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都市環境学部 地理環境学科
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川から深海までは一つながり! ダム建設が深海に及ぼす影響とは?

ダム建設の影響はどこまで続く?
日々、さまざまな環境変化に関する報道があります。砂浜の砂が激減しているというニュースもたびたび伝えられています。原因はいくつかありますが、川の上流でダム建設が進み、川から流れ出る土砂が減っていることが大きく影響していると考えられています。
砂浜は目に見えるため砂の減少に気づきやすいのですが、その先にある海の中はどうでしょうか。ダムの影響で土砂が減少しているのであれば、陸地の周りの深海の底でも、泥などの堆積(たいせき)物が影響を受けていると想像できます。
海底で泥の堆積速度を調査
実際に日本近海のいくつかの海域で、泥や砂がどのように堆積しているか、サンプル(コア試料)を採取し、泥が堆積する速度の変化について調査が行われています。最近100年間程度の泥の堆積速度は、コア試料における鉛同位体の濃度変化をもとに算出できます。調査の結果、川の上流でダムが建設された頃から、泥の堆積速度が遅くなっていることがわかりました。
例えば新潟県の近海で採取したコア試料を調べると、20世紀中頃に泥の堆積速度が遅くなっていました。これが阿賀野(あがの)川上流にある巨大ダムの建設時期と一致したのです。巨大なダム湖の影響で泥の運搬が半分以下となり、近海での泥堆積量が減ったことが推察できます。
目に見えないことにも意識を向けよう
海底に堆積する泥が少なくなると、海中の栄養塩が減って漁場の豊かさが失われたり、環境汚染物質を薄める効果が弱まったりということも考えられます。
私たちは普段、目に見えていることや、自分たちの生活に直接影響があることだけに意識が向きがちです。しかし、海底の堆積物を調べることによって、川の上流に造られたダムの影響が砂浜だけではなく、深海にも及んでいることがわかってきました。「川から深海までは一つながり」ということを忘れず、日々の営みを続けていく必要があるのです。
堆積物は情報の宝庫! ~当たり前に見ている風景に隠された謎~

大地震が引き起こした山岳崩壊
東日本大震災では沿岸部を中心に大きな被害が出ましたが、山岳崩壊による土砂災害の被害はあまり起こりませんでした。しかし、発生の可能性が懸念されている南海トラフ巨大地震では、南アルプスなど中部地方の山岳地域で大崩壊が起こる危険性が指摘されています。
過去を振り返っても、南海トラフを震源とする宝永の巨大地震(1707年)が発生した際に、静岡県と山梨県の県境に近い安倍(あべ)川の上流で大崩壊があったと考えられています。その被害規模がどのようなものだったのかを明らかにすることは、周辺自治体が今後の防災計画を考えるうえで大事なことです。
大崩壊の土砂が谷をすっぽり埋めた?
これまでも、静岡県の安倍川上流域では、宝永地震によって崩壊した土砂で安倍川の谷が半ば埋まってしまったことがわかっていました。最近の地層の調査の結果、その崩壊はこれまでの推測よりさらに大規模で、場所によっては谷を埋めた堆積物によって尾根まで埋まってしまうほどだったこと、そのため、水流が尾根を横切って流れはじめ、「赤水の滝」という落差40m近い滝がつくられたことがわかってきました。
過去を解き明かし将来を予測する
地球科学の一分野である堆積学は、地層を構成する砂や石ころ(レキ)、泥といった堆積物の形成過程や性質、影響などを研究します。例えば、川の流れや土石流に流されてきた石ころの多くは上流方向に傾く形でその位置に止まるため、堆積物の中の石ころの様子を丹念に調査していけば、現在とは違う川の様子が見えてきます。大地震前の河川がどのように流れていたのかを調べることによって、地震による山岳崩壊が川の流れを完全に変えてしまうぐらい大規模なものであったことがわかってきたのです。
普段私たちが目にしている砂や石ころ(レキ)、泥などの堆積物は、情報の宝庫です。当たり前の風景がどのようにつくられたのか、過去を解き明かし、将来の予測につなげていくことも堆積学を学ぶ大きな意義と言えるでしょう。
高校生・受験生の皆さんへのメッセージ
科学における基礎研究は、学問がいろいろな方向に発展するための原点になるものです。私は、「ほかの人が気づかないことを見つけること」に研究の面白さを感じてきました。研究や調査は地道な作業が多いですが、毎日コツコツと歩みを続けていれば、いつのまにか「見晴らしの良い高所まで登っていた」というような瞬間が必ず訪れます。
そのような喜びを学生にも味わってもらいたいと考えて、日々指導を行っています。あなたも科学を志向するなら、多少回り道をしても地道に自分の道を見つけていきましょう。
夢ナビ編集部監修