2020年五輪東京招致連携大学企画「オリンピアンと語る2020年東京オリンピックの夢」開催報告

お知らせ

舛本 直文(企画・司会:首都大学東京大学教育センター教授、日本オリンピック・アカデミー理事)


セミナーポスター

講演会の様子

講演会の様子

講演会の様子

講演会の様子

講演会の様子

 2013年8月8日、5年前の北京オリンピック大会の開会式と同じ日に、首都大学東京国際交流センター大会議室に北京大会のフェンシング女子に出場した池田(旧姓原田)めぐみさん(フェンシング・エペ元日本代表、山形県体育協会スポーツ指導員)をお迎えして、「オリンピアンと語る「2020年東京オリンピックの夢」と題してリレー-セミナーを開催しました。13:30-15:45の2時間近い講演会でした。首都大学の学生、教職員、地元の市民の方々、他校の教員や院生の方々など約100人の参加があり、熱心に講演を聴いていただきました。以下、その概要の報告です。

本セミナーのねらい

 このセミナーは、6月25日の筑波大を皮切りに、上智大、国士舘大、日体大、明治大とリレーされ首都大学に引き継がれました。この後は桐蔭横浜大学に引き継がれる予定です。
 文科省の本事業に関するスタンスは次の通りです。

  1. 事業の趣旨:世界の中で、東京招致の流れを作るための国内機運醸成の取組の一つとして、オリンピック・ムーブメントの啓発や2020オリンピック・パラリンピック競技大会の東京招致の機運醸成を図る。
  2. 事業の目的:今後のオリンピック・パラリンピック競技大会やオリンピック・ムーブメントのあり方をオリンピアン・パラリンピアンと若い世代(大学生)がともに考え、その輪を拡げていく。

 首都大学では、招致連携大学としてのスタンスにも鑑み、またオリンピックそのものの価値も再認識するために、次のような趣旨でリレーセミナーを開催しました。「『今、ニッポンにはこの夢の力が必要だ。』『Discover Tomorrow(未来(あした)をつかもう!)』これらは2020年オリンピック招致の標語です。さて、どのような夢なのでしょうか? またどのような力なのでしょうか?オリンピアンの池田めぐみさんをお迎えして皆さんで語り合いましょう!」

オリンピアンでしか見えない風景

 池田さんは、2004年アテネ大会女子個人28位、2008年北京大会女子個人15位、2010年広州アジア大会団体優勝という経歴の持ち主。ご自身の自己紹介も含めて70分熱心にオリンピックの持つ「夢の力」について映像も駆使して熱く語っていただきました。特に、オリンピアンでなければ実感的に体験できない風景について興味深くお話ししていただけました。興味深かったことのいくつかです。オリンピックに出場したときにはまだオリンピックシンボルマークの意味するところは知らなかったそうです。もし知っていて参加していればまたあの時の体験が変わっていたかもしれないそうです。また、北京大会ではオリンピックの特色が平和であることを実感した大会であることを話していただきました。グルジア紛争の最中、両国の射撃の女子選手達の友情の話です。選手村の食堂でこの2人と話し、彼女たちの友情と平和志向のオリンピックを痛感されたとのこと。開会式の入場行進は本当の体の底から響く振動を体感され、アテネ大会の入場行進の際には、ビデオを回していた隣の選手が「記録に残すんではない、記憶に残すんだ!」といってビデオカメラでの撮影をやめてしまったこと。生で体感できるオリンピアンならではの逸話ですね。さらに入場行進で真っ先に行進したかったのに、女子バレー選手団がトップ入場で次に有望な選手達、最後がその他の選手、という順番であったのが不満で問いただしたら「メディアの要望です」という回答があってメディアの力を思い知らされたそうです。しかし、ご自身の歓喜の様子がIOCのwebsiteで日本紹介のページの写真に使われていることを誇らしげに紹介されていました。早速チェックしたら、本当に素晴らしい笑顔で映っていました。

スポーツの持つ力

 さて、スポーツの持つ力を5つ上げていただきました。1.目指す力、2.仲間のことを考える力、3.ライバルに拍手する力、4.準備する力、5.「正しい」を集める力、の5つです。換言すれば、夢を持ち、仲間やライバルと豊かな人間関係を構築し、段取りよく準備し適切な判断をすることがスポーツを通じて養われた力であることを、池田さんご自身の体験を踏まえて力説していただきました。これらの力はスポーツの世界だけでなく、社会一般にも通ずる重要な力であるといえます。

「夢の力」とは

 池田さんはご自身の人生の通信簿と題して、ご自身の31年間の人生の浮き沈みを印象深く語ってくれました。陸上からフェンシングへの転向、東京の大学に進学するときのご両親とのやりとり、フェンシングでの致命傷となる両膝靱帯損傷という大けがとの闘い、アジア大会女子団体優勝後の発病による引退、その後の活動を次の3つのフレーズで纏めていただきました。1.「不安や挫折にいつも勝るものがある。それは好奇心」、2.「乗り越えるために壁がある。登ってみなければ見えない景色がある」、3.「前に踏み出す一歩で世界は変わる」。このようにして「人として生きる力を学べるツールとしてのスポーツ」ということからスポーツの持つ「夢の力」を体験談とともに語ってくれました。
 「強いから/チャンピオンだという理由だけで人に認められることはない、人に認められることができて(評価されて)初めて本当の強さを獲得し、本当のチャンピオンとしての輝きが出てくる。」と言う言葉もオリンピアンとしてずしんと響く言葉でした。

2020年オリンピック・パラリンピック東京招致

 この招致活動では、2020年から2050年の未来を考えることが重要であると池田さんは言っていました。オリンピックとは何か、スポーツとは何か、スポーツを通してやれることは何か、それらを長期スパンで考えることが重要であるとのこと。特に招致によってレガシーが遺され、しかもそれが未来を変える価値があるものであるべきだというお話でした。未来の子ども達にオリンピック運動に触れてもらえる、オリンピックを知ってもらえる、スポーツの価値を知ってもらえる、やってみたら違う世界が見えることを知ってもらえる。これらが重要であるとのこと。

オリンピックの価値(Olympic Values)

 オリンピアンとしてのご自身の体験から、あの場所、その瞬間を経験して何が変わったのか? 何を感じたのか? と言うことを振り返り、オリンピックの価値について次のように締めくくられました。「オリンピックは、形は残らないがインスパイアされる空間=平和/喜び、それは人が作り出すパワースポットである」と。オリンピアンとしての経験者ならではの実感のこもった纏めでした。

 講演終了後には多くのQ&Aがありました。予定時間を15分もオーバーする熱い質疑応答があり、オリンピアンとしての競技への心構えや苦難の乗り越え方、フェンシングの道を突き進むことと家族の関係など、多くの質問が出ましたが、含蓄のある回答で参加者の皆さんも満足してお帰りいただいたと思います。
 やはり、”Be a champion in life”というジャック・ロゲIOC会長のスタンスを体現されたオリンピアンであるということを実感しました。池田さん、参加者の皆様、どうも有り難うございました。

(文責・写真:舛本)