キービジュアル

東京都立大学の「学び」を体験! ― 相馬 隆郎

Profile
相馬 隆郎 准教授
  【教員紹介】

システムデザイン学部 電子情報システム工学科

キーワード
ロボット, 歩行, 人(人・ヒト・人類)

人型ロボットの2足歩行制御のために人間の歩行を学ぶ

イメージ1
簡単なようで難しい2足歩行

私たちは日頃まったく意識することなく2足歩行を行っていますが、ロボットにとって安定的に歩くことは困難なタスクです。人型ロボットの2足歩行の研究が始まって以来半世紀がたちますが、現在でも人の能力を上回るロボットは開発されていません。2足歩行ロボットを開発するためには、人の歩行の仕組みを理解することも重要です。
人の歩行の特徴は3つあります。一つは脚の構造そのものが持つ安定性を用いて歩く点、二つ目は脊髄などの神経系を利用して歩行する点、三つ目は脳を用いて高次の運動制御を行う点です。人は状況に応じてこれらを巧みに使い分け、頑健でエネルギー効率のよい歩行を行っています。

骨格のみで歩く受動歩行

緩やかな斜面をリラックスして下る際、ほとんど脚力を使わないにもかかわらず転ぶことなく安定して歩くことができます。この歩き方は受動歩行と呼ばれています。一般に、歩行に限らずさまざまな現象を安定化させるには「状況に応じて対象を制御する」という考え方が必要になります。例えば自動車を一定速度で走らせたいなら、現在の速度に応じてアクセルやブレーキを加減することが必要です。しかしこの受動歩行では制御する仕組みを持っていないにもかかわらず、坂道の角度に応じた一定の速度に歩行が収束していくという現象がみられます。これは脚の構造そのものに安定化の仕組みが存在していることに起因しています。

神経系のリズムが歩行動作を作る

傾斜のない路面を歩く場合は、脚を自律的に前に出すための筋肉やその動きを制御するための神経回路が必要になります。歩行時の筋肉の動きはCPG(中枢パターン発生器)と呼ばれるニューロン群によって制御されます。CPGの振動現象によって一定リズムの電気信号が出力され、これに基づいて脚の筋肉が収縮することにより歩行動作が生じます。受動歩行と同じくこの歩行も単に動きを生成するだけでなく、路面に変化があっても転倒しないよう歩行を安定化させる機能をもっていることが知られています。

人間を超える2足歩行の人型ロボットは誕生するか

イメージ2
脳を用いた高次の歩行制御

人とロボットの歩行の違いはどこにあるのでしょうか? 歩行中に急な障害物を回避したり、大きな加減速や進路変更を行うには、脳による制御が必要になります。目的の動作を行うために次の脚をどのタイミングでどこに着けばよいか、またどの程度の力で地面をけるかなどの判断は、主に小脳や大脳基底核が行います。私たちは幼少期に歩く練習を繰り返す中で、歩行中のさまざまな状況に対応した脚の使い方を学習し、脳内に安定化制御のためのフィードバック回路を作り上げていると考えられます。

高速計算によるロボットの歩行

一方、人型ロボットの多くは、コンピュータで厳密に計算された軌道を追従するようにアクチュエータを動かすことで歩行を行います。具体的にはロボットの位置と、床から受ける力の関係を表す運動方程式を数値的に解き、歩行に必要となるアクチュエータの出力を求めます。これを数ミリ秒毎に計算し直すことで、転倒しない歩行を実現させています。現在ロボットの歩行は人より劣りますが、計算機やアクチュエータ、センサの高性能化を考えると、将来的には人の歩行能力を追い抜く可能性を秘めています。

人型ロボットへの期待と懸念

震災にともなう原発事故を機に、災害救助、極限作業用として人型ロボットの有用性が見直されています。また少子高齢化の進む日本では介護や家事支援の需要も高まり、今後私たちの生活の場にロボットが入り込んでくるでしょう。しかし、人の運動能力を超えるロボットの実現には一抹の不安を感じるのも事実です。例えば人は時速30km程度で走ることができますが、今後それ以上の速度で走る人型ロボットが開発されるかもしれません。そのようなロボットが街なかを走る姿を想像すると、少なからず違和感を覚えます。これまで人の運動能力を超えるロボットはSFの中だけの話と考えられてきましたが、近い将来実現される可能性は少なくありません。その際、ロボットをいかに活用、または制限していくかについて、社会全体で考えていく必要がありそうです。

高校生・受験生の皆さんへのメッセージ

大学進学の際の学科選びはとても大切です。例えば私が所属する電気電子工学コースの学生についていえば、その多くが卒業後電力関連や電機メーカー、鉄道・自動車関連企業で活躍します。当然ですが製薬会社に入って新薬の開発をする人はまずいません。その意味で、専攻する学科をどこにするかは、4年間の学生生活を左右するだけでなく、その後何十年と続く自分の職業生活の方向性を大きく決定づけることになります。大学進学は人生の大きな分かれ道です。将来振り返ったときに「良かった」と思える選択をしてもらえればと思います。


夢ナビ編集部監修