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システムデザイン学部 機械システム工学科
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振動と騒音を減らして、自動車を「人間中心設計」に
車の振動や騒音を低減する
自動車の設計を、振動や騒音を低減するという観点から考えたとき、車本体の構造だけではなく、乗る人がどう感じるかが大事です。車を運転している間、路面の凹凸やエンジン内部での爆発によってさまざまな振動や騒音が発生し、乗っている人の体はずっとそれにさらされています。振動や騒音の程度によって、人は不快感を覚えたり疲れを感じたりします。例えば、乗り物酔いという現象は、車の振動によって人の体が揺れ、不快感を覚え、起こります。車は毎日乗る場合もあれば、長時間運転することもあります。さほど不快でないレベルの振動でも、繰り返し作用すると不快や疲れを感じることもあるのです。
不快感や疲れの感じ方を分析する
実は振動の感覚を分析するのは簡単なことではありません。振動はお尻や背中、頭などと感じる部位もさまざまですし、状況による感じ方の違いや個人差があるからです。自動車の振動を分析する場合には、実際にシートに座ってさまざまな振動パターンを経験してもらい、どの振動が不快だったかをモニターしてもらう実験を行います。また、シートに座って2時間程度運転中の視界を模してゲームのように場面が変わっていく画面を見ながらハンドル操作をしてもらい、実験前と終わった後で体前屈をして体の硬さの変化を調べたり、心拍や唾液などの生理量を計測して、疲れの度合いを見る方法もあります。
「人体モデリング」による人間中心設計
コンピュータの予測技術の進歩で、今では自動車のシートの振動はコンピュータ内で予測シミュレーションができつつあります。乗り心地のよさを追求するには、乗っている人の体を力学的にモデル化して、構造物の予測の中に組み入れる必要があります。これは「人体モデリング」と呼ばれ、人体の特性や感覚を分析する手段として注目されています。
自動車の振動の測定は、機械の機能としての数値を測定するだけでなく、それを人間がどう感じるかを考える「人間中心設計」に生かされていこうとしているのです。
振動・騒音を抑えた乗り心地の良い車を開発するには?
自動車の振動と騒音を抑える設計とは?
車が道路を走っていると、路面の凹凸やエンジン内部での爆発など多くのきっかけで常に振動や騒音が発生します。そもそも振動と音とは、周波数の低いものが「振動」、高いものが「音」なので、元は同じです。車の中でずっと振動や騒音にさらされると、不快感や疲れが出てきます。振動はどうしても発生するものなので、不快にならないよう抑える工夫が必要です。
振動や騒音には、車の重量や材質、設計が大きく関わってきます。工業製品としての自動車、特に日本車の市場を考えると、低燃費で軽く、コンパクトな車を、静かで乗り心地良くつくる必要があります。設計面では、ボディの骨格や、屋根を支えている柱などの強度が重要です。車体全体では軽量化をめざしますが、必要なところのみ十分な剛性(硬さ)を持ったものを配置して振動を抑えます。間違った配置にすると振動が大きくなる場合もあるので、最小限の板や骨組みを使って効果的に振動を抑える構造をつくるのです。
コンピュータで予測し実物で実験
設計にあたっては、コンピュータの予測技術を使います。図面上で車のボディをメッシュ状に細く分割して、質量やバネ特性をそれぞれの要素ごとに分析して、計算で振動を予測していく「有限要素法」というシミュレーション方法があります。その後、実際につくった実物に機械で振動を加え、振動の伝わり方の特性を調べ、予測が正しくできているかを確認する「加振実験」も行います。
問題解決への鍵は力学の基礎
自動車は構造・機構がとても複雑ですが、設計にあたって何か問題が起きた時に、力学の原理原則に立ち戻って考えることが必要です。場当たり的に問題が解決しても、ある技術がこの車には使えたけれど、ほかの車には応用できないというのでは意味がないからです。問題解決のために、その技術がなぜ使えたのかがきちんと説明できる、物理学の基礎にのっとった考え方をすることが、ものづくりには大切になるのです。
高校生・受験生の皆さんへのメッセージ
機械工学科で振動や騒音の研究をしています。私は高校生のとき、物理学、特に力学に興味がありました。その力学をものづくりに応用できるところに魅力を感じて機械工学科に進みました。
振動・騒音の研究とは、具体的にいうと、例えば静かな自動車、乗り心地のよい車をつくるためにはどういう技術をそこに投入して力学的な解析をしていけばよいかということを探っていきます。物理学、力学に興味があるならとても面白い、やりがいのある分野だと思いますので、ぜひチャレンジしてください!
夢ナビ編集部監修