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【研究発表】リグニンから芳香族炭化水素への変換に向けた新触媒を開発 ~再生可能資源からの省エネ型基幹化成品製造に期待~

1. 発表者

金  雄傑(東京大学 大学院工学系研究科化学生命工学専攻 助教)
月村 梨緒(東京大学 大学院工学系研究科化学生命工学専攻 修士課程2年生)
相原 健司 (東京都立大学 大学院都市環境科学研究科 博士課程3年生)
三浦 大樹(東京都立大学 大学院都市環境科学研究科 准教授)
宍戸 哲也(東京都立大学 大学院都市環境科学研究科 教授)
野崎 京子(東京大学 大学院工学系研究科化学生命工学専攻 教授)

2. 発表のポイント
  • 温和な条件下で幅広いフェノール類からアレーンへの選択的加水素分解反応を可能にするメタリン酸アルミニウム担持白金触媒を開発した。
  • 本触媒を用いると、再生可能資源であるリグニン由来のフェノール類からエチルベンゼン等の重要工業原料を合成可能である。
  • 今後、再生可能資源から重要な工業原料である芳香族炭化水素BTX(ベンゼン、トルエン、キシレン)合成への応用が期待される。
3. 発表概要

 東京大学大学院工学系研究科化学生命工学専攻の金雄傑助教と野崎京子教授らは、東京都立大学大学院都市環境科学研究科宍戸哲也教授らとの共同研究により、再生可能資源であるリグニン(注1)に多く含まれるフェノール類(注2)から基幹化成品として重要な芳香族炭化水素への加水素分解反応(注3)に高い活性及び選択性を示す触媒(注4)を開発しました。従来の触媒系は、幅広い基質適用性、基質の高い転化率及び芳香族炭化水素への高い選択性を達成するために、一般的に過激な反応条件を必要とします。今回新たに開発したメタリン酸アルミニウム(注5)担持白金ナノ粒子触媒を用いると、100℃から150℃の反応温度、わずか10%の水素分圧下で(水素/アルゴン = 1/9、1気圧)、幅広いフェノール類から対応する芳香族炭化水素類を与えました。実際、本触媒系をリグニンモデル化合物に適用すると、その加水素分解反応が効率的に進み、高い選択性及び収率でエチルベンゼン等の重要基幹化成品を得ることができました。また、本触媒はろ過により容易に回収可能であり、劣化が見られたものの、数回の再使用が可能でありました。
 今後、本触媒は再生可能資源であるリグニンから重要基幹工業原料であるBTX(ベンゼン、トルエン、キシレン)製造への応用が期待されます。また、従来の触媒系に比べ、温和な条件下で、より幅広いフェノール類に適用可能であるため、合成化学への応用も期待されます。

 本研究成果は、2021年4月20日(日本時間午前0時)に英国科学誌「Nature Catalysis」のオンライン版に掲載される予定です。
 なお、本研究は、日本学術振興会科学研究費助成事業 科学研究費補助金(JP18H05259)、学術研究助成基金助成金(JP19K15357)、および科学研究費補助金 新学術領域研究「分子合成オンデマンドを実現するハイブリッド触媒系の創製」(JP20H04803、JP17H06443)による支援を受けて行われました。

4. 発表内容
【研究背景】

 人類社会が直面している環境・エネルギー問題、化石資源の枯渇等の問題を解決し、持続可能社会を実現するために、再生可能資源の有効利用が近年注目を集めています。なかでも、再生可能資源であるリグニンに多く含まれるフェノール類を安価で豊富な分子状水素を用いて加水素分解を行えば、基幹化成品として重要である芳香族炭化水素(ベンゼン、トルエン、キシレン等)が得られることから、近年盛んに研究が行われています。また、フェノール類から芳香族炭化水素への変換反応は合成化学的にも重要な反応であります。従来の触媒系は、基質の高い転化率および生成物への高い選択性を両立させるために、高温或いは高圧といった過激な条件を必要としました。したがって、温和な条件下で、幅広いフェノール類から対応する芳香族炭化水素へ高選択的に変換できる触媒系の開発が切望されています。

