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【研究成果発表】再結晶化のパターン制御に成功

~フィルム状デバイス・食品・塩害防止への応用が期待~

 水溶液の水滴をガラスの上に置き水分を蒸発させていくと、溶質が再結晶化します。首都大学東京・理学研究科の栗田玲准教授らの研究グループは、いくつかの水溶液で実験を行い、この再結晶化において同心円や放射状、格子状といったパターンを簡単に制御できることを見出しました。
 今回、重曹や食塩といった日常的に使われる水溶液を用いて、そこにラテックス粒子を混入させました。ラテックス粒子が混入すると、コーヒーリング効果(注1)とよばれる現象が起きます。このコーヒーリング効果を用いて、温度と湿度を変化させるだけで、結晶化のパターンが大きく変化することを初めて確認できました。
 このようなパターンは、インクジェットや基盤状に蒸着、乾燥させることでつくられるフィルム状デバイス、食塩の口内での溶解性の違い、レンガなどの細孔内での結晶化による破壊といった塩害などと深く関わっています。今回のパターン制御の成功は、非平衡現象の学術的発展だけでなく、産業的な応用も期待されます。

■ 本研究成果は、8月21日付けでNature Publishing Groupが発行する英文誌Scientific Reportsにて発表されました。本研究の一部は、学術振興会科学研究費補助金(基盤B No. 17H02945、若手B No. 17K14356)の支援を受けて行われました。

研究の背景

 基盤上の水滴の蒸発は、日常的に観察される現象ですが、実は難しい問題として知られています。例えば、コーヒーをテーブルにこぼしたまま放っておくと、輪っか状のシミができます。これはコーヒーリング効果と呼ばれています。水滴表面近傍は、飽和蒸気圧に達しているため、蒸発がかなり遅くなっています。一方、基盤と接している部分は蒸発が速く進みます。そのため、水分は基盤と接している部分から蒸発し、液滴の中から基盤との接点に向かって流れが生じ、コーヒーの成分が液滴の端に堆積することでリング状のシミが形成されます。
 基盤上の水溶液の蒸発による結晶化は、先ほどの蒸発の問題に加えて、熱の出入り、密度変化、濃度変化、流れといった要素が複雑に絡み合うより難しい現象になり、未だ解明されていない問題が多く残されています。また、インクジェットや蒸着、塩害などと深く関わっているため、研究の発展や現象の理解が以前より望まれていました。
 今回、問題の一つであった蒸発中の水滴の大変形を抑えるため、水滴の端をピン留めし、水溶液の再結晶化への影響を実験的研究によって調べました。

研究の詳細

 首都大学東京理学研究科物理学専攻の栗田玲准教授、森永恒希(大学院生)、及川典子助教(当時、現:大阪府立大学准教授)らの研究グループは、重曹溶液の水滴にラテックス粒子を混入し、その乾燥・再結晶化過程を調べました。ラテックス粒子を混入したことでコーヒーリング効果が起き、液滴の端をピン留めすることに成功しました。これにより、液体の形状は連続的に薄くなっていき、さらに蒸発速度も一定という条件にすることができます。
 図1はラテックス粒子を入れた場合と入れていない場合を比較したものです。左の液滴にはラテックス粒子が含まれており、右の液滴にはラテックス粒子が含まれていません。左は最後まで円状を保ったまま結晶化していますが、右は途中で端が剥がれ、輪っか状に結晶化が起きています。顕微鏡で観察してみると、ラテックス粒子が入っていない場合、結晶の塊が見られます(e)。一方、ラテックス粒子が入っている場合、ある点から放射状に結晶が並んだパターンが見られました(f)。さらに温度湿度を変えて実験を行ったところ、放射状パターン(g)、同心円パターン(h)が観察されました。蒸発速度と初期濃度を系統的に変化させたところ、初期濃度が高く蒸発速度が遅いと放射状パターンに、逆に、初期濃度が低く蒸発速度が速いほど同心円パターンになりやすいことがわかりました(図2)。

 図1 ラテックス粒子の有無による結晶化の違い
(a)-(d)左の液滴がラテックス粒子入り、右の液滴はラテックス粒子なしの場合。(a) 4665秒後、(b) 4981秒後、(c) 5536秒後、(d)5848秒後。 (e)ラテックス粒子がない時の結晶拡大画像、(f)ラテックス粒子がある場合の結晶パターン。 (g) 22℃、湿度50%、初期濃度8.4 %のときの結晶化パターン。 (h) 22℃、湿度50%、初期濃度0.47 %のときの結晶化パターン。(a)-(d)の白線は5 mm、(e)-(h)の白線は0.1mmを表しています。

図2 初期濃度を横軸、蒸発速度を縦軸にしたときの状態図。○が同心円パターン、×が放射状パターン。

研究の意義と波及効果

 今回の研究では、蒸発による再結晶化の結晶パターンがラテックス粒子を入れることで大きく変化することがわかりました。また、蒸発速度や初期濃度を変えることで同心円パターンや放射状パターンなど結晶パターンの制御を実現しました。
 基盤上の水溶液の蒸発による結晶化は、まだ未解明な問題が多く残されている学術的に興味深い現象である一方で、インクジェットや蒸着、塩害などと深く関わっています。今回の発見により、研究の発展や現象の理解が期待できるものと考えています。

【用語解説】
注1)コーヒーリング効果
 コーヒーをテーブルにこぼして蒸発させると、リング状の堆積物ができる現象。蒸発速度の違いにより、基盤と接している部分に向かって流れが生じ、コーヒーの成分が堆積する。これはコーヒーだけでなく、粒子状のものであれば起こる現象である。条件によっては、中心にあつまる逆コーヒーリング効果などもあり、現在でも研究が多く行われている。

【発表論文】
“Emergence of different crystal morphologies using the coffee ring effect”,
Kouki Morinaga, Noriko Oikawa, Rei Kurita
Scientific Reports 8 12503(2018)

www.nature.com/articles/s41598-018-30879-8 外部リンク

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