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都市環境学部 建築学科
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これからの環境建築は東南アジアにチャンスあり!
日射を宇宙にはね返す新フィルム
建物を省エネルギー化する場合、ガラスの反射率を上げて建物内部に日射が入らないようにするという方法があります。しかし、反射させた日射が周りのビルや地面に降り注ぐと、建物が密集する都市では全体がより高温化して、ヒートアイランド現象を助長することになりかねません。そこで、受けた光をそのまま光源にはね返す「再帰反射」を利用して、ガラスに特殊な被膜をつくることで日射を宇宙に返そうという研究が進んでいます。液晶画面などに使われている日本の被膜技術を建築に応用したこの新フィルムは、国際学会などでも注目を集めています。
シンガポールの超高層ビルに採用される日本の技術
日本はヒートアイランドに対する規制が甘く、せっかくの技術もなかなか活用されることがありません。そこで着目したのがシンガポールの超高層ビルです。国土の狭いシンガポールは環境にも関心が高く、政府が主導して「日射の照り返し」を規制しているのです。東南アジア諸国もかつての日本と同様に、欧米への憧れから文化をそのまま受け入れる傾向がありますが、建築はその国の気候や風土にフィットさせていくことが重要です。何も対策を講じていないガラス張りのビルが次々に建つことは、とんでもないエネルギーの浪費や都市環境の悪化につながるのです。
成長する東南アジアはこれからの有望なマーケット
シンガポール以外にも、現在ベトナムで10件くらいのプロジェクトが進んでいます。このプロジェクトは、ビルがどのくらいのエネルギーを消費しているのかを調査して、オフィス環境や省エネに対する改善提案をしていくものです。今後、タイやマレーシアでも進められる予定です。
日本のマーケットは、残念ながら縮小傾向にあります。それに対し、これから経済的にも発展していく東南アジアはマーケットとしても有望です。また発展途上の国には手つかずの部分も多く、取り組みに対して劇的な効果を生み出せるという魅力もあるのです。
日本のCO2排出の4割は建物から出ている
家庭で一番エネルギーを消費しているものは?
あなたの家で、最もエネルギーを消費しているものは何だと思いますか? 答えは「給湯」で、全体の3割を占めています。「冷房」と答える人が多いのですが、年間消費は数%にすぎません。日本のCO2排出の4割は、実は建物から出ているのです。その半分が住宅からで、半分がオフィスからです。そのうち、建物を建てるときの負荷は1~2割程度、残りは建てたあとに生じています。しかし多くの人は、そういったことを知りません。まずは正しい知識を身につけ、自分の行動が環境にどのような負荷を生じさせているのかを意識していく必要があります。
建物の真の評価には建築後の調査が必要
住宅にはそこに住む人の嗜好(しこう)が影響しますが、オフィスはパブリック空間ですから、快適さや省エネのために何らかの基準を設けるのは意味のあることです。そのためには、ビル内の温度・湿度・照度やCO2濃度の計測、照明や空調機器のエネルギー消費、外部からの日射や気温などを調べる必要があります。建物を評価する基準である性能評価は、あくまで設計段階のものでしかありません。実際は建物が建ったあとの実態を調査して、想定した性能が出ていなければ原因を探って、それに近づけていく必要があるのです。
海外での国際貢献が業界に風穴を開ける
しかし、そのような調査はあまり行われていないのが実状です。ビルがもたらす環境への負荷は、本来であればオーナーが責任を持って対処すべきですが、いまのところ規制する基準も明確でなく、責任の所在もあいまいです。また管理する側にとってもメリットが感じられないと話は進みません。日本の優れた建築技術をもっと環境やエネルギー問題に生かすためには、これからは国内だけに目を向けるのではなく、海外での国際貢献も視野に入れて考えるべきでしょう。海外で実績を上げることは、業界の閉塞的な状況に風穴を開けるチャンスにもなるのです。
高校生・受験生の皆さんへのメッセージ
大学は、一方的に教わる場ではなく、学ぶきっかけが提供される場です。経験や知識を身につけることで、自分の夢に向かって学びを深めていってほしいと思います。高校時代は、語学、数学、歴史、社会、サイエンスなどの学習を通じて、「基礎体力」を養う時期だと言えるでしょう。私の研究室にはアジアからの留学生もいて、ゼミや大学院では半分以上、英語で講義をしています。これからは、インプットは日本語でも、アウトプットは英語が必須です。学生たちにも積極的に海外へ出ていくことを勧めています。
夢ナビ編集部監修