防災と復興のマネジメント
3月14日(水)新宿京王プラザホテルにて、首都大学東京大学院ビジネススクール公共経営アクションリサーチ成果報告会~が開催されました。首都大学東京は、このような大都市課題の解決に向けた教育・研究の成果を大学関係者だけでなく、一般の方々にも無料で公開し大学の「知」を積極的に還元しています。
公共経営アクションリサーチは平成19年度以来、文部科学省大学院GP(大学院教育改革支援事業)や首都大版GP(教育改革推進事業)の支援を受け、企業経営の知見を公共セクターのマネジメントに応用するPMP(Public Management Program)の一環として実施しているものです。
今年度は「防災と復興のマネジメント」をテーマに防災と復興の課題とそれに対する企業と公共セクターに何が求められるか分析・研究を行い、平成24年3月14日に成果報告会を行いました。
講演の内容の一部を紹介します。
~プログラム~
1 基調講演「復興支援の現状と課題」
NPO法人 遠野まごころネット理事長 多田一彦氏「遠野まごころネット(遠野被災地支援ボランティア)は、東日本大震災で被災した岩手県沿岸部の被災者の方々を支援するために遠野市民を中心として結成されたボランティア集団です。今回の震災では復興・再建に向けた行政との話し合いの中で、決定に向けたプロセスが重視され、意思決定がなかなかされないもどかしさや様々な人の考え方の違いから集団をまとめる難しさを体験したことを紹介されました。このような体験から、NPOと行政の連携、およびそのマネジメントがいかに重要であるのかを学んだと語った。
復興支援の現状や課題について深く考えさせられた講演でした。
2 基調講演「東日本大震災における指揮者の判断」
前東京消防庁警防部長 NTT都市開発㈱ シニアスペシャリスト 佐藤康雄氏3月11日午後3時46分、発災のその時の行動を例に、緊急時や災害時においてまず重要なことは「客観的に事実を把握する」「時間軸を念頭に置く」ことであると語った。また、これまで、指揮者として心がけてきたこととして、①至誠を胆に問う 『私心を離れ言うべき時に言える』、②迷ったら原点に帰る、③時間軸こそ解決のカギ 長期・短期を意識する、④明るさが未来を切り開く との紹介があった。
福島第一原発の冷却の際の緊迫した映像の紹介もあり、想定外のことも起こりうるということを想定しつつ行動する、指揮者のリーダーシップのあり方について考えさせられる、深い講演でした。
3 公共経営アクションリサーチチーム紹介
4 「大震災と企業の社会的責任、公共セクターの役割」
森本博行ビジネススクール教授震災時における企業の社会的責任の第一は事業活動の継続であり、第二に企業の能力を活用した良き市民としての活動であり、第三に社会福祉団体やNPOなどへの支援による社会貢献である。事業活動の継続においては、第一に事前に作成された事業継続計画(BCP)に基づくことになるが、それ以上に現場での自律的な活動が求められる。ヤマト運輸とセブンイレブンの活動を事例とした。今回の震災では、サプライチェーンの分断が問題となり、そのひとつの要因として、ダイヤモンド構造における中小企業のBCPの不在があった。
公共セクターにおいては、事前に中小企業などに対しBCP作成支援を実施し、震災後は、企業間の連携支援を行うことが求められている。
今後、東北では地域経済の再生が求められるが、企業に対してはCSR活動としては限界があり、社会的価値を実現することで経済的価値を獲得するCSV(共有価値)の事業活動が求められる。
5「防災と復興のマネジメント」
桑田耕太郎ビジネススクール教授東日本大震災では、国家・行政機関が、国民からの信頼を失ってしまった。今こそ、地方自治体・基礎的自治体は、まさに自ら思考し、デザインするという「力」をもつ時である。
われわれの合理性は、基本的に近視眼的であるという自覚もち、従来と異なる組み合わせ多様なものの解釈という複眼的な考えが必要である。流れている情報を選別し、情報処理能力駆使し 100%の安全ということはないので、どこまでリスクを引き受けられるかを判断する必要がある。企業だけではなく、自治体行政の判断においても、少なくとも子孫に我々と同様の選択の余地を残しておくことと教育が最低限の義務であり、子孫たちの選択肢を大幅に減らすような決定については、我々は謙虚になる必要、と述べた。
高度に科学化された社会において、利便性を享受しておりそれが日常化しているが、今一度リスクについて低く見積もらず、対応していく必要性があると考えさせられる講演でした。