【研究内容】

 本研究で我々はこれまでに触媒担体(注6)としてほとんど注目されなかったメタリン酸アルミニウムに着目し、白金ナノ粒子(注7)をこの担体に担持した触媒を新たに設計しました。本担持白金ナノ粒子触媒を用いると、100℃から150℃の反応温度、わずか10%の水素分圧下で(水素/アルゴン = 1/9、1気圧)、幅広いフェノール類を高選択的に対応する芳香族炭化水素に変換することができました。
 メタリン酸アルミニウムは触媒担体としてよく使われてきた酸化アルミニウム、酸化セリウム等の酸化物に比べ、フェノール類の加水素分解反応に対して高い転化率及び選択性を示しました。透過型電子顕微鏡(注8)により触媒のキャラクタリゼーションを行ったところ、担体表面に平均粒子径2.1 nmの白金ナノ粒子が生成していることが明らかになりました。本触媒系を用いると、従来の触媒系に比べ、幅広いフェノール類を芳香族炭化水素に加水素分解することが可能です。また、本触媒系はリグニンモデル化合物の加水素分解反応にも適用でき、エチルベンゼン等の重要基幹化合物を高選択的に与えました。反応途中に触媒をろ過により除去し、ろ液のみで反応を行ったところ反応がまったく進行しなかったこと、ろ液の分析により白金種の溶出が確認できなかったことから、本触媒は不均一系触媒(注9)として働くことが示唆されました。また、触媒はろ過により容易に回収可能であり、触媒活性の低下がみられたものの、少なくとも5回の再使用が可能でありました。反応機構(注10)の検討により、担体と白金ナノ粒子が協働的に働くことにより、本触媒系の高い活性及び選択性の発現に繋がったと考えています。

【今後の展開】

 今後、本触媒系は活性及び選択性の更なる向上により、再生可能資源であるリグニンから重要基幹工業原料であるBTX(ベンゼン、トルエン、キシレン)製造への応用が期待されます。また、これまでの触媒系に比べ、温和な条件下で幅広いフェノール類に適用可能であることから、有機合成化学への応用も期待されます。

【用語解説】

(注1)リグニン
木質バイオマスの主成分の一つ。炭素-酸素結合を多く含む化合物である。

(注2)フェノール類
芳香環に水酸基が直接結合した化合物の総称。

(注3)加水素分解反応
分子状水素を用いた炭素-炭素、炭素-酸素などの結合の水素化開裂反応。

(注4)触媒
化学反応速度を速めるが、反応の前後で変化しない物質。

(注5)メタリン酸アルミニウム
アルミニウムのリン酸塩の一種。化学式はAl(PO3)3である。

(注6)担体
担持された金属種を支える土台となる物質。

(注7)ナノ粒子
ナノサイズ(10-9 m)の物質を指す。そのサイズ特異的な性質に関して近年盛んに研究が行われている。

(注8)透過型電子顕微鏡
電子顕微鏡の一種。試料に電子線を照射し、透過した電子線の強弱によって試料を観察するタイプの電子顕微鏡のこと。透過型電子顕微鏡により触媒を観察することで、担体表面の金属ナノ粒子の粒径分布を求めることができる。

(注9)不均一系触媒
不均一系触媒反応においては、触媒と反応物がそれぞれ異なる相、つまり固体-液体、固体-気体などの界面で反応が行われる。代表的な不均一系触媒は固体触媒である。対して、分子触媒に代表される均一系触媒は、触媒自身が反応液に溶けた状態で作用する。

(注10)反応機構
化学反応がどのように起こるかを記述したもの。

【論文情報】

雑誌名:「Nature Catalysis」(4月19日、オンライン版)
論文タイトル: Metal-support cooperation in Al(PO3)3-supported Pt nanoparticles for the selective hydrogenolysis of phenols to arenes
著者:Xiongjie Jin, Rio Tsukimura, Takeshi Aihara, Hiroki Miura, Tetsuya Shishido, Kyoko Nozaki
DOI番号:10.1038/s41929-021-00598-x

【添付資料】

図1 再生可能資源であるリグニンの加水素分解により基幹化成品が製造できる。
図1 再生可能資源であるリグニンの加水素分解により基幹化成品が製造できる。

図2メタリン酸アルミニウム担持白金ナノ粒子触媒の透過型電子顕微鏡像と白金粒子径分布
図2メタリン酸アルミニウム担持白金ナノ粒子触媒の透過型電子顕微鏡像と白金粒子径分布

図3本触媒系を用いると温和な条件下でリグニンモデル化合物からエチルベンゼンが得られた。

都市環境科学研究科 環境応用化学域 宍戸 哲也教授
都市環境科学研究科 環境応用化学域 三浦 大樹准教授

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