この度、人文社会学部の山田康弘教授の研究課題「日本列島域における先史人類史の統合生物考古学的研究―令和の考古学改新―」が、文部科学省・日本学術振興会の令和5年度「文部科学省科学研究費助成事業・学術変革領域(A)」に採択されました。
「学術変革領域研究(A)」は、多様な研究者の共創と融合により提案された研究領域において、これまでの学術の体系や方向を大きく変革・転換させることを先導するとともに、我が国の学術水準の向上・強化や若手研究者の育成につながる研究領域の創成を目指し、共同研究や設備の共用化等の取組を通じて提案研究領域を発展させることを目的とするものです(文部科学省HP抜粋)。
■研究の概要
日本の先史時代を研究する考古学は、現在大きな曲がり角にきています。それは、従来の考古学的研究方法のみによる研究成果が、新たに自然科学的な分析が行われることによって、修正を余儀なくされる事態が多発している現状からも明らかです。今日、純粋な考古学的研究方法のみでは、もはや過去の実像に迫ることは不可能であるといってもよい状況となっています。
この学問的危機を脱するためには、考古学そのものが従来のような文系学問領域からシフトして、理系の分析方法を導入したハイブリッドな新たな学問領域へと生まれ変わる必要があります。そこで本研究領域では、日本において、特に人骨および動植物遺存体などの出土資料を主たる対象として、現在の考古学的手法による研究に加えて、放射性炭素などによる年代測定、炭素・窒素およびストロンチウムやフッ素などによる同位体分析、ゲノム(DNA)分析などの自然科学的な手法を織り交ぜて歴史の再構築を企図する総合的学問領域であるIntegrative Bioarchaeologyの構築を提唱するものです。
■採択にあたってのコメント
私は大学院生の頃から、考古学的な研究成果に人骨から得ることのできる各種の情報を組み合わせたハイブリッドな研究を進めてきました。人骨から得ることのできる情報には、性別・年齢だけではなく既往症や栄養状態・怪我などによる骨病変の他、ゲノム(DNA)分析による遺伝的関係性や各種同位体分析による食性や移動の有無といった、考古学的な研究に大きく寄与するものがたくさんあります。これらの情報と考古学的な分析結果を組み合わせると、当時の人々の精神文化や社会構造を、より具体的に復元することが可能となります。
これまで、志を同じくする自然人類学の先生方と共同研究を行ってきましたが、その研究が評価され、今回幸運にも学術変革領域研究Aという大型の科学研究費に採択されました。本研究領域は、伝統的な考古学に年代測定・同位体分析・ゲノム分析などの自然科学的な手法を取り入れて、新たに文理融合のIntegrative bioarchaeology(統合生物考古学)の構築をめざすもので、人文社会系と自然科学系の研究者、あわせて48名が参加するビッグプロジェクトになります。
また、日本は精緻な考古学的研究データが豊富であり、かつ出土人骨などの資料が数多く存在します。これを上手に利用すれば、世界の学界に先駆けた、極めて独創的なIntegrative bioarchaeology(統合生物考古学)の構築が可能になり、日本でしか実施できないという点も踏まえ、人文社会科学分野における日本の学界の学問的先端性、優位性を示すことができる数少ない学術研究となりうると考えています。
■関連リンク
・人文社会学部人文学科 山田康弘教授
・文部科学省HP
・令和5年度科学研究費助成事業「学術変革領域研究(A)」新規の研究領域について