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都市環境学部 建築学科
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「都市計画」ってどんなことを学ぶの?

「都市計画」の研究対象とは?
建築学科に入学する学生の多くは、建築デザイナーを志望していますが、実際にそれを職業にできる人はごく限られているのが実情です。ただ、建築学を学ぶなかで、建物の耐震構造の研究や建築材料の開発など、建築デザイナー以外の分野に興味を持つようになる学生も多くいます。その選択肢の中に、「都市計画」も含まれます。
ひと言で「都市計画」といっても、市区町村レベルから国家レベルまで、年数も数年から数百年に及ぶものと、さまざまなバリエーションがあります。特に、最近の「地球環境問題」ともなれば、地球レベル、数億年にもわたる話です。
ただ、あまりに研究対象を広げすぎると、実務的に対応しきれません。そこで、大学で学ぶ「都市計画」の多くは、市区町村レベル、10年から15年くらいの期間までのものを研究対象として取り上げます。
街並みがガラリと変わる日本。変わらない街パリ
欧米、とりわけフランスのパリなどは、数百年前の街並みが今も変わらず保存されていますが、日本は街の移り変わりがとても早い国で、10年前とまったく変わらない街並みを国内で探すのは至難の業といえます。事実、東京・丸の内の今の風景は、10年前とはまったく異なっています。
しかし、それは都市計画を行う上での利点でもあります。日本は10年単位で街並みを柔軟に変えることができる、潜在的な能力を秘めた国とも言えるのです。
「都市計画」も土木、渋滞緩和、緑化とさまざま
例えば、多摩ニュータウンの人口規模は、その水源でもあるダムの水量から算出されました。その水源でまかなえるだけの街の人口を算出することは、「都市計画」の一例です。
このように「都市計画」は、上下水道や道路、緑化だけでなく、交通渋滞の緩和、新幹線の敷設計画や工場の建設、街づくりへの住民参加のあり方など多岐にわたり、工学的見地からだけではなく経済学や社会学も駆使して分析する分野です。その幅広さから、自分の関心がある分野が見つかりやすい学問でもあるのです。
「都市計画」を、本場パリから学ぶ

フランス人は人生の楽しみ方を知る人たち
都市計画を語るときに、パリの街並みについては外せません。
パリでは多くの人が昔からの古いアパルトマンに住み、通勤・通学の所要時間も30分程度と手軽な距離で暮らしています。残業もほとんどせず、家族と過ごしたり、オペラや映画、ワインを楽しむなど、人生を心から楽しんでいます。実際にパリで生活した日本人は、「日本にはない日々の生活の豊かさに、改めて驚かされた」と口々に語ります。
しかし、これは単に彼らの国民性だけによるものではありません。パリの街並みそのものが、植栽(緑)や公園などのゆとりの空間が多く、職場や劇場、市場などが日常に近い空間に位置するなど、豊かな生活を可能とする都市計画がなされているからなのです。
「都市計画」から見る、パリの街並みの歴史
現在のパリが形成されるまでには、数百年の歴史が重ねられてきました。かつてのセーヌ川は、動物の死骸や生活排水などが垂れ流され、お世辞にも美しいとは言いかねる河川でした。
しかし、16世紀頃から時の為政者が街並みの整備や環境美化に取り組むようになると、徐々に川は本来の美しさを取り戻し、それまで橋の両脇にあった猥雑な店や民家は撤収されました。そして、川面に美しい橋のかかる風景は、人々の心をとらえるようになったのです。
高邁な理想ではなく、小さな願望から生まれた
また、貴族たちが馬車からの景色を楽しむために道路の整備が進み、その両側には木々が植えられ、緑豊かな街並みが生まれました。庶民たちも「自分たちの納める税金がこうして日々の生活を豊かにすることに活用されるのなら」と納得もできたのでしょう。
このように実際の街づくりは、どちらかというと「都市計画」や「環境緑化」といった高邁(こうまい)な理想ありきで始まったものではなく、人々の「より快適に暮らしたい」「より楽しく過ごしたい」という小さな願望から生まれたものと言えます。
公園のベンチから企業のアジア戦略まで、広がる「都市計画」

拡大する「都市計画」の研究対象
最近の「都市計画」の研究対象は、より幅広くなりつつあります。2004年に国が景観法を制定したので、とりわけ、「都市デザイン」と呼ばれる分野が注目されています。
例えば、公園のベンチなどは「ストリート・ファニチャー」と呼ばれますが、座り心地が良く、見栄えも美しく、交通の妨げにならない、といった条件が求められます。また、空港・駅などは、日本ではあまりに没個性的でどの都市も均一化していますが、旅行者の目線では非日常であるこれらの空間を「小さな都市」としてとらえるため、そのデザインやあり方の研究が求められています。
東京、ソウル、上海……どこを拠点とするか
さらには、グローバリゼーションが高まるなか、アジア各国間のある闘いが水面下で始まっています。
例えば、欧米の企業がアジア支部設置を検討する場合、建築技術や通信コストには大差がないことから、「都市の面白さ」という付加価値で選ぶ時代になったとも言われているからです。各企業は単にビジネスの拠点としてだけでなく、そこに住む社員の生活が、より豊かで快適になる都市を選ぶというのです。
このようにビジネスの場面でも、国家規模の都市デザインが不可欠な時代となっています。
これからますます成熟する日本の街並み
日本はかつての右肩上がりの経済成長の時代は終わり、これから混迷の時代を迎えようとしています。
しかし、日本における「都市計画」の伸びしろは、じゅうぶんにあると言われています。日本人は高級ブランド品を買いあさるバブル期や大量消費の時代を経て、「本当の意味での豊かな人生とは何か?」という意識に向き始めているからです。
今後の行政にも、無駄を極力排除し、「暮らしやすい豊かな街づくり」が求められると予想されています。
豊かな都市空間をつくることが、ひいては地球環境の保護にもつながります。建物を外側の世界を含めてマクロにとらえ、数値化しにくい人々の心のゆとりや楽しさ、豊かさに、どう貢献するかを追究するのが、「都市デザイン」という学問なのです。
高校生・受験生の皆さんへのメッセージ
都市計画のみならず建築を志すあなたには、「物ごとを原因から結果までを眺める習慣」を身につけてほしいと思います。なぜなら、街並みはその後もずっと残り、自分の仕事が他の人の人生に大きな影響を及ぼすことの想像力が求められるからです。具体的には、新聞を読む習慣を勧めたいですね。
また「優れた都市計画家は、夜につくられる」ともいわれます。入学後は、何か自分の好きなことで、建築以外の教養を身につけてほしいと思います。実際、ロックバンドに打ち込む学生の設計が、優れていたりするんですよ。
夢ナビ編集部監修