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システムデザイン学部 機械システム工学科
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むだ時間が加わった「非線形システム」を制御するには
制御が難しい「非線形システム」
制御工学は、ものを意のままに操るために、ものの動きをどう制御するかを研究する学問であり、それを数理的に行うのが、制御理論です。
入力と出力の間に一定の規則がある「線形システム」を制御するのは比較的簡単ですが、入力と出力との関係が複雑な「非線形システム」を制御することは極めて難しく、特に入力や出力の観測値に「タイムラグ(むだ時間)」が生じる場合は、制御の難しさはさらに増します。
シミュレーションをもとに火星探査機を操作
例えば、1997年にNASAが火星で調査を行った際、探査車はその操縦のほとんどを地球から行っていました。地球から探査機へ信号が到達し、探査機から再び地球へ信号が戻るまでには、往復で20分余りもかかるため、NASAでは送った信号(入力)で探査車がどう移動(出力)したかを確認する前に次の信号を送らなければなりません。そのため、NASAでは、探査車からの映像を元に3次元シミュレータを構成し、シミュレータ上で20分後の予測した位置を見ながら、探査車を操作したのです。
このようにむだ時間を持つシステムを制御するには、未来の状態を予測するなど、むだ時間を考慮した制御系設計が必要になります。そのような補償がないと、システムは十分に制御できず、さらにはシステムの不安定化を生じます。
むだ時間を考慮した制御設計を
むだ時間の影響を抑えるためには、未来の振る舞いをあらかじめ予測したり、安定性が保てるむだ時間の長さの範囲を考えて制御の仕組みを設計する必要があります。むだ時間補償の重要性は以前から認識されていましたが、むだ時間を持つ非線形システムの制御理論が活発に研究されるようになったのは、比較的最近です。その背景には、インターネットを経由したロボットアームの操作など、さまざまな遠隔操作が可能となる環境が整った結果、機械をスムーズに動かすために、信号の遅れという、むだ時間の影響を抑える必要性が高まったことがあります。
「同期」作用で、群れ全体の制御
セグウェイの原理は「倒立振子」
手のひらに、ほうきや傘を立ててバランスをとる遊びをしたことがある人も多いでしょう。倒さないためには、それらが傾く方向に手を動かしますが、これと同じ仕組みの実験器具に、「倒立振子」があります。逆立ちさせた振子の支点を乗せた台車を、モーターを使って左右に移動させることで、倒立状態を維持させるというもので、制御工学を学ぶ際によく用いられます。
ちなみに、この倒立振子の原理を使っているのが、電動の立ち乗り二輪車「セグウェイ」です。セグウェイは、身体を傾けると、傾けた方向に動きますが、これは、倒立振子の「まっすぐ立たせる」という機能を応用したものです。
「同期」作用で群れ全体を制御
では、複数の倒立振子を倒立させるには、どうすればいいでしょうか? それぞれの倒立振子を制御する方法もありますが、1つ目の振子の運動にほかの振子の運動を同期させるという方法もあります。「同期」というのは、多数集まった同一のものが、互いに影響を及ぼし合うことで同じ動きをする現象を言います。バラバラにリズムを刻んでいた複数のメトロノームが次第に同じリズムを刻むようになるのは、代表的な同期現象です。倒立振子では、まず1つ目を倒立させ、それに2つ目以降を同期させることで、すべての倒立振子を倒立させることができます。このような同期による制御原理は、手術支援ロボットでも用いられています。
個体相互の関係で全体を最適化
全体の動きを制御する場合、構成する個々の要素の動きを制御して全体を制御する方法がありますが、上記の例のように、ほかとの相互関係をもとに群れ全体を制御する方法もあります。こうした例は、自然の中にも存在します。
例えば、V字になって飛んでいる渡り鳥の群れは、ほかの鳥との相互関係をもとに、群れ全体のエネルギー効率が最大になるようなフォーメーションを形成し、さらに羽ばたきも位置に応じて同期させて飛んでいることがわかってきました。このような自然原理を人工物の群制御に応用する試みを行っています。
高校生・受験生の皆さんへのメッセージ
研究を行う上では、「自分で考える力」が必要となります。
そのためには、自分自身の考え方や価値観を持つことが大切です。その一方で、偏狭な考えにとらわれずに、広く周囲を見渡し、さまざまな知識や考え方を吸収していくことも重要です。そうした力をつけるためには、コミュニケーション能力も欠かせませんので、ぜひ、周囲のさまざまな人と積極的に交流を図ってください。それが、あなたの大学での学びを、より深いものにしてくれるはずです。
夢ナビ編集部監修