます。

私の問題関心は、特に制度の適用対象となる当事者の行動インセンティブにあります。最小の社会的コストで制度目的を実現するには、当事者の動機づけを考慮することが重要だと考えるからです。

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Profile

法学政治学研究科法学政治学専攻
顧丹丹教授
2008年、文部科学省国費留学生として来日。
2013年、首都大学東京社会科学研究科で博士号を取得。