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都市環境学部 都市政策科学科
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「プロダクティブ・エイジング」とは? 少子高齢社会を乗りきるために
急速に進む「超高齢化社会」
日本は世界トップの長寿国です。高齢者が長生きできるのは大変すばらしいのですが、その一方で子どもが少なくなっています。日本では「高齢化」と「少子化」が同時並行で進んでしまったため、人口の高齢化のスピードがとても速く、現在は国民の4人に1人は65歳以上という「超高齢社会」になっています。出生率が劇的に改善する見込みは今のところないため、今後も「超高齢社会」は続きます。このような少子高齢社会をどのように乗りきればよいのか、その対応策を私たちは考えていかなければなりません。
「プロダクティブ・エイジング」とは?
高齢者が増えると年金、医療、介護などの社会保障費が増え、社会の負担が増えるといった悲観的な考えが多いのですが、実は8割以上の高齢者は元気で、地域社会や家庭生活の中で活躍しています。高齢者が行っているさまざまな社会貢献活動に目を向け、高齢者の力を社会的にもっと活用しようという考え方を「プロダクティブ・エイジング」と言います。
高齢者の経験や知恵、力を社会に生かすことが、少子高齢社会への現実的な対応策として期待されています。そのために、高齢者が働きやすい職場やボランティア活動に参加しやすい地域づくりなど、社会環境の整備が求められています。
仕事やボランティアが生きがいに
高齢者が仕事やボランティア活動、家事や孫の世話などの活動をすることは、社会、地域、家庭にとって役に立つだけでなく、高齢者自身の心身の健康にとっても良い効果をもたらします。高齢期は、病気になったり、親しい人との死別などのストレスフルな出来事が多く、「うつ」的な精神状態になる人が少なくありません。
しかし、全国の高齢者を調査した結果では、仕事やボランティア活動などを行っている人では「うつ」的な精神状態になることが少なく、逆に「自尊感情」が高いことがわかりました。このように、社会的にも、高齢者個人にとっても意味のある活動を推進するための取り組みを考えることが、現在の日本の課題となっています。
ゴミ屋敷はなぜできる? 「健康社会学」からのアプローチ
健康社会学とは何か
体調が悪くて病院を受診しても、はっきりした原因がわからないことがあります。そのようなときは生物学的・医学的要因ではなく、心理的また社会的な要因が影響しているかもしれません。また、健康や生活上の問題を抱えている人たちが暮らしにくい状況は、医療や福祉制度のあり方や、その人を取り巻く文化や社会的環境で作り出されていることもあるでしょう。このように、人々の健康や福祉、QOL(Quality of Life:生活・生存・人生の質)に関する問題を社会的、心理的、文化的、制度的な観点から理解しようとするのが「健康社会学」です。
ゴミ屋敷問題の背景にある「セルフネグレクト」
自分の健康と安全の維持に必要なものや支援を、自ら放棄している状態を「セルフネグレクト」と言います。一例が、居住者が自ら生活環境を悪化させる、いわゆる「ゴミ屋敷」の問題です。このような場合、ただゴミを撤去すればよい、というものではなく、なぜゴミを集めて溜め込んでしまうのか、その背景や要因を探ることが重要になってきます。「居住者に認知症など病的な理由があるのか」「配偶者を亡くしたなど孤独感によるものなのか」「完璧主義がゆえに分別できずにゴミが溜まってしまっているのか」など、状況や理由によって取るべき対応は違ってくるのです。
世の中の問題を身近な問題としてとらえる
近所にゴミ屋敷があれば、迷惑だと思う人が大半かもしれません。しかし、ゴミ屋敷に代表される「セルフネグレクト」の状態は、一部の人だけが陥りやすい問題なのかというと決してそうではありません。高齢になって認知症や一人暮らしになったときには、誰もがそうなってしまう可能性はあるのです。ですから、「厄介な問題」として排除するのではなく、自分の問題として考えられるようになれば、社会も少しずつ変わってくるでしょう。
このように問題のメカニズムを発見し、解決策を世の中に広く示していくことが、健康社会学の大きな役割なのです。
高校生・受験生の皆さんへのメッセージ
健康や福祉に関する問題は、社会と密接に関わっています。いま現れている現象の背景や要因を探ることで、社会はどうなっているのか、何が問題なのかが見えるようになり、将来のまちづくりなどに生かしていくことができるでしょう。
「健康社会学」の知識を持つと、さまざまな問題を客観的に考えられるようになります。もし自分自身が何か困難な状況になったとしても、その壁を乗り越える知識が身についていれば冷静に対処できるはずです。あなたも健康社会学を大学で一緒に学んでみませんか。
夢ナビ編集部監修