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システムデザイン学部 機械システム工学科
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福祉工学の研究がもたらす、人の生活に役立つ健康福祉用具とは?
機械工学を福祉に役立てる
エンジンやロケットなどをはじめとする機械の素材や仕組みを研究・開発する機械工学という学問には、さまざまな分野での取り組みが含まれています。その中でも「福祉工学」は、車イスや義手・義足、歩行補助やリハビリのための器具など、高齢者や障がい者の日常生活を支えるための健康福祉用具を研究する分野です。機械工学を福祉に役立てることで、弱い立場の人々を助けることができるのです。
人間の身体の仕組みを機械工学のセンスで分析
例えば、義足の設計を行う時、膝に相当する部分がただ単純に曲がるだけでは、扱いやすい義足にはなりません。人間の膝関節の動きを詳しく分析すると、膝はすべりながら回転して曲がる、という複雑な動作をします。このため、最近の義足には、継手と呼ばれる関節にあたる部分に、複数の軸を持つリンク機構が組み込まれるようになりました。このリンク機構は機械工学の世界の基本的な仕組みのひとつですが、これを使えば立った状態では安定し、曲げるとグッとしっかり曲げられるという義足になるのです。このように、人間の身体の仕組みを分析し、それを支援するためには機械工学のセンスや方法論が大いに役立ちます。
安全性と信頼性を検証する体制の整備が急務
世界の中でも、福祉工学の分野における研究では、日本は先駆的な立場にあると言われています。脚に密着する形で歩く動作を感知しつつモーターなどで動きをサポートする器具など、さまざまな器具の開発が進められていて、実用化の域に達しているものもたくさんあります。このような器具の開発でもっとも重視されるのは、安全性と信頼性です。それらをしっかりと検証した上で、安心して世に送り出すための仕組みの整備も必要です。福祉工学に基づく健康福祉用具の研究・開発は、超高齢社会の時代を迎えている日本にとって、人々の生活に欠かせないものづくりの分野になっていくでしょう。
人間の身体の仕組みをモデル化した「デジタルヒューマン」とは?
人間の身体の動きを機械工学で分析する
人間の身体は、骨や筋肉、神経など、数多くの組織や器官が連動することによって、さまざまな動きを生み出します。こうした人間の身体の制御の仕組みを分析していく際には、機械工学のセンスや方法論が大いに役立ちます。こうした研究分野は、バイオメカニクス、ヒューマンダイナミクスなどと呼ばれており、今も世界各国で活発な研究が進められています。
人間を数理モデルで再現
人間の身体には、大小合わせて約600もの筋肉が存在します。例えば、人間が歩く時、それぞれの筋肉にどのような力が加わっているのか、筋肉の活動状態を直接的にセンサーなどで測定することは現実的には難しいですが、工学的な方法論を用いると体の動きから筋肉の活動状態を詳細に知ることができます。さらに脳神経による筋肉への運動指令の仕方までも工学的に解明すれば、人間が歩く仕組みを数理モデルで表すことができるようになるのです。コンピュータ上で人間の身体の動きを再現できるこの数理モデルは「デジタルヒューマン」などと呼ばれています。
さまざまなシミュレーション
デジタルヒューマンを利用すると、さまざまな仮想の条件下で、人間の身体がどのように動くのか、というシミュレーションが可能になります。例えば、義足などの健康福祉用具の設計を行う場合は、どのような素材や機構にすればより快適で便利なものになるか、試作前にコンピュータ上でシミュレートして設計を検討できるようになります。怪我や障がいからのリハビリの計画を立てる際は、デジタルヒューマンによってモデルを作成し、どの程度の動きでどのようなリハビリ効果が得られるかを予測できるようになります。また、スポーツ指導の分野では、選手に正しいフォームなどを身につけさせるためのツールとしての活用が期待できるでしょう。。
このように、デジタルヒューマンによる研究成果は、私たちの生活のさまざまな部分で活用できるものなのです。
参考資料 1 身体運動の生体力学的評価技術に基づく健康福祉用具の開発(1.6MB)
高校生・受験生の皆さんへのメッセージ
私は機械工学の中でも、福祉工学やバイオメカニクスなど、機械というよりも人間を対象とした研究をしています。人間の生活の支援には、さまざまな場面で機械工学の方法論が応用できるのです。私自身、高校の時にはそんな研究分野があることは知りませんでした。高校生のあなたも、まだまだ知らないことはたくさんあります。まずそのことを自覚し、知的に貪欲になって、いろいろな知識を吸収してください。そして大学に進学しても、自分の知らないことに対して好き嫌いせずに食らいつく、そのくらいの気持ちで取り組んでください。
夢ナビ編集部監